019 変身魔法は成功したかにゃ~?


「へ~~~ん、しん。とう!!」


 わしは掛け声と共に腕を回し、跳び上がる。こんな事は必要ないけど、雰囲気は大事じゃ。こっちの方が、かっこいいじゃろ?


 わしの体が変化して行くにつれて視野が高くなり、しだいに止まる。変身が完了したのを感じ取ったわしは目を閉じて、まずは体の感覚を確認する。


 おお! 猫の体じゃない。手、指、足、懐かしい人間の感覚じゃ。少し動かし辛いけど、猫に慣れていたからじゃろう。リハビリをしたらいける!


 次に目を開けて、手と水鏡に映った姿を確認する。


 に、肉球!? 毛深い……爪! 水に映ったわしの全身もがっかりじゃ。なんじゃこの体は! 身長も1メートルぐらいしか無いし、頭もデカイしモフモフ!

 さっきまでのわしが二足歩行になっただけじゃ。魔力量、少な過ぎたかのう? いや、これはまだ実験段階じゃ! とりあえず、体と維持する魔力量を確認しておこう。


 体は幼児体型か……どちらかと言うとぬいぐるみ。手は握れるけど拳は丸い。足は短い。息子さんは、毛で見えないけどいらっしゃる。動けそうじゃけど、二十歳のわしから掛け離れておる。

 魔力量は減っておらん。吸収魔法で相殺……重力魔法を切れば、やや吸収の方が多いか。容姿を無視したら、このままがベストなのかもしれん。だが、わしは諦めない!


 次は、多めに魔力を注いでみるか。ご、五割いっちゃう? 一割で幼児なら、中学生ぐらいにはなれるんじゃなかろうか。全部使うと維持できないし、一瞬で倒れるじゃろうしな。五割……やってやる!


「変身じゃ~~~!」


 わしは変身魔法の完了を感じると、水に映った自分の姿に愕然がくぜんとして地面に手を突く。


 orz ……あ、出来た。違う! 五割も使ったのに、ちょっと背が伸びただけじゃ!! 中学生どころか、全然変わっておらん。毛もモフモフのままじゃ。

 これは魔法書に書かれていない条件があるのか? う~ん。わからん。わからんが、五割も使ってこの結果では、わし激オコじゃ!!


 あれ? 力が……抜けて行くよ? ……バタンキュー。





 ん、んん~。倒れたか……猫に戻っておる。五割は一分ぐらいしか持たんかった。これじゃあ戦闘すら出来ん。腹も減ったし、飯にするか。


 わしは空気の入れ替えをして外に出る。そして次元倉庫から肉を取り出して、むしゃむしゃと食べながら昨日の事を考える。


 昨日、倒れる前の時間ぐらいかのう。丸一日寝てたってところか。結局昨日は変身しかやってないな。明日野郎は馬鹿野郎って自分で言ったのに、馬鹿野郎になってしまった。

 いやいや。昨日のは事故じゃ! ノーカンに決まっておる。今日はどうするかのう? 変身の二割ぐらい確認しておくか。


 わしは家の中に戻り、水鏡の前で変身魔法を使う。


「変身っと」


 結果から言うとダメダメじゃ。魔力の減りが早い早い。十分もしない内に魔力の半分を持って行かれた。見た目もぬいぐるみで、微妙に背が伸びたぐらいじゃ。

 使うなら、一割のぬいぐるみがベストか。まぁ手が使えるから包丁ぐらい使えるじゃろう。いや、そこは剣を使えよ! ハァ~~~~~。


 渾身の一人ボケツッコミにもため息しか出ない。一人ボケツッコミが面白くなくてため息を吐いたわけではない。思考がまだ主婦だったから、ため息が出たんじゃ。ホンマホンマ。

 まぁ変身出来たんじゃ。ぬいぐるみっぽいけど成功じゃろう。成功としておこう。来年には魔力量も増えて、ニヒルでダンディなわしになっておるはずじゃ。

 そう思わんとやってられん! 変身は慣れるまで家の中でして、外では猫又で行こう。


 今日は狩りをして、帰ったら自棄やけマタタビをしましたとさ……チキショウ!!



 変身魔法を覚えて一週間……わしは気付きました。


 服が無い!


 猫生活が長かったせいで気付きませんでした。お見苦しい物を見せてしまい、申し訳ありません。って、わしは誰に謝っているんだか。

 と言うわけで、服を作ります! 材料は変身した時の為に取っておいたボス狼の毛皮と、その他適当に集めていた皮を使います。手も使えるようになったから、なんとか出来るはずじゃ。


 まずは毛皮を、自分サイズの上下を風魔法でカットして穴を空ける。動物の皮を細くカットして穴に通す。あっと言う間に、ボス狼のポンチョと腰巻が出来ました!

 うん。ワイルドじゃのう。毛皮オン毛皮。ぬいぐるみに毛皮を着せるセンスは、わしの発想にもなかったわい。モフモフしてて動きにくいし、せめて布が欲しいのう。

 そう言えば、糸を吐く生き物がおったはずじゃ。青虫みたいでわしよりでっかい奴。気持ち悪いからすぐ逃げたんじゃが……嫌じゃけど、会いに行ってみるか。



 わしは変身魔法を解除して、青虫の住み家に重たい足を進める。しばらく走ると、糸が張り巡らせた青虫の縄張りに到着したのであった。


 久し振りに来たな。この世界の青虫は、張り巡らせた糸に獲物をからませて捕食するみたいで、女猫がからまって大変じゃった。

 動くなって言っておるのに動くから、よけいからまって取るのに苦労したわい。この糸を、なんとか布に加工できんもんか。ベトベトしてない糸が無いかな?


 わしは張り巡らせた糸を、前脚にくっつかないように触って行く。


 全部同じ種類かのう。ベトベトじゃ。次の糸は……くっつかないが、強度がいまいちか。吐き別け出来んかのう?


 糸を触っていると、わしをエサと勘違いしたのか一匹の青虫が現れた。


 キモイ。それにデカイ。1メートルオーバーじゃ。子供の時は大丈夫だったんじゃが、大人になってからは見るのも嫌じゃ。

 何か不思議そうな顔をしておるが、ヤル気かのう? 攻撃して来たらこっちも手を出すんじゃが、ハッキリせんな。この睨み合いも気持ち悪いから早く終わらせたい。あまり気乗りしないが、念話を使ってみるか。


「おい! ちょっといいか? お前の糸を分けてもらえんか?」


 う~ん。とぼけた顔をしてるから、通じてるかどうかわからん。エサで釣れるかな? あとは関西人の押しの強さで押し切る! 関西弁ならフランス人にも通じたからいけるじゃろう。


「ええか~? 獲物と糸と交換や! くっつかなくて丈夫な糸や! わかるか?」


 わしは関西弁でまくしたてて狼を出す。青虫は近付いて糸を吐き、狼に糸を巻き付けようとするので、わしはそうはさせまいと狼を次元倉庫に仕舞う。


「だから糸と交換や! これやこれ! ちょっと出してみい……それやない! くっつかなくて丈夫なのって言ってるやろ!」



 わしの小一時間の関西弁が通じたのか、注文通りの糸が出来上がる。青虫が糸を吐く中、わしは拾った棒に糸を巻き付けて行く。

 糸を吐き続ける青虫は、限界が来たみたいだったので終わりにして、サービスで狼をもう一匹付けると喜んでいるようだった。


「ありがとさ~ん。また来るで~」


 わしは礼を言ってホクホク顔で我が家に帰る。後日、糸が足りなくなったので貰いに行ったら五匹の青虫に囲まれて、大量の糸と獲物を交換させられた。次に行くのがちょっと怖いわしであった。



 糸も手に入ったし、次は工作じゃ。はた織り機を作ろうと思う。子供の頃、婆さんが使っていたのを見ていたから、なんとか作れるはずじゃ。


 わしは土魔法で四苦八苦しながら、はた織り機の形を作り出す。これで出来るかと試してみたがなかなか上手くいかず、完成には時間を要した。


 糸からやっと布になり、わしは気付いた。針が無い! 服を作るだけで、次々と難題が出て来よる。針と言えば鉄か~。土魔法の上位互換で、鉄魔法とか鉱物魔法とか無いかな?


 わしは魔法書を読み漁り、また数日掛かけて、やっとこさ鉄を扱える魔法を発見した。


 鉄魔法を使う方法はふたつ。

 ひとつは魔力を鉄に変換して作り出す。この方法は、魔力の使用量が多過ぎて、拳大の塊を作るだけで魔力量の三割を持って行かれた。

 もうひとつは土や鉱物から抽出する方法。これは土魔法と変わらない魔力の使用量だが、鉄が近くにないと多く集まらない。我が家付近の地質では、砂鉄が少量しか含まれていないので、鉱物を含んだ土地を探さないといけない。

 この点から考えると、戦闘に使えるほどの魔法ではない。


 いろいろ試した結果、少量の鉄が手に入ったから針は作れるな。鉄魔法で形状変化させるぐらいはちょちょいのちょいじゃ。

 強度はどうかわからんが、それも重力魔法で圧縮してやればいいし、火魔法や水魔法で鍛冶の真似事でもすればよいじゃろう。


 てか、これって……剣作れるんじゃね?


 また気付いちゃったよ。鍛冶じゃ! 敵は剣を使っておったんじゃから、針よりも剣を作らねば!! まぁ衣食住の衣も大事か。毛皮を着ているように見えるけど、素っ裸じゃしな。

 剣を作るなら、やはり日本男児みんな大好き日本刀がよいのう。いまの鉄の量じゃ足りないから、練習がてら包丁でも作るか……また衣食住に気持ちが向いておる。先に服を仕上げてしまおう。



 と、言う事で、出来ました! 出来上がった布をチクチクと手縫いすること数日。やっと出来たよ、着物! 猫から変身した時に着やすく、日本刀を持つ予定じゃからはかまは無しの着流しスタイルにしてみました。

 青虫の見た目はアレじゃが、白い布の肌触りのいいこと。将来背が伸びるじゃろうし、すそを詰めて対応しておる。草を編んで、草鞋も作って履いてみた。

 似合っておるじゃろう? 染色が出来ないから、真っ白なままじゃけど……


 いまのところ、鉄集めで刀はまだ作れていないが、包丁と木刀は作ってみた。包丁はあまり切れ味がいいとは言えんが、まだ練習段階じゃから問題ない。

 問題だったのは木刀じゃ。背が低いから普通の木刀じゃ大き過ぎて、脇差ぐらいの大きさがわしの見た目ではちょうどよさそうじゃ。

 木刀は頑張って削ったのに、生えている木に打ち付けたら木っ端みじんになって、悲しい思いをした。頑張って風魔法で数分で削ったのに……どうやらわしは、かなりの力持ちみたいじゃ。


 いまは大きめに作った木刀に、重力で圧縮した脇差サイズの木刀を使っておる。なかなか丈夫じゃが、全力を出すのは怖いのう。


 次は衣食住の住かのう? 我が家はおっかさんサイズに合わせて作っているから広すぎる。別に穴を掘って離れを作るか、家の中を仕切ってわしの部屋を作るか。包丁もフライパンも作ったし、キッチンも必要じゃのう。


 今日はもう遅いし、明日にするとしよう。

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