020 出会いにゃ~
我輩は猫又である。名前は諦めた。
おっかさんが殺されてから早三ヶ月。わしはいろいろと行った。
変身魔法で
わし専用の部屋を作り、ふかふかのベッド、キッチンも使いやすく器もある。中でも目玉は照明じゃ。光魔法で照らすのは面倒になったので、電球を作れないかと魔法書と格闘して雷魔法を覚えた。
鉄魔法で鉄を集められるんだから、ガラス魔法もあるのではと探したら見付かった。鉄魔法でフィラメントと鉄線。ガラス魔法で球体。風魔法で真空状態にすることで電球は完成した。
しかしバッテリーが作れなくて、苦労して作った電球が使えない事が判明する。
八つ当たりと練習を兼ねて元ボス狼の角に雷を落としまくっていたら、角に雷が貯められる事に気付いて照明設備が完成した。
そしてまた気付いてしまった。わし、修行してなくね?? と……
兄弟達を救う為に修行するんじゃった! ちょっと工作が楽しかったから張り切り過ぎた。おっかさんに見られたら悲しまれる……う~ん。おっかさんの喜ぶ顔しか思い浮かばないな。
いちおうこれも修行の一環じゃぞ? 無駄に魔法を使っていたから魔力総量も跳ね上がっておるし、散歩を兼ねたランニングも重力を掛けてやっておるから力も付いた。
本当じゃぞ? 無駄とか散歩とか真面目さが足りないか……
う~ん。他の修行か~……滝に打たれてニンニン言ってみるか? 強くなれるのかな? 重力を掛けてるわしには無用だし、ニンニン言ってたらまた真面目じゃないと怒られてしまう。
よし! 強そうな奴に喧嘩売ろう! 戦っていたら修行っぽく見えるじゃろう。でも、わしの縄張りの近くに住むめぼしい動物はイジメてしまって向かって来ないんじゃよな~……遠出してみるか?
これなら道場破りみたいで修行っぽいんじゃなかろうか? うむ。間違いなく修行に見えるはずじゃ。
とりあえず変身した状態はまだ自信が無いから、今回は猫又モードで行こう。そうと決まれば、まずはお弁当じゃ! ……この発言が、また修行から遠退いてしまったのう。わし、反省。
その後、わしは新たな敵を求めて、三時間ほどひた走るのであった。お弁当持参で……
さぁて、やって来ました未開の地! ここはどんな動物が居るのかな~? キョロキョロ。おっ! 木に爪痕が付いておるな。あの高さだと熊かな?
熊VS猫か。どう考えても100%熊の勝利じゃ。ギャンブルならば、わしも熊に賭けるな。だがしかし、わしは猫又じゃから、番狂わせしてやるわい。
わしは探知魔法を使い、見付けた熊に無防備に走り寄って行く。
ある日、森の中、熊さんに、出会った~! 熊さんもやる気満々で立ち上がって威嚇しておるな。二メートル以上あるけど茶色か。黒の角付きじゃないと相手にならんのじゃがのう。
まぁよい。挨拶代わりのネコパ-ンチ!
わしは速さを活かして熊の懐に潜り込み、腹部にネコパンチを打ち込む。熊はわしの速さについて来れず、なす
やっぱり相手にならん。弱い者イジメにしかならんのう。これだけの力量差も見せた事じゃし、逃げて行くじゃろう。
だが、逃げると思っていた熊は立ち上がり、わしに襲い掛かって来た。わしはひょいっと避けると同時にネコパンチを入れる。それでも熊は諦めずに手を、爪を、牙を振るい、攻撃の手を緩めない。
わしはその攻撃を紙一重でかわして行き、バランスを崩した熊の横っ腹に再度、ネコパンチを放つ。そのネコパンチは最高の角度で減り込み、ついに熊は地面に沈むのであった。
ナイスファイトじゃった! 相手にならんとか言って申し訳ない。熊さんの戦いに敬意を評して、痛みが無いように一瞬で命を刈り取ってやる。
わしが【鎌鼬】を放とうと熊に近付いたその瞬間、草むらから二匹の子熊が飛び出して来た。子熊は親熊を心配するように「くぅ~ん」と鳴きながら寄って行く。
何か居るとは気付いておったが、子熊か……一気に殺す気が失せてしまった。どうしよう? 殴っただけじゃし、骨折してなかったら死なないかな?
それでも打撲で数日狩りが出来ないかも。家族全員飢え死にしてしまう。
わしがうんうん悩んでいると、親熊が目を覚まし、不思議そうな顔でわしを見詰める。子熊もそれに合わせて、つぶらな瞳でわしを見詰めて「くぅ~ん」と鳴く。
うぅ……かわいい。そして、いたたまれない! もっと注意深く周りを見ておけばよかった。親熊は、子熊を守る為に必死じゃったんじゃな。お詫びに狼でもやろう。
わしは次元倉庫から狼を取り出し、熊家族の目の前に置く。熊家族は不思議そうな顔をしたが、お腹が減っていたのか勢いよく食べ出した。
食べ終わるとお礼のつもりかわしにスリ寄って来たので、わしも久し振りのスキンシップを味わう。わしは気分が良くなったので狼をもう一匹置いて、熊家族の元を去るのであった。
やっぱり家族はいいのう。温かみが全然違うわい。熊家族をお持ち帰りしたら、あの広い我が家も温かくなるかな? でも、いきなり子持ちもアレじゃし、大黒柱が猫ってのもおかしな話か。
兄弟達が戻って来たら食べそうじゃからやめておこう。しかし、女猫じゃないが、モフモフはよかったのう。
わしは「にゃんにゃん」と気分良く鼻歌交じりに歩いていると、探知魔法に珍しい反応が引っ掛かった。
この反応は……人間か? 五人も居るな。化け物騎士ではなさそうじゃが、こんな所に人間が居るとは、何をしに来たんじゃろう? 気になる……ちょっと見に行くか。強そうじゃったら、逃げればいいじゃろう。
わしは軽い気持ちで探知魔法に引っ掛かった方向に歩を進める。そして人間を発見すると、身を潜めて観察する。
全員若い
それは置いておいて、剣や弓を持ているから狩りかのう? 強そうに見えんけど大丈夫なんじゃろうか? もう少し観察するか……
わしは女性の一団を観察しながら追い掛ける。何か言い合っているように見えるが、離れているからよく聞こえない。
なんじゃろうな。あの娘達の緊張感の無さ。ピーチクパーチク喋っておるが、危険な動物に見付かったらどうするんじゃろう?
しかし、あの風貌……剣士二人に槍士、弓士、杖をついているのは魔法使いか? まるで孫とやったオンラインゲームのパーティみたいじゃな。
さっきから何度も同じ道を歩いてるけど迷っているのかのう? あっ! また同じ道に行きよる。
念話を使えば話せるかのう。魔法書には、言語が違っても話せると書いてあったしな。まぁわしの見た目は愛らしい猫じゃし(猫又だけど……)いきなり斬り掛かる事もなかろう。
話す時も、かわいく猫を被れば安心するじゃろう。もう被っているってツッコミは無視じゃ!
わしはゆっくり近付き、女性達の視界に入ると、ちょこんとお座りする。そして敵意は無いと言わんばかりに小首を傾げて「にゃ~ん」と鳴いてみせる。
どうじゃ? かわいいじゃろう? 寄って来ていいんじゃぞ? 撫でるぐらいは許そう。さあ、来るがいい!
わしの姿を見た女性達は、なにやらキャーキャー騒ぎながら話し合っている。
う~ん。なかなかエサに掛からんな。しかしあの言葉……「キュート」だとか「ホワイト」だとか聞こえるけど、英語を使っているのか?
一人、やたらと「マネー、マネー」って言ってる娘もおるし……異世界転生したんじゃから、異世界の言葉じゃないのか?
まぁこれなら、駅前に留学した経験が役に立つかも? いや、猫の姿じゃ喋れないから念話にしとくか。それに英語をネコが喋ったら驚くからな。英語が話せないわけではない。ホンマホンマ。
よし、行くぞ!
「にゃにゃにゃにゃ(もしもし)」
あれ? 念話が繋がらない? ……反応も無いな。動物と人間とは違いがあるのか。繋げるには、ちょっと時間が掛かりそうじゃ。
わしがなんとか念話を繋げようとしていると、一人の女性がゆっくりと近付き、姿勢を低くして手を伸ばして来た。
逃げると思って警戒しておるのう。そう来るなら乗ってやるか。
わしもゆっくり近付く。そうしてお互いの距離がゆっくり近付く中、女性の手がもう少しでわしに触れようとしたその時、不穏な単語が聞こえた。
ん? いま「きる」って言った? 日本語だと「切る」。 英語だと「kill」で殺すじゃな。何を殺すんじゃろう?
わしが考えていると、もう一人の女性がわしに近付き、剣を振り下ろした。その行為にわしは驚き、後方に跳び退く。
「にゃ、にゃんにゃ~~~!(なんじゃ~)」
びっくりした~。この娘はいきなり何をしよるんじゃ。愛らしい猫を斬り付けるなんて、酷い動物虐待じゃ。うお! 弓矢まで飛んで来た。
これは……全員武器を構えてやる気まんまんじゃ。せっかく助けてやろうと思ったのに、後足で砂かけられるとはこの事じゃ。わしはそんな事は……トイレのあとはするな。
いっちょ揉んでやるか! もちろん卑猥な意味じゃないぞ。
距離を取ったわしに、剣士二人が斬り掛かる。わしはさっと避け、一人の足にスリ寄る。そこに槍使いの槍がわしに迫るが、ひょいっと避けて槍使いにもスリスリ攻撃を繰り出す。
どうじゃ! 効くじゃろう? 顔が火照っておるわ。
わしがスリスリしていると、前衛三人が離れた瞬間に【風の刃】が飛んで来る。が、外れた。
へったくそじゃのう。当たりもせん。それに威力も無い。そんなんじゃ、わしに傷も付けられんわ。
女性達は、何度も何度も攻撃を繰り返すが、わしはその都度避けて、スリスリ攻撃。そうこうしていたら限界が来たのか女性達は座り込み、大きな声を出していたのでわしは盗み聞く。
えっと「タイアー」? 「ハングリー」? 疲れて腹が減ったってとこか。無防備に座り込んでおるが、わしじゃなくて凶暴な獣じゃったら死んでおるぞ。本当に大丈夫なのか?
よし。念話もそろそろいけそうじゃ。話し掛けてみよう。ん、んん~。
「もしもし。お姉さん方。わしの話を聞いてくれにゃ」
わしは恥ずかしいのを我慢して、出来るだけかわいらしく語尾に「にゃ」まで付けて話し掛ける。すると女性達は驚き、一斉に念話に応える。
「え、なに?」
「誰の声?」
「どこから?」
「ねこちゃん?」
「これは……念話?」
ぐっ……一斉に喋られると辛い。頭が痛いわい。念話の副作用かのう。いや、この娘達がうるさいだけか……
「ちょ、ちょっと落ち着くにゃ。誰か一人が喋ってくれると嬉しいにゃ~」
女性達はまたギャーギャーと騒ぎ、数分後、代表が決まり、リーダーであろう髪が肩ぐらいまである女性が話し掛けて来た。
「猫ちゃん?」
「そうだにゃ~」
「えっと……話って何かな?」
「お姉さん達は、なんでこんな所に居るのかにゃ?」
「私達はハンターだからよ。えっと、ハンターって言うのは……」
代表の女性は怪しんでいるが、わしの質問に答えてくれる。
話によると、この女性達はハンターと言う職業で、動物や薬草採集、その他雑用で金銭を稼いでいるらしい。
二日前に動物を狩る為に森に入ったが、兎に逃げられ、鹿に逃げられ、狼に逃げられて追っていると、ここまで来て迷ってしまったとのこと。「引き返そうよ」と言いたかったがグッと我慢した。
迷ったあげく収穫は何も無く稼ぎも無いと
「お金より帰る事を優先させろ」と言いたかったが、猫には説教されたくないだろうと思って我慢した。
「にゃるほど~。でも、ここの動物は強くて危険にゃ~」
「それこそ私達の獲物よ」
「私達の敵じゃない」
「高く売れる」
「久しぶりのお肉~」
「ちょっと、怖い……」
わしにいいように遊ばれて、どの口が言うんだか……。一人まともな子が居るが、そんな強気な発言はやめたほうがいいって孫が言ってたぞ? フラグが立つとか言ってたな。いちおう注意しておくか……
今度こそ説教してやろうかとわしが思った矢先に……
「ぐるるぅぅぅ!!」
ほれ、見たことか……
わしの心配を他所に木を薙ぎ倒しながら、角のある大きな黒い熊が現れるのであったとさ。
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