544 阿修羅と戦うにゃ~


 【レールキャット】で阿修羅に刀を突き刺したわしは、高速で西へと飛ぶが、一秒後には地面に足を付けた阿修羅に三本の腕で殴られた。


 ぬおっ!


 侍の勘でなんとか刀での防御が間に合ったわしは、何本もの黒い木をへし折ってから着地。綺麗に足から下りて地面に刀を突き刺し、土魔法で硬い足場を作って止まる。


 あっぶな……せっかく縄張りから追い出したのに、元の位置まで飛ばされるところじゃった。


 距離が開いてしまってはリータ達の元へ向かわれると思ったわしは、すぐに探知魔法を使って阿修羅の元へ走る。すると、ゆっくりと歩く阿修羅が目に入り、わしは止まって【猫干し竿】を次元倉庫から出し、二刀流となる。


 あいつ……どうなっておるんじゃ? みっつの頭と六本の腕があっても、元は人間じゃろ?? ヤマタノオロチより強いぞ……。わしの【レールキャット】も効いておらん。その前の【四獣】も吸われたっぽいな。

 野人みたいにちんこは多そうじゃけど、腰布のせいでわからん。あまり人間の意識は残っていないように見えたのに、腰布を巻く知能は持ち合わせておったのか。


「なかなかやるな。これほどの手練れ、いつ振りだろうか……」


 わしが阿修羅を睨んでいると、歩みを止めて念話を送って来た。


 なんじゃ? さっきは片言じゃったのに、流暢に喋っておる。そう言えば、さっきは真ん中の顔が口を動かしていて、いまは右の顔が喋っておる。顔によって知能が違うのか?


「お褒めいただき光栄にゃ。出来れば逃がして欲しいんにゃけど、ダメかにゃ?」

「笑止! 我が帝国に弓引く者は排除する!!」


 今度は左の顔? 帝国なんて、とっくに滅んでるはずなんじゃけど……何を言っておるんじゃ?


「もう帝国にゃんて無いにゃ。いい加減認めて、その肩の荷を下ろすにゃ」

「コロス……テキ、ニンゲン、スベテコロス」


 また真ん中か……。こいつは話になりそうにないから、右の奴に代わって欲しいな。


「そっちの顔の人! お前にゃら理解できるにゃろ!!」

「コロス!」


 わしが刀で指した顔は答えず、真ん中の顔が答えてわしに突っ込んで来た。


 はやっ!?


 わしが気付いた瞬間には、もう懐。振り下ろされるみっつのまとまった拳は避けきれず、刀をクロスして防御をするのだが、わしは地面に深く埋まる。

 なので、土魔法で1メートルほど前に進んで、阿修羅の真下に穴を開けたと同時に跳び上がる。そして、再び突き。今度は二刀流での十段突きだ。


 チッ……かったい奴じゃ。


 いちおう全てヒットしたのだが、阿修羅は吹っ飛んだだけで終わった。


 人体の弱点なんじゃから、ちょっとは痛がれ。玉と穴まで硬いなんて、チート過ぎるじゃろう。触れたくないのに、我慢して愛刀を突き刺してやったんじゃぞ。

 しかし、思った通り、【吸収魔法・球】を纏っている者どうしは攻撃が通るんじゃな。いや……若干わしのほうが纏っている範囲が狭いから、弾力があったか。


 わしが分析をしながら阿修羅を見ていると、中央顔の口が開いた。


「がああぁぁーーー!!」


 阿修羅の【咆哮ほうこう】だ。一瞬、受けて魔力を吸収してやろうと考えたが、念には念を入れてギリギリでかわす。そして実験の為に、吸収魔法を纏った刀を中に入れてしっかり耐える。


 おおう……避けておいて正解じゃった。この威力では、吸収魔法が剥がれてしまって痛手を負っていたわい。


「があっ!!」


 気付いてるっちゅうの!


 エネルギー波より速く動いた阿修羅はわしの背後に立っており、蹴り飛ばそうとしたので後の先。体を捻りつつ回転するように移動し、遠心力を使って阿修羅の軸足に二本の刀をぶつける。

 すると阿修羅はケンケンして前に進み、自分の放ったエネルギー波にかすって転がった。


 残念。自爆もダメージ無し。直撃させたらなんとかダメージを与えられるじゃろうが、自分の出した物を直撃なんて無理じゃ。


 阿修羅はすぐに立ち上がると、わしに突撃。みっつの右拳を纏めて振るうが、わしはかろうじてよける。しかしその途中で一本の腕がわしに向かい、またしても吹っ飛ばされてしまった。


 いった~……なんとか後ろに飛んだけど、まともに入ったらダメージ大じゃ。侍の剣がなかったら、とっくに死んでおったかもな。

 てか、腕は別々に動かせるのか……厄介じゃな。毎度、途中で変化されたら、いいのをもらってしまいそうじゃ。


 さて、わしの勝ち筋を探さねば、時間を掛ければ掛けるほど集中力が削がれる。早く打開策を探さねば……


 わしが考え事をしていたら、阿修羅はもう目の前。今度は大きく後ろに飛んで、軌道の変わった腕すらかすらせない。

 その着地先には、すでに追い付いた阿修羅が待っており、みっつの左手でわしを掴もうとするので、地面の土を集めて【土壁】を作り、それを蹴って逆に飛ぶ。

 いくら土を固めた物を出して吸収を遅らせようとしても、阿修羅からしたら柔らかい壁なので、簡単に破壊された。


 これもダメ。じゃが、目眩めくらまし程度にはなるか。


 わしは【土壁】を何十と作って姿を隠す。当然、阿修羅は気にも止めず前進するので、わしは回り込むように移動し、背中を取ろうとする。


 あまりチャージできんが致し方ない。


 移動しつつ、次元倉庫から魔力を補填しながら雷に変換して五倍ほど溜めたら、阿修羅の背中に放つ。


「にゃ~~~ご~~~!!」


 【五倍御雷みかずち】だ。阿修羅の攻撃する動きに合わせて放ったので、見事に直撃。ただし、ほとんどが吸収されてしまったようで、二倍ほどの威力にしかなっていなかったが、それでも問題ない。


 喰らえ~~~!!


 渾身の【レールキャット】。阿修羅に【御雷】が当たった瞬間にわしは飛び込む。そして、左手の【白猫刀】には内部破壊の気功、右手の【猫干し竿】には斬撃気功を乗せて、ばってんに斬ってやった。

 わしの最強コンボを胸に喰らった阿修羅は、一撃目で背中が爆ぜ、二撃目で深く斬り裂かれ、遠くに吹っ飛んで行った。


 どうじゃ? いくらわしより倍以上強くとも、【御雷】で吸収魔法の膜を剥がされたなら、大ダメージじゃろう。



 わしは阿修羅のダメージを確認しようと走り出そうとしたが、すでにわしの元へと戻って来ていた。


「くははは。いつ以来の痛みだろうか。いい攻撃だったぞ!」


 マジか……野人は痛みに弱かったのに、右顔は喜んでおる。しかも、かなり深く斬ったのに、もう塞がり掛けておる……魔法か? 使っている素振りもないから、単純に治りが早いのかも。

 こんな化け物、どうやって倒せと? いやいや、弱気になってどうする! 一歩でも引いたら、わしは一瞬で殺されるぞ!!


「そろそろ我も、体が温まって来た頃だ。本気を出してやろう」


 右顔がそんな事を言ったかと思ったら、阿修羅はわしの目の前から消えた。どこに行ったかと言うと、わしの真後ろ。

 侍の勘でビビビッと後ろを取られるイメージを感じ取ったわしは、【光盾】を三枚出す。阿修羅のパンチで次々と【光盾】は割られるが、目的は減速。その隙に、前に飛びながら体を捻る。

 その時には、真横に阿修羅が居たので、これも【光盾】を三枚出して横に飛ぶが、また回り込まれてしまった。


 チャンス!


 阿修羅が【光盾】を割っているということは、吸収魔法の膜が無いということ。振るったパンチに合わせて、斬撃気功を乗せた突きを放つ。


「グギャーーー!!」


 阿修羅の右手、真ん中の拳から突き刺さり、手首をちょっと超えた辺りまで【白猫刀】が埋まると、意外にも中央顔が叫び声を出した。


 くそっ! 抜けん!!


 【白猫刀】を引っこ抜こうとするがビクとも動かないので、わしは手離す決断をするが、少し遅かった。


「がはっ!?」


 残り二本の右拳がわしを叩き上げ、すかさず三本の左拳がわしに追撃。モロに喰らったわしは血を吐き、吹っ飛ばされる。


 ただで喰らってやるか! 【四獣】!!


 しかし、わしは置き土産。凄まじい速度で離れる中、【朱雀】【白虎】【青龍】と順にぶつけ、【玄武】を落とす。

 狙い通り、【四獣】は全てヒット。【朱雀】で燃やされ、【白虎】で切り刻まれて炎は大きくなり、【青龍】の巻き付きで一気に冷やされ、超重量の【玄武】で押し潰される。


 その間わしは遠くに吹っ飛ばされるが、木にぶつかって折れた瞬間に、切り株を掴んで着地する。


 くう~……何本か骨がいった。痛いの痛いの飛んでいけ~!


 わしは回復魔法を使って完全回復。そして、阿修羅が居た方向に目線を向ける。


 アレでダメージになってくれていたらいいんじゃが……見込みは薄いのう。

 とりあえず、元の姿に戻るか。吸収魔法の膜があるから武器のほうがダメージを与えられると思ったけど、さほど効いておらんしのう。


 わしは元の猫又に戻ると、【吸収魔法・甲冑】と肉体強化魔法を掛け直す。するとその直後に【玄武】は弾け飛び、阿修羅が姿を現した。


 くっそ~……わしのかわいい【白猫刀】をへし折りやがって~~~!!


 ゆっくりと歩いて近付いていた阿修羅は、右手に刺さった白猫刀を左手で引っこ抜くと、左にある三本の腕だけで折って投げ捨てる。無残にもふたつに分かれた【白猫刀】が地面に落ちた瞬間、阿修羅はわしの目の前にて拳を振るっていた。


 【土壁四角】!!


 わしは阿修羅を土のキューブに乗せて攻撃を回避。さらに、死角に潜り込んで、複数の【影猫】を離れるように走らせる。

 しかし、三面の顔を持つ阿修羅のみっつの口から【咆哮】が放たれ、全てにヒット。ただし、影なのだから【影猫】にダメージは無く、逃げ続ける。


 阿修羅がどれを追おうかと悩んだ時間を使い、【落とし穴】。土魔法で何百メートルと掘って落としてやった。あとは生き埋め。空気が無ければ死ぬはずなので、何層もの土と泥水で蓋をする。


 どれだけ固めても、あいつの力ではプリンと変わらんか。


 阿修羅は六本の腕で土を掻き、プリンの海を泳ぐように浮上。もちろんわしも待ってやらず、大ジャンプして、下に口を向ける。


 今度は【十倍御雷】じゃ~~~!!


「にゃ~~~ご~~~!!」


 わしは阿修羅が埋まっている内に雷のチャージを行っており、地上に出る前に追撃す……


「シネ!!」

「に゛ゃっ!?」


 残念ながら、不発。【御雷】を発射する直前、わしの真上に居た阿修羅に六本の腕で叩き落とされて、今度はわしが何百メートルと埋まってしまった。



 ぐあぁぁ~! ヤバイ内臓が……さっさと体を治さねば死んでしまう!!


 そうして完全回復すると、埋まっている間に次の展開を考える。


 こりゃ勝てん。ヤマタノオロチなら本能に任せての攻撃じゃから、考えて戦えばなんとかなったが、相手はアレでも人間じゃ。

 わしの隙を突いたり、連続攻撃なんてされてはたまったもんじゃない。一度撤退しかないな。ただ、わしを探し回ってチェクチ族の集落やエルフの里に向かわれても困るし……いや、エルフの里か。

 頼りたくはなかったが、白銀猫でも連れて来てやろうか? 二人がかりならなんとかなるじゃろう。雪だるま猫おやっさんはデカイから、転移できるか不安じゃからな。いや、小さくなってくれたら連れて来れるか。


 さてと、とっととトンズラするかのう。



 わしは転移魔法を使おうとするが、その瞬間に嫌な気配がし、慌てて横にスライドする。

 その刹那、わしのすぐ横をエレルギー波が通り過ぎたかと思ったら、次の瞬間には、下から土が盛り上がって来た。


 最大出力! 【吸収魔法・球】じゃ~~~!!



 大爆発……



 わしの数十メートル下を中心に、エネルギーの塊が破裂し、およそ1キロもの大爆発に巻き込まれるのであった。

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