007 リフォームするにゃ~


 おっかさん達にリフォームを頼まれた翌日、家族はわしを置いて、リフォーム完成パーティーの為の獲物を狩りに出掛けた。


 えっと……おっかさんの希望は、水回り完備の広くて冬でも暖かい家。まんま主婦じゃな。兄弟達の希望は、キャットウォークと謎のモフモフ。とりあえず、掃除からかのう。

 いまさらじゃが、洞穴の中は毛皮やら骨、枯れ草なんかがたくさんあって、元の世界の女房が見たら発狂ものじゃわい。今日中に終わるかな?


 わしは練習した風魔法【突風】を洞穴の中から外に向けて放ち、全てを一気に吹き出す。そして物が無くなった洞穴から出て、外に出した物を確認する。


 毛皮は女猫のモフモフに応えられるかもしれないし、洗って再利用しよう。石鹸が無いからどうするか……女房が服の汚れが酷い時は、お湯に浸け置きしていた気がするな。この方法でやってみるか。


 わしは土魔法で穴を掘り、水魔法で満たす。次に、火魔法で水が沸騰するまで熱してから毛皮を投げ込む。


 沸騰したお湯なら雑菌も死ぬじゃろう。これでしばらく置いてみよう。次の作業に移るか。


 わしは何も無くなった洞穴に戻り、部屋の広さを決める。


 現在の洞穴はおよそ、高さ4メートル奥行き6メートルってところか。おっかさんが3メートルだとしたらじゃけど……。たしかにおっかさんの大きさでは、少し小さいかもしれない。

 さて、どれぐらいの広さにしたものか。高さはおっさかんの体高の倍にして、広さは今の4倍ぐらいの大きさにしておこうかな。


 わしは崩れないように壁や柱を配置しながら土魔法で掘り、床は平らになるように整地をして行く。


 一番奥に寝室で、残りのスペースはL字のリビングを作ってみた。これなら広い空間でも崩れる心配は無いじゃろう。リビングはかなり広くなったけど、修正が必要なら、またおっかさんに聞けばいいか。



 大まかに部屋の形が出来たら外に出て、毛皮を見に行く。


 う~ん。綺麗になっておるかわからんな。水は汚れておるから汚れは落ちておるんじゃろうけど……もういいか。新しい水で洗濯しよう。


 わしは水魔法で操作し、汚れた水を遠くに飛ばす。そして新たな水を作り、毛皮の入った穴に入れると風魔法でシェイクする。これを二回繰り返し、土魔法で作り出した物干し台に干しておく。


 だいぶ魔力を使ってしまった……。魔法を教わってから一ヶ月でかなり魔力は増えていたが、洗濯に使った水魔法と火魔法が痛いな。このペースで持つじゃろうか? 持たなければ明日に継続じゃな。


 わしはまた洞穴に戻り、土魔法を使って数か所、ダクトを取り付ける。火を使う予定だから換気は大事だ。ダクトはわざと壁から突き出して作り、キャットウォークを兼ねる。


 次は冷暖房か……。冷房は、昔見たリフォーム番組からパクリ……ゲホゲホ。インスパイアされた方法を取り入れるか。

 たしか地中深くは気温に左右されず、一定の温度だったはず。井戸水が冷たい理由がそれじゃったはずじゃ。10メートルぐらい掘ればいいじゃろう。


 わしは部屋の隅に1メートル四方の穴をふたつ掘り、地下10メートルでくっつくようにする。そして片方の穴は天井まで延ばしたダクトに繋げ、もう片方は頑丈な蓋をして、人間の拳大の穴を開けておく。


 これでここに弱い風の魔法を撃ち込めば、冷たい空気が出て来るはずじゃ。それぐらいおっかさんや兄弟達でも出来るじゃろう。次は暖炉を作るか。


 わしは寝室の裏側に移動し、リビングと寝室を同時に温めるられるように暖炉を設置する。開閉は、コの字型の引き戸を取り付ける。引き戸の両端に大きな出っ張りがあるので、左右どちらからでも、押して開け閉め出来る仕組みだ。


 重たいけど、わしなら土魔法の操作で開け閉めできる。おっかさんなら軽々押して、開け閉めできるはずじゃ。排気用と通気用のダクトを付けて閉めた状態でも使用出来るから、火に直接触れて火傷する事も無いじゃろう。

 あと作る物は、小物関係かな?


 わしは土魔法を使い、おっかさん用の少し高めの水飲み場、兄弟達の水飲み場、キャットウォーク用の棚をリビングに次々と作り出して行く。


 これで室内は終わりかな? おっと寝室を忘れておった。毛皮は乾いたじゃろうか?


 わしは外に出て、毛皮に肉球で触れてみる。


 もう少しかな? 風魔法で乾かしてっと……うん。いけそうじゃ。これでベッドを作れるな。

 しかしおっかさん達、遅いな。もう日が傾いて来ておる。お昼抜きじゃから腹が減って来たわい。ま、おっかさん達も獲物を追い回して頑張ているじゃろうし、わしももう少し頑張るとするか。


 その辺に生えている草をかじったわしは、水をガブ飲みして作業に戻る。


 干してあった大量の毛皮を風魔法で吹き飛ばしながら寝室に運び込み、カーペットにしたり土魔法で作った箱に丸めて入れて猫用ベッドを作る。おっかさん用は毛皮が足りないから諦めた。


 寝室も完成っと。最後は出入り口じゃな。猫を飼っている人の家で見た上に蝶番のある猫用の出入り口を作るか? いや、3メートルのおっかさんに合う出入り口だと、わし達が危険じゃ。振り子のように落ちて来る扉は怖すぎる。

 ここは無難に壁を二枚、ずらして設置しよう。直接風が吹き込まないようにしておけばなんとかなるじゃろう。


 わしは土魔法で壁を作り、最後に光取りの穴を空けて洞穴を見渡す。


 なんと言う事でしょう。あの小さく殺風景だった洞穴が、デザイナーズマンションの一室に生まれ変わりました。


 やり過ぎた~~~!!!



 わしは自分のしでかしたリフォームのビフォーアフターを見て頭を抱える。そうして洞穴の外で悶えているたら、皆が大きな獲物を咥えて戻って来た。


「「「ただいま~」」」

「お、おかえり……その獲物はどしたの?」

「お母さん頑張っちゃった」

「わたしも~」

「ボクは余裕だった」


 おっかさんはかわいく言っているつもりじゃろうけど、口から血を垂らして微笑むものだから、けっこう怖い。なんの動物を狩って来たんじゃろう?

 ……レッサーパンダ? デカイ……おっかさんの倍はあるぞ。真っ黒なレッサーパンダなんて初めて見た。レッサーパンダに角が三本も生えているのも初めてじゃな。この世界は不思議じゃ。

 兄弟達も一匹ずつ咥えておるけど、子供か? それでも兄弟達よりデカイ。弱肉強食の自然の中では当然の事じゃろうけど、元人間としては、種族を狩り尽くしていないことを祈る。

 その前に猫がレッサーパンダを狩って来るって、この世界の常識ってどうなってるんじゃろう?


「それで……これはどう言うこと?」


 おっかさんが周りを見渡すと、洞穴の中にあった毛皮以外のゴミの山。洗濯に使った物干し台も、大きな穴も片付け忘れていた。兄弟達は本能なのか、物干し台に飛び乗って遊び出す。


「えっと……必要だったモノ?」

「ふ~ん」


 おっかさんは何か考えているな。わしの秘密か? それとも新しいリフォーム案か?


「何かに使えそうね」


 やっぱり後者ね。なんとなくわかってた。


「それより、家はどこに行ったのかしら?」


 洞穴の入り口は岩肌を模してあり、パッと見では分かり難い作りにした。背の高い草なんかを植えればより分かり難くなるが、植林なんて猫のわしに求められても困る。

 こんな生活空間を作る奴が猫のわけが無いって盛大にツッコミたいが、やめておこう。


「こっちだよ」


 わしを先頭に歩き出し、皆がついて来る。


「なるほどね。少し入り組んでいるから風が入りにくいわね」


 おっかさんは目を輝かせながら呟く。そして曲がり角を曲がると、広いリビングが現れた。


「「「ニャーーー!!!」」」


 おっかさん、狂喜乱舞です。怖いです。兄弟達は走り回り、高い所に登っては飛び下りるを繰り返しています。猫の文化に新たな1ページを加えてしまいました。


「凄い。凄いわ! あなた天才よ!! 私の求めていたのはこれよ!!!」


 猫の求めているモノは、これでは無いと思います。狩りの天才ならいざしらず、リフォームの天才な猫はいません。


「ひ、広すぎないかな?」

「大丈夫よ。もっと広くてもいいかもね。あ、ここは水飲み場ね。私の高さにぴったり。隣はあなた達用ね。素晴らしいわ~。あれは何かしら?」


 おっかさんは暖炉に近付き、わしに質問する。


「寒くなったら火を入れる物だよ。いまは暑いから、出番はまだ先かな?」

「作ってくれたの!? 何も言ってないのに私の欲しい物までわかるなんて……天才ね!」

「いまは暑いから、そっちの端にある穴に魔法で風を送り込んでみて」

「こう? あ、ひんやりした風が出てきたわ。もうっ天才!!」


 猫のボキャブラリー……天才以外ないのかな? 猫じゃもんな。致し方ない。


「最後はあっちね。ここで寝るといいよ」

「綺麗な毛皮が敷いてあるわね。それに凸凹していないから、私が寝転んでも痛くない。よく眠れそうよ。ありがとうね。あ、あのカクカクした物は何かしら?」

「ああ。あれは兄弟達の寝る所だよ」

「毛皮が入っているわね」


 わしとおっかさんが話をしていると、あとから寝室に入って来た女猫が箱の中に吸い込まれた。


「モフモフ~~~!!!」

「あらあら。いいわね~。私が使うには毛皮がいっぱいいるのね。お母さんに任せて!」


 つまり作れと? この辺の動物を絶滅させるつもりですか??


「こんなに凄い物、本当にありがとうね」

「モフモフ、ありがと~」

「フン! ありがとな」

「お腹すいてるでしょう? みんないっぱい食べましょう」


 おっかさんも女猫も男猫も気に入ってくれたようでよかった。レッサーパンダは大き過ぎて家に入らなかったので外に出て、皆で美味しく(相変わらずわし以外)いただきました。


「あの穴……水浴びに使えそうね」


 こうしておっかさんのリフォームの夢は、まだまだ膨らむのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る