706 ダンジョンらしくなって来たにゃ~


「ごめんごめんにゃ~」


 時の賢者を馬鹿にしたらノルンは激オコ。電撃をまとった角を生やしてわしをツンツンして来たので謝ったら、ようやく止まった。


「ノルンちゃんの最凶攻撃【妖精の怒り】が効かないなんて……」

「超痛かったにゃ~。死ぬとこだったにゃ~」

「シラタマには効かないんだよ。上に報告なんだよ!」


 あ……やっちった。これでダンジョンの難易度が上がるかも? ま、最大攻撃でも外の雷キャノン程度……いや、フラグになったらたまらん。考えるのはやめとこっと。


 わし達が騒いでいる間に皆は宝箱部屋に入って行く姿が見えたので、わしは小走りで追いかけてノルンがパタパタと続く。


「それじゃあ開けますよ?」


 ちょうど宝箱ご開帳だったので、わしもリータが開ける姿を見つめていたら、リータは首を傾げた。


「どうしたにゃ?」

「絵が入っているのですが……」


 リータは額縁に入った絵を取り出してくれたが、一同首を傾げる。


「にゃにこの下手クソにゃ絵……」

「時の賢者様を愚弄ぐろうする者はブッコロ……」

「にゃ~! アバンギャルドな絵ですにゃ~。ピカソにも負けていませんにゃ~」

「フンッ。それでいいんだよ」


 正直、めちゃくちゃ下手クソだと思うが、ノルンにピカソが通じてよかった。わしを角でチクチク刺すからこちょばいんじゃもん。


「これはなんの絵でしょう?」

「時の賢者様の自画像だよ」

「これが人間の顔……」

「さってと、次、いってみようにゃ!」


 リータにもノルンの角は通じないと思うが、電撃はどれぐらいの威力があるかわからないので、怒らせる必要はないだろう。

 わしは多角的な顔を平面に写したような絵を次元倉庫に入れ、皆にもこの件には触れるなと言って歩き出したのであった。



「ここからはモンスターも出るんだよ。罠とモンスターの同時攻撃に苦しむといいんだよ」


 第4フロアに着いたら、ノルンはいつもより攻撃的な助言に変わった。


「さっきの怒ってるにゃ?」

「設定通りだよ」

「もっと下に行ったら、セリフも変わるのかにゃ?」

「その時のお楽しみだよ」


 ノルンと喋りながらも、いきなり入口で落ちた経験があるので気を付けて進んでいたら、壁に到着。左右を見て、通路を確認する。


「いまのところ分かれ道じゃないにゃ。でも、通路は上のフロアより倍近く広いにゃ~」

「さっきモンスターが出ると言ったんだよ。もう忘れるなんて、頭沸いてるんだよ」

「口、悪すぎにゃい?」

「設定だよ」

「……まぁいいにゃ。つまり、モンスターとの戦闘があるから通路を広く取ってるんだにゃ」

「それぐらい言わなくても察しろって言ってるんだこのすっとこどっこいだよ」

「やっぱ怒ってにゃい??」

「設定だよ」


 ノルンは設定と言い張るからこれ以上の詮索は出来ないので、リータ達と作戦を擦り合わせる。


「上より半分ぐらいの大きさの迷路になってると思うし、全員で行動しようかにゃ?」

「ですね。もしも違っていても、ここで夜になりそうだから、多少は時間に余裕があります」


 リータにはわしが言わなかったその先が伝わったので、皆にも説明してくれた。だから、歩きながらリータのほうがリーダーっぽいって言わないでください。わしが猫パーティのリーダーです。マスコットじゃありません。


 いつの間にかわしは猫パーティのマスコットに格下げされていたので「にゃ~にゃ~」文句を言いつつ気を付けて歩いていたら、探知魔法には球体を真っ二つに割ったような物体が引っ掛かった。


「にゃんかオモチみたいのがあるんにゃけど……」

「アレはアイアンスライムだよ」

「スライムの特性はあるのかにゃ?」

「戦ってみたらわかるんだよ」


 ノルンからのいい返事は無かったので、とりあえずわしのジャブ。土魔法と水魔法の合体技【泥】をぶっかけてやった。


「とりあえずこれでやってみてにゃ」

「次って誰でしたっけ?」

「わたし」


 見えやすいようにしただけだから、リータからもオニヒメからも特に横取り的な事を言われなかったので、わしはホッと胸を撫で下ろして観戦。


 オニヒメVSアイアンスライムの戦闘が始まった。


 アイアンスライムの移動手段はよくわからないが、そのままの形でゆっくり前に進んでいる。オニヒメもこれまで攻撃魔法があまり効かなかったので、白銀の扇で戦うみたいでトコトコと前進。

 どちらも遠距離からの攻撃は無く、間合いはすぐに詰まった。


 先手はアイアンスライム。登頂部辺りからウニョウニョと何かを出したかと思ったら、それをムチ状に振って叩こうとしたのだ。

 しかし、オニヒメが後ろに飛んだら空振り。アンスライムは床をペチペチ叩きながら前進している。


「これって攻撃??」


 オニヒメは期待はずれ感があるので振り向いて質問して来たから、ノルンへの苦情はわしが代わる。


「スライムの特性はどこに行ったにゃ?」

「アイアンスライムの特性はアレなんだよ」

「オニヒメ~! やっちゃてにゃ~!!」


 あんなもの、お掃除ロボットに文字通り毛が生えた程度。オニヒメはムチの隙を突いて接近し、アイアンスライムをサクッと扇で割って、真っ二つにしたのであった。


「弱すぎ……」

「わしもそう思うにゃ……ゴロゴロ~」


 せっかくの対戦相手があの程度では、オニヒメはオコ。その怒りはわしのモフモフにぶつけられる。


「そう言えば、倒したモンスターはどうなるにゃ? ゴロゴロ~。誰かが掃除するにゃ? ゴロゴロ~」


 オニヒメの撫で回しを止めようとノルンに質問してみたら、数分待ったらわかるとのこと。皆も気になっていたようなので、数分ぐらいなら待ってみようとの話になった。


「にゃあにゃあ?」

「なんだよ?」

「あっちのほうがスライムっぽくにゃい?」

「「「「「うんうん」」」」」


 数分待ったら、壁の下部の隙間らしき箇所からからドロドロの白い液体が流れて来たので、皆もわしと同じ意見のようだ。


「アレはお掃除ロボットなんだよ。壊れたモンスターをドロドロに溶かして再利用するんだよ」

「やっぱスライムにゃ~!!」

「お掃除ロボットなんだよ」


 どう見ても白い液体のほうがスライムなのだが、ノルンが認めてくれないので次へ。罠を避けながら分かれ道があれば手分けして少しだけ進み、勘で道を選んでいたら、探知魔法にモンスターの反応があった。


「ゴブリンみたいにゃ。【泥】っとにゃ!」


 探知魔法では第1フロアのボスの感じがあったので、泥をぶっかけたら武器が白い剣に変わったアイアンゴブリンが現れた。


「次は私です!」


 リータは急接近からの気功パンチ。一発で内部破壊を引き起こし、アイアンゴブリンの胸が粉々に散った。

 それからも探索を続け、泥を掛けたモンスターの写真も撮っていたら、モンスター退治は一巡。最後のわしにもモンスターを回してくれたので、刀を抜いてアイアンオークを十字に割ってやった。


「もう、ザコはわしだけで片付けたほうが早くにゃい? いちいち止まるのも時間の無駄にゃろ??」

「はい……皆さんもそれでいいですよね?」

「「「「はいにゃ~」」」」


 ザコは防御力は高いけど動きが鈍いので、皆も戦った感がないからわしの案は全面賛成。これでかなり攻略速度があがったので、サクサク進んでいたらボス部屋に到着した。


「今回のボスは複数なんだよ。今まで通り行くと思ったら大間違いなんだよ」

「じゃ、あとは任せるにゃ~」


 ノルンが勝ち誇ったように言っても、わし達に取ってはザコ。泥をぶっかけたら五体のアイアンウルフが現れたので、リータ達に譲る。

 いちおう一番大きなアイアンウルフが指示みたいな事を出しているようだが、リータ達は個別撃破に向かったので関係ない。


 リータ、コリスの気功パンチ。メイバイ、オニヒメ、イサベレの斬撃であっと言う間に終了。


「速すぎるんだよ!」

「そっちが遅すぎるんにゃ~」


 こうしてノルンが文句を言う中、わし達は宝箱部屋に移動するのであった。



「今回は絵じゃにゃいように!」


 祈りながら宝箱を開けたら、装飾が豪華な白魔鉱の剣。ハズレではないのだが、素直に喜べない。


「イサベレ、いるにゃ?」

「時の賢者様が使ってたなら欲しいけど……」

「それはどこかの国のお宝だよ。時の賢者様が気に入って部屋に飾っていた逸品なんだよ」

「「う~ん……微妙にゃ~」」

「そこへなおれだよ!」


 時の賢者が使っていたのなら歴史的価値がありそうだが、ゴテゴテにデコレーションされた剣は実用性が無さそう。せめてなんという国が作ったのかわかればいいのだが、ノルンは知らないのでしばらく次元倉庫の肥やしになりそうだ。


「ところで宿泊施設はあるのかにゃ?」

「あっちにあるんだよ」


 さっきまでわしとイサベレを説教していたノルンは案内役に戻ってくれたので、わし達はあとを追う。


「あっれ~? ベッドが無くなってるんだよ~」


 しかしベッドは木製だったのか、部屋の中には朽ちた木とチリしかないのでノルンはパタパタ飛び回って探している。


「ここも風化して無くなってるにゃ~」

「おかしいんだよ~」


 ノルンは風化と言う言葉を知らないようなので、説明は面倒だからお片付け。全て撤去したら、ディナーを開始する。


「にゃかにゃか広い施設だにゃ~。モグモグ」

「本当ですね。もう二泊目ですよ」

「ここって、あのピラミッドのどの辺なんニャー??」

「う~ん……天井の高さからいったら、地下に入った所だと思うんだけどにゃ~。ノルンちゃんはわからないにゃ?」


 ずっとパタパタ飛び回ったあと、わしの肩に乗ってフリーズしているノルンに質問すると、再起動した。


「ここはちょうど地面の位置だよ」

「にゃ~。おしかったにゃ~。ちにゃみに、最下層はにゃんメートル下にあるにゃ?」

「地下140メートルだよ。そこに、すっごいお宝が眠ってるんだよ」

「おお~。それは時の賢者の手記かにゃ?」

「ノーコメントだよ。行ってからのお楽しみだよ。行けたらな!」

「その設定って、やらなきゃダメにゃの?」


 キレる演技は設定だと予想して質問してみたら、ノルンは何故か止まった。


「にゃ? またフリーズしたのかにゃ??」

「いや……返答が二択になっていたから、マザーに問い合わせしてたんだよ」

「マザーってのはスリーサイズにゃ?」

「そうだよ。やっとセクハラの基準がわかってくれて嬉しいんだよ」


 いまだにいまいちわからんのじゃけどな~……まぁ、マザーってのは、ゴーレムや施設を統べる集中管理装置みたいなもんじゃろう。


「その二択はにゃんてなってたにゃ?」

「ひとつはロックが掛かっているから答えられないんだよ。もうひとつは……」


 ノルンは一呼吸置いて叫ぶ。


「うっせぇ! このフニャ〇ン野郎!! どうしても知りたかったらママのオッパイでも吸って人生やり直してから来やがれ! マザーフ〇ッカーめ!! だよ」

「ひどいにゃ~~~」


 あまりに酷いスラングだらけの悪口が妖精の口から発せられ、わしは驚きを通り越して大ダメージ。リータに抱きついて泣くのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る