380 秘密の暴露にゃ~


 おお! すき焼きじゃ!! でも、もうすでに、鉄鍋で煮た物を運んで来たのか。女将に作ってもらうには、もっと高級な店に行かないといけないのかな?


 池田屋にチェックインしたわし達は、座卓ローテーブルに並べられる料理を静かに見つめ、全てを並べ終わったキツネ少女とキツネ女性から勧められてから食べ始める。


「「「「「いただきにゃす」」」」」


 わし達の挨拶に、キツネ少女達は首を傾げていたが気にしない。だが、鍋の中身が気になったので、最後に出て行こうとしたキツネ少女を呼び止める。


「ちょっといいかにゃ?」

「あ、はい。なんでしょうか?」


 キツネ少女は急に呼び止められても嫌な顔ひとつしないで、座卓の前に正座をする。


「この肉は、にゃんの肉にゃ?」

「キジで御座います。お口に合わなかったですか?」

「いや、美味しいにゃ。ちょっと気になっただけにゃ」

「それはよかったです。その日に入ったお肉を出すので、苦手な人もいるんですよ」

「ほう……それでにゃんだけど、君は口が堅いほうかにゃ?」

「口が堅いですか?」


 わしの問いに、キツネ少女はまた首を傾げてしまった。


「ちょっとした秘密を話したいんにゃけど、お金を渡すから黙っておけるにゃ?」

「えっと……お客様の個人情報は漏らすなと女将に言われているので、口は堅いほうだと思うのですが……」

「自信がなさそうだにゃ」

「す、すみません!」

「じゃあ、女将にも同席してもらうにゃ。食事が終わる頃に、来てくれるように頼んでくれにゃ」

「は……はい」


 キツネ少女はわしの話に、不思議そうな顔をして部屋から出て行った。すると、その話を念話で聞いていたリータとメイバイが話し掛けて来る。


「なんであんな話をしていたのですか?」

「コリスの元の姿を見せても大丈夫か試したいにゃ」

「あ、なるほどニャ。大きなタヌキも居たもんニャー」

「それと、わし達が外国人と聞いて、どんにゃ反応をするのかもにゃ」

「たしかに気になりますね」

「それよりシラタマ殿……」

「にゃ?」

「コリスちゃんに食べられてるニャー!」

「コリス! にゃんでわしの皿ばっかり食べるんにゃ~!!」

「えへへ~」


 コリスはわしのすき焼きを平らげてしまったので、仕方なく、残った汁で黒い獣の肉を火魔法を使って煮る。すると、コリスもおかわりを要求し、リータ達も続くので、大量に煮る事となった。

 どうやらキジ肉より、皆は黒い獣の肉がいい模様。なので、わしの元へはキジ肉が集まってしまった。


 別にまずくはないけど、高級肉に慣れてしまったのですか。そうですか。


 皆は、汁は美味しいようだが肉に不満があったようだ。なのでわしは、残飯処理係になるが、懐かしい料理なので気にしない。

 しかしイサベレから念話が届き、気になる事が出来たので、皆にはこれ以降の会話は、念話でするように言って食事を済ませる。

 そうして腹をさすっていたら、キツネ少女が皿を下げにやって来たので片付けてもらい、ついでに酒と女将を追加注文する。


 しばらくすると、キツネ少女が一升瓶を持って、着物を着た大きなキツネと共に部屋に入って来た。


「それでお話とは……」


 キツネ女将は、わしに酒を注ぎながら質問する。


「聞いて欲しい話があるんにゃけどにゃ~。その前に……」


 わしがイサベレの顔を見ると、部屋の隅の天井を見たので、その方向に話し掛ける。


「天井裏に居る人、そんにゃ所に居たら聞こえづらいにゃろ? 降りて来ていいんにゃよ?」


 わしはイサベレから人が居ると聞いていたので、皆に声は出さないようにと言っておいた。

 これから女将に話す内容は、別に聞かれてもいいので誘ってあげたのだが、何も反応を返してくれない。


「そないな所に、人が居るわけがありまへん」


 キツネ女将は不思議に思って声を掛けるが、わしは立ち上がって部屋の隅に移動する。


「降りて来ないにゃら、槍で刺すけどいいにゃ? 一度やってみたかったんにゃ~……本当に刺すにゃよ? 降りて来るにゃ~」


 なかなか降りて来ないので、わしは次元倉庫から白魔鉱の槍を出して構える。すると、天井からドタドタと音が聞こえ、イサベレがどこかに行ったと言うので、わしは窓に移動して外を見渡す。


「イサベレ、どっちに逃げたかわかるか?」

「人に紛れた」

「そっか……何者だったんじゃろ?」

「そこそこのやり手としかわからない」

「せっかく誘ってやったのに、どうして逃げるかな~?」

「わからない」


 イサベレと念話で話していても答えが出ないので、わし達は席に戻ってキツネ女将に問いただす。


「さっきの人は、にゃんだったにゃ?」

「うちもわかりかねます」

「女将の手下ではないんにゃ~」

「め、滅相も御座いまへん。我が宿は、お客様第一。不本意ながら聞いてしまった内容でも、外で話したりいたしまへん!」


 キツネ女将はかしこまって頭を下げる。


「にゃ! 頭を上げてくれにゃ。ちょっとした冗談にゃ。疑うようにゃ事を言ってすまなかったにゃ」

「い、いえ。こちらこそ、賊に入られるなんて申し訳ありませんでした!」


 キツネ女将がまた頭を下げるので、わしは肩を持って戻させながら、先ほどの話を再開する。


「それで女将を呼び出したのは、他でもないにゃ。わし達を見て、にゃにか変だとは思わないかにゃ?」

「変と言われましても……しいて上げるなら、お侍様が神職の方とご一緒しているのは珍しいですね」

「神職にゃ?」

「その白い髪の毛は、神社で働く者の姿なのですが……。いえ、マネをする人はいるので、そこまで変じゃないですよ」


 なるほどな。イサベレとコリスが見られていたのは、このせいか。


「わし達は神職でもなければ、この国の者でもないにゃ」

「はい?」

「コリス~。変身魔法を解くにゃ~」

「やっとだ~」


 わしの言葉で、コリスはさっちゃん2の姿から、ボフンッと巨大リスの姿となった。


「「リス??」」


 キツネ少女と女将は驚いているようじゃけど、思ったより驚きが小さいな。


「にゃんでそんにゃに驚かないにゃ?」

「これぐらいの変化へんげは、うちでも出来ますから、特には……」

「えっと……女将達の姿って、その変化で維持してるにゃ?」

「はい。よろしければ、本来の姿を見せましょうか?」

「う、うんにゃ」


 キツネ女将とキツネ少女は何かを呟き、後方宙返りを同時にして、姿が変わると、葉っぱのような物がはらりと畳に落ちた。


「にゃ……」


 その姿とは、メイバイと似たような、キツネ耳と尻尾のあるおばさんと女の子。キツネが出て来ると思ったわし達は、若干、残念に驚いた。


「にゃんでその姿から、キツネの姿に変身していたにゃ?」

「理由は特には……風習ですかね? あ、キツネの子供は、変身してもたいして変わらなかったので、不憫ふびんに思った大人達が合わせていたって逸話はありますけど、本当かどうかはわかりまへん」


 つまり、四つ足で歩くキツネの子供に合わせて、姿を寄せていたってことか。わしもいまだに猫から卒業できていないから、周りが合わせてくれたら嬉しいな。


「にゃるほど。でも、街中では、キツネ耳の人も居たにゃ」

「それは、その人の都合があるからどす。恋人に合わせていたり、長時間維持するのがしんどいや、面倒って言う人もいますからね」


 人それぞれ……キツネそれぞれってことか。でも、キツネ耳のほうがいいと思うのは、わしだけか?


「じゃあ、わしの本当の姿を見せるにゃ~」


 と言って、変身魔法を解いてみたら……


「「猫又!!??」」


 めっちゃビックリされた。


「そんにゃにビックリする事にゃの?」

「頭の中で声が……」

「念話と言う、特殊な力で話し掛けているにゃ」

「は、はあ……でも、本当の姿が猫又だなんて……」

「わしは丸いから、タヌキと勘違いされる事が多いんにゃ。ちなみにコリスも、リスの姿が本来の姿にゃ」

「そうなのですか!?」

「そっちの嬢ちゃん。撫でたかったら、撫でてもいいんにゃよ?」

「え……はい」

「待ちな! お客様にそないなこと、してはあきまへん!」

「あ、はい!」


 キツネ耳少女が手をわきゅわきゅしていたので誘ってみたら、女将を怒らせる事となってしまった。

 とりあえずわしは、ぬいぐるみ……人型に変身して、女将に問いただす。


「これで異国の者だと信じてくれたかにゃ?」

「えっと……」

「じゃあリータ。英語で自己紹介してやってくれにゃ」

「イエス。マイネーム……」


 リータの英語の自己紹介で、女将達は目が丸くなる。だが、何を言っているかわからないようなので、わしが通訳してあげた。


「本当にそないなことを言ってはったのですか?」

「わしも喋れるにゃ。マイネームイズシラタマにゃ。どうにゃ? 信じてくれるかにゃ?」

「「は、はあ……」」


 二人は半信半疑のようだが、無理矢理納得したようだ。なので、コリスの姿のアドバイスを聞くと、着物を来ていればなんとかなると言われた。

 外国人の件は、言わないほうが得策らしい。理由は、千年近く外国人は訪日していないので、言ったところで信じてもらえないし、時間が取られるとのこと。

 まぁ女将達の反応で面倒臭いとわかったので、よっぽどの事がないと言わないだろう。


「最後の質問にゃ。この京に、天皇陛下は居るのかにゃ?」

「はい。御所にお住まいになられています。……異国の方なのに、陛下の事は知っているのですね」

「そりゃ有名にゃもん。ただ、遠い昔の陛下しか知らないから、お住まいがわからなかったんにゃ。ちなみに、年号はにゃにかにゃ?」

「令和どす。お金にも刻まれているので、いまは、みっつの年号が見て取れるはずどす」

「そうにゃんだ。色々と時間を取らせて悪かったにゃ。これ、納めてくれにゃ」


 わしはそう言って大判を差し出すと、女将に返され、もう一度ぐいっと前に出すと受け取ってくれたが、言いたい事があるようだ。


「たかだか世間話に、こないな大金を……」

「それだけの事を聞いてくれたんにゃ。ありがとにゃ」

「いえ。貰い過ぎどす。一ヶ月は素泊まり出来ますよ。なので、一週間、この宿をお使いください。それでお話と込みでトントンとさせていただきます」

「女将がそれでいいにゃら、有り難く泊まらせてもらうにゃ~」


 女将は、最後にお風呂の件を説明してから部屋から出て行き、キツネに戻った少女は布団を敷きながら恨めしそうにわしとコリスを見ていたので、毛並みを堪能してもらった。

 だが、荒ぶるリータとメイバイに、キツネ少女は体中をモフられ、わしが救出したら涙目で逃げて行った。


 それからわしは、金勘定をして元号を確かめる。


 マジか……昭和、平成、令和って、三種類の元号がある。小判の色から察するに、並びは元の世界と一緒なんじゃろうな。と言う事は、わしの元の世界も、新しい年号は令和なんじゃなかろうか?

 おお! 新しい年号を拝めずに死んだから、心残りがあったんじゃ。これでわしは、大正を含めてよっつの時代を生きる事になったのう。

 いや……わしは千年生きるから、十個以上、生きそうじゃ……



 わしが感動しながら金勘定をしていると、窓から街並みを見ていたイサベレが近付いて来た。


「外に人が集まっている」

「にゃ? 外でにゃんか面白い事でもやってるのかにゃ?」

「宿を取り囲むようにしているから違うと思う」

「……狙いはわし達かにゃ?」

「嫌な感じがするから、おそらく……」


 イサベレの危険察知は、こういう時はホント便利じゃな。夜の危険がなければホント助かるんじゃがな~。しかしさっきの奴といい、目を付けられる事をした覚えはないんじゃが……


「わかったにゃ。わしが挨拶して来るにゃ。イサベレは残って、さっきの奴が近付いて来ないか気を付けておいてにゃ」

「ん。任せて」

「みんにゃも警戒しておいてにゃ。でも、絶対に人殺しは無しにゃ」


 皆の返事を聞いて、わしは次元倉庫から全員の装備を取り出し、池田屋の玄関に向かうのであった。

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