542 帝国の発見にゃ~


 森の中の石畳を辿っていると黒い木から白い木に変わり、雪景色と相俟あいまって、一面が真っ白の景色となった。なので、一度進むのをやめて、わしだけ白い木の群生地に入った。


 おっかしいのう……ここは何かの縄張りじゃろ? なのに、何も感じん。いつもなら毛がビリビリするはずなのに……

 探知魔法の感じでは、かなり遠い位置に20メートルクラスの獣が居るが、こいつの縄張りか? にしても、中央からかなり外れている気がする。

 その中央だと思う場所には、大きな建物らしき反応があるな。まさか、諦めようと思っていた帝国の建物か? なんてわしは持っておるんじゃ。このままオーガまで見付かってくれたら助かるのう……ん??


「にゃんかここはおかしいにゃ。とりあえず、わし一人で行って来るにゃ~」


 疑問の答えが出たかもしれないわしは、皆を置いて一人で行こうとするが、リータはイサベレに意見を聞く。


「イサベレさん。どうですか?」

「ん。これぐらいなら、私達でなんとかなると思う」

「じゃ、行くニャー!」

「「「「「にゃ……」」」」」

「ストッープッにゃ~~~!!」


 メイバイの掛け声で勝手に進もうとする皆の前に、わしは回り込む。


「にゃんか得たいの知れないのが居るにゃ。ここは、わしだけで行くからにゃ」

「シラタマさん……どうしたのですか? イサベレさんは大丈夫と言ってますよ?」

「ん。大きいけど勝てる」

「それは、何匹だと思っているにゃ?」

「?? 一匹……」

「いや、二匹居るにゃ」

「絶対に一匹」


 わしの答えに、イサベレは自信満々の顔で反論する。よっぽど、自分の危険察知能力を信じ切っているのだろう。


「……イサベレは、野人と会った時、どう思ったにゃ?」

「野人……何も感じなかった……」

「そういうことにゃ」


 わしの質問で、イサベレは野人の特徴を思い出したが、リータとメイバイは野人という言葉に反応する。


「まさか……」

「この先に……」

「それはわからないにゃ。でも、可能性のひとつにゃ。ただ、野人の時のように、わしの探知魔法には、20メートル近い空洞があるにゃ」


 わしが説明する中、皆の視線はオニヒメに集中する。だが、オニヒメは何故見られているかわからないのか、ずっとキョロキョロしていた。


「とりあえず、わし一人で行くって事でいいにゃ?」

「はい……」


 リータの返事のあとに皆が頷いたので、わしは石畳を駆けて空洞の元へと向かうのであった。



 マジか……オーガまで一発で見付けるとは、わしはなんて主人公体質なんじゃ。ツクヨミのように、アマテラスがわしの運勢をイジッたんじゃなかろうか?


――アイツと一緒にしないでよね~。ぷんぷん……ブチッ!――


 いま一瞬、アマテラスの声が聞こえた気がしたけど、気のせいか?


――呼ばれて飛び出て、ジャジャジャ……ブチッ!――


 うん。ツクヨミまで出て来たような気がしたけど、気のせいじゃ。あの二人はスサノオに、鉄壁マークされてるじゃろうしな。


 二柱の通信は無視して走っていると、無視できない光景が見えて来た。


 マジか~……屋根が落ちた家の跡がある。それもかなりの数……。もしかしたら、東の国の王都ぐらいの広さがあるかも? 

 白い木はボチボチ生えておるな。家跡を避けて生えているって感じか。となると、大戦で滅びたのではないのか。スサノオは種があったら一気に芽吹くとか言っていたから、大戦だったら屋根を突っ切ってもおかしくないはずじゃ。

 ならば、内乱とかかな? 内乱なら、どこかの土地に移住してもおかしくないか。チェクチ族の集落に向かう者が一人も居ないわけもない。


 これは、原因はオーガかも……とりあえず会いに行ってみるか。



 わしは徒歩に変えて辺りを見渡していたが、考えていても答えは出ないので先に進む。そうして走っていたら、大きな建物の前に辿り着いた。


 この赤い建物……宮殿みたいじゃ。かなり痛んでいるが、辛うじて姿形を留めておる。テレビで見た赤の広場にある建物に似てるのう。

 周りも色の付いた建物だったみたいじゃけど、赤い宮殿以外は崩れてしまっているな。歴史的建造物なのに、もったいない……

 それはそうと、空洞はデカイ獣の元へ向かったのか。ならば、わしもそちらに行こうかのう。


 また走り出し、わしは空洞と獣の戦闘区域に入るのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 その少し前……


「うぅぅ……見に行きたいニャー!」


 シラタマにお留守番を命じられたメイバイは、うずうずしていた。


「メイバイさん。ダメですよ」

「でも、シラタマ殿の全力の戦闘は見たくないニャー? 野人の時も、本気を出したって言ってたニャー」

「見たいですけど、シラタマさんは考えがあって向かっているはずです」

「考えニャ?」

「えっと……イサベレさんもこっちに来てください」


 リータはオニヒメに話を聞かれないように、メイバイとイサベレと共に、おやつを食べているコリス達のそばから離れる。


「たぶん、オニヒメちゃんにオーガを見せたくないんだと思います。もしも見せてしまったら、シラタマさんが殺してしまったお父さんを思い出すと考えて……」

「思い出すのはいい事では?」


 イサベレの質問に、リータは深く考えて口に出す。


「どうでしょう……。いま、このタイミングではないと、シラタマさんは思っているのかと……」

「それを決めるのは、ダーリンでいいの?」

「え?」

「うんニャ。オニヒメちゃんが決める事ニャー」

「で、でも、暴れたり、私達に襲い掛かって来たら……」


 リータの意見に、メイバイとイサベレは違う意見を述べる。


「それって、猫の街の住人が居たらじゃないかニャー?」

「ん。街で暴れたら危ないけど、ここには私達しか居ない」

「私達なら大丈夫ニャー。ちゃんと説明して、オニヒメちゃんの悲しみも受け止められるニャー」

「オニヒメなら、説明すれば、ダーリンの苦しみを和らげてくれる」

「シラタマさんが苦しんでる??」


 突然の指摘に、リータは首を傾げる。


「気付いてなかったニャー? シラタマ殿は、たまにオニヒメちゃんを物悲しそうな目で見てたニャー」

「この旅でも、オーガと聞いてから、たまに悲しそうな目をしてた」

「うそ……」

「いつも一瞬だったからニャー。オニヒメちゃんに気を使わせないように、すぐに笑顔になってたから、リータはタイミングが合わなかったんだニャ」

「ん。私も気付いたのは偶然。だから気にする事はない」

「それならそうと、教えてくださいよ~」


 リータは情けない声を出すが、二人はすでに気付いているものだと思って伝えなかったと言っていた。

 それから少し話し合って、リータ達はオニヒメに、まずは父親の事を伝えようとする。


「アレ? コリスちゃん。オニヒメちゃんはどこに居るの?」

「ん~? さっきおかしをくれたけど……あれ~?」

「寒いからマントの中かしら?」

「あ! さっきはいってた!! ……あれ? いない……」

「ちょ、ちょっと私を入れるニャー!」


 メイバイはコリスのマントの中に入って、お腹から背中に回り、一周してお腹からモフモフ言って出て来た。


「モフモフだったニャー……じゃなくて、居なかったニャー!」

「え……それじゃあ、どこに……」


 メイバイから報告を受けたリータは、イサベレを見る。


「オニヒメちゃんの居場所、わかりませんか!?」

「……わからない。完全に気配を消してる」

「そ、そんな……」

「コ、コリスちゃん! シラタマ殿から探知魔法を教えてもらってなかったニャー?」

「おしえてもらったけど、うまくつかえないの~」

「ダメ元でいいニャー! 試してみてニャー!」

「わかった!」


 コリスもオニヒメの行方が心配なようで、メイバイに言われてすぐに探知魔法を使う。すると、皆の耳に痛みが走り、同時に耳を塞いだ。


「そう言えば、前にも似たような事がありましたね」

「すっかり忘れてたニャー。だからシラタマ殿は使うなと言ってたんニャー」


 どうやらコリスは、シラタマから簡単な音波の探知魔法を教えられたようだが、音が強すぎて相手に位置を特定されるから、もう少し練習してから使えと言われていたようだ。

 しかし、それでも探知魔法は探知魔法。コリスの耳に反射が帰って来た。


「いた~い!」


 どうやら反射して来た音も強すぎて、使った本人にもダメージが入るようだ。


「でも、みつけた! むこう!!」

「あの方向は……急ぎましょう!」

「「「にゃっ!」」」


 オニヒメの向かった方向は、シラタマが向かった方向。リータ達は焦ってオニヒメを追いかけるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 オニヒメが失踪したその頃、わしはオーガだと思われる大きな空洞と、大きな獣との戦闘区域に入った。

 出来るだけ見付からないように、建物の残骸に体を隠しながら近付く。その時、耳に痛みが走ったが、獣の姿が目に入ったのでそちらに集中する。

 残念ながらオーガは建物の陰で見えないが、一触即発。いまにも戦闘が始まりそうだったので、すぐに視界に入ると思い、その場で様子をうかがう。


 あの獣……アムールトラかな? たしかにリータ達でなんとかなりそうじゃけど、絶滅危惧種を殺すのは躊躇ためらうな。いや、人間なんて、とっくに滅んでおるんじゃ。増えまくっているかもしれん。

 てか、アムールトラの奴、何を警戒しておるんじゃ? 吸収魔法を使っている奴は力を感じ取れないし、すぐに弱いと思ってもいいのに……


 お! 動いた!!



 白アムールトラは、威嚇の声と同時に突撃……


 なんじゃと……


 は、出来ず。動く前に空洞の正体に上から殴られ、頭を潰されて一発で撃沈。わしはその光景に言葉を失う。


 強そうな獣を一撃でほふった事に驚いたのではない。


 三本の右手で殴り殺したからだ。


 嘘じゃろ……阿修羅じゃ……阿修羅が目の前におる……


 三本の右手どころではない。三面六臂さんめんろっぴ……三つの顔と六本の腕を持つ、10メートルを超える人間の姿に驚いたのだ。


 ちょ、ちょっと落ち着こう。わしはオーガを探しに来たよな? しかし目の前に居るのは、どう見ても阿修羅。チェクチ族は、これをオーガと呼んでいたのか?

 いやいや、あの頭に乗っている物は見覚えがある。野人の頭に生えていた王冠風の角じゃ。四方に四本の角、真ん中にぶっとい角が一本。それが無理矢理くっ付けたようなみっつの頭からしっかりと生えておる。

 真ん中の頭だけは何本か抜けたようになっているけど、間違いないじゃろう。


 これは確実に、野人の生まれた場所かも……



「うわ~~~!! ×##×*×#*×!!」


 白アムールトラをくちゅくちゅと食べている阿修羅を見ていると、突然、誰かの声が聞こえて来た。


 今度はなんじゃ?


 わしは聞きなれない言葉に反応して振り返ると、そこには幼女の姿があった。


 オニヒメ!? こんなところで何をしておる!!


 わしはオニヒメに目を向け、すぐに阿修羅に目を戻すと、すでに立ち上がってオニヒメを見ていた。


 マズイ!!


 わしはダッシュで走り、一瞬でオニヒメの隣に立った。


「にゃにしてるにゃ~!」

「×##×*×#*×!!」


 わしが怒鳴り付けるが、オニヒメはそれよりも大きな声で阿修羅に向かって吠え続け、いまにも走り出そうとするので、わしは抱きかかえて止める。


 てか、オニヒメが何を言ってるかがさっぱりわからん。とりあえず、念話じゃ!


「お母さんを返せ~~~!!」


 念話を繋いだ瞬間、聞こえて来たオニヒメの言葉にわしは何も返せず、力がフッと抜けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る