第483話 ランダミア・タナイト

「お久しぶりです」


 副支部長のルスルさんに挨拶をする。てか、支部長って会ってねーな。いるの?


「本当に。もうこないかと思いましたよ」


「ええ。またこれてよかったと切に思いますよ」


 皮肉に切実に返した。生きてまたマルスの町にこれた。皮肉も祝福に聞こえるよ。


「相変わらずでなによりです」


「そちらも」


 大した関わり合いもないのに、なぜか意志疎通できている不思議。ルスルさんとは気が合いそうだ。


「さっそくですが、ゴブリンの情報があったらいただけますか?」


「わかりました。こちらに」


 気も合えば話もわかる人だよ。


 二階に上がり、会議室みたいな部屋でゴブリンの情報を教えてもらった。


「やはりこちらも増えてますか」


 目撃情報が村や集落、炭鉱からも入っており、子供が一人連れ去られたそうだ。


「ええ。コラウスとマガルスク王国の間にある山から流れてくるのでしょう。ミロイド砦にいった者がゴブリンの群れを見たと言っています」


「さすがにそちらに人を回せるだけの余裕はありません。春の間はコラウス領に入り込んだゴブリンを駆除します」


 あの十人の少年少女を鍛えてマルスの町に配置するか? まあ、使い物になるかどうかが先だけど。


「あ、これ、職員たちで食べてください」


 ドーナツと紅茶(インスタント)を取り寄せて渡した。


「ありがとうございます。本部ばかり狡いと言う声が上がってたので助かります」


「しばらくマルスの町に滞在するので欲しい方はお売りしますよ。もちろん、オレが出すものは十五日で消えてしまいますがね」


「甘いお菓子や酒はすぐ消費してしまうので十五日も必要ありませんよ」


「でしたら支部から一人、請負員にしてはどうです? 職員も人手不足時には出るんですから一人くらいなっていても構わないでしょう。請負員は十日縛りですが、触ればいいんですからなっていて損はありませんよ」


 移動販売も街にいくのが精一杯。支部で誰かなってくれるならありがたい限りだ。


「それもそうですね。では、わたしがなります」


「副支部長が自らですか? 忙しいのでは?」


「出産で休んでいた支部長が戻ってきたので大丈夫ですよ」


「あ、支部長、いたんですね」


「いますよ。初出産だからと休みを取っていたまでです。ついでなので紹介しておきます」


 ついでなんだ。支部長、ちゃんとやっていけてんのか? つーか、出産って、若い人なのか?


「連れてきます」


 と言うと会議室みたいな部屋を出ていき、三十歳くらいの女性を連れてきた。


「あら、シエイラじゃない。久しぶりね」


「ええ。久しぶり。妊娠したとは聞いてたけど、産まれていたのね」


 なにやら知り合いのご様子。もしかして、同期か?


「支部長。こちらがセフティーブレットのギルドマスター、イチノセ・タカトさんです」


 二人に構わず支部長を紹介するルスルさん。実権はこちらにあるようだ。


「初めまして。わたしはランダミア・タナイトよ。去年は妊娠してて会えなくてごめんなさいね」


「こちらこそ支部長の存在を忘れていてすみません。ルスルさんが支部長みたいな感じだったので意識もしませんでした」


「いいのよ。実質、この支部はルスルがいないと回らないからね」


 大丈夫か、この支部長? まあ、ルスルさんがいないと回らないってのはよくわかるけどさ。


「しばらくマルスの町に滞在するので便宜のほどをよろしくお願いします」


「もちろんよ。ゴブリンにはほとほと困っているからね。支部として協力させてもらうわ」


「ありがとうございます。シエイラ。支部長と話すなら一時間くらい構わないぞ。その間にルスルさんと話をしておくから」


 仲のよい関係、って風には見えないが、腐れ縁なのは確か。積もる話があるならしたらいいさ。セフティーブレットとしても関わっていく人なんだからな。


「あら、それは嬉しいわ。シエイラ、わたしの部屋にいきましょう」


 そう言うとシエイラの腕を取って部屋から連れ出していった。


「なかなか個性の強い方みたいですね」


「ええ。領主の親戚筋の方ですから。我は強いです」


 ほんと、誰に対しても容赦しない人だよ。


「では、ルスルさんを請負員にしますね」


 請負員カードを発行し、名前を告げさせてハイ完了。


「ルスルさんにだけ言っておきます。本当は請負員が買ったものも触らないでいると十五日で消滅します。請負員が利用されないために十日と言ってます。上手く話を合わせてください」


「それを請負員になってから言った理由はなぜです?」


「オレ一人では請負員を守れないからです。ルスルさんがこちら側になってくれたら他の請負員を利用してくれるでしょうからね」


 守れと言って守る人ではない、と思う。なら、利用してもらったほうが結果として請負員を守ることになるはずだ。


「……まあ、いいでしょう。利用しろと言うなら利用させていただきます」


「ええ。長く細く、自分の利になるためにがんばってください。それで、なにか欲しいものはありますか? 口止め料として安くしておきますよ」


「あなたは甘いのか悪辣なのかわかりませんね」


「甘いんですよ、きっと」


「悪辣と解釈しておきます」


 ほんと、いい具合にひねくれているよ。


「大銅貨で買えそうなお菓子と酒をお願いします。職員の給料はそんなに高いわけじゃありませんので」


「わかりました。銅貨一枚から買えるものを用意しましょう。少しお待ちを」


 そう言ってホームに入った。

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