第226話 賭け

 ドワーフの正しい姿なんてわからんが、身長が低く、ずんぐりむっくりな体。男は全員髭を生やしており、ドワーフと言われたらドワーフな姿をしていた。


 女も似たような体つきだが、なぜか巨乳だ。アンバランスすぎて色気はまったくない。夢も希望もない。あからさまな顔はしないけど。


 ドワーフの対応はルスルさんに任せ、オレらは夕飯の用意をする。いきなり十人以上増えたんだから急がないと間に合わない。ドワーフたちは痩せこけて、子供は今にも死にそうだ。


「ビシャとメビはシチューを頼む。オレはドワーフ用のを作るから」


 もう何日も食べてないのなら胃に優しいものにしないとダメだろう。


 お湯を沸かし、まずはぬるま湯を飲ませ、胃を動かしてやったら重湯を作り、塩を少しだけ振りかけて食わせてやった。


「いきなり食うんじゃないぞ。ゆっくり食え。明日の朝にはもうちょっと味の濃いものを食わせてやるから」


 餓死寸前の者にいきなり固形物は危険だとネットで見たことがある。真実かどうかはわからんが、安全のためにちょっとずつ食わせることにしよう。


「あ、あの、子供が熱を出してて、薬はないでしょうか?」


 若い(?)母親が赤ん坊を抱きなが泣きそうな顔で訊いてきた。


「ビシャ。オレたちのテントに連れてって回復薬を母親と子供に飲ませてやれ。体も拭いてやってオムツを買ってくれ」


 巨人にも赤ん坊がいてオムツを買っているところも見ていた。買い方はわかるはずだ。


「わかった。メビ。お湯を沸かして」


 そっちは二人に任せ、汚れに汚れて臭くなっている残りに体を洗わせた。ほんと、君たち獣より臭いよ。


「貴重な水をすまない」


 一人、ロースランと戦っていた男が土下座して感謝してきた。ドワーフの文化か? 武士か?


「気にする必要はない。まあ、ただではないがあんたたちに気前よく分け与えるくらいには安いものだ。礼はいらんから体を洗え。石鹸もあるから」


 この世界、石鹸が発明されている。まあ、こいつらが知っているかはわからんけど。


 安いタオルを人数分と三個で七十円の石鹸を渡して体を洗わせた。もっとしっかり洗えよ。風呂嫌いの子供か。


 着ていた服もただ臭いだけのボロ切れなので安い下着と安いジャージを買って着させた。


「今日はもう寝ろ。水はそこのを好きに飲んで構わない。用足しはあそこだ」


 百均のジョイントマットを買って敷いてやり、焚き火を起こして眠らせた。


「ミシニー。オレはミーティングにいってくるからあとを頼む」


「了解」


 任せてホームに入った。


 ラダリオンとミリエルも戻っていたのでドワーフのことを伝え、それぞれの状況を教えてもらった。


 カインゼルさんのほうはまだ時間がかかりそうで、ミリエルのほうは完成間近とか。三ヶ所同時に、とはいかないか。これは時間差をつけたほうがいいんだろうか?


 シャワーを浴びて着替えたら外に出た。


 ドワーフたちは眠ったようで、見張りは冒険者たちに任せてオレらは先に休ませてもらい、午前二時に交代した。


 何事もなく朝を迎え、皆が起きる前に朝飯の用意を始める。


 匂いに誘われてか、ドワーフたちが起き出してきた。


「気分の悪い者はいるか?」


「いや、大丈夫だ」


「そうか。じゃあ、顔を洗え。そしたら白湯を飲んで胃を目覚めさせろ」


 今は米に水を入れて五分粥を作っている。たぶん、五分粥になったら塩を振りかけ、溶いた卵を入れて軽くかき混ぜたら完成だ。


 器に盛ってやると、一心不乱に掻き込む野郎ども。安全を考えて食わせてんだからゆっくり食えよな。


「食ったらまた休め。無理に動こうとするな。あと、女たちにも食わせてやれ」


 女と子供はオレたちが使っていたテントで寝かせて、まだ起きてきてない。太陽は上がってきたし、そろそろ起きてくるだろうよ。


「タカトさん。おはようございます」


 料理当番のヤツらと冒険者用の朝飯を作っていたらルスルさんが起きてきた。


 インスタントミルクティーを淹れてやる。


「あなたも小まめですよね」


「オレは裏方が性に合っているんですよ」


 前面に立つとか疲れて仕方がないわ。


 朝飯を終えたらルスルさんと話し合いをする。


「オレらは昼前に出ますが、ドワーフたちはどうするので?」


「それはドワーフが決めることです。我々には面倒を見てやる義務はありませんから」


 社会保障がまるでないところはそんなもの。追い出さないだけマシか。


「……弱い者、無知な者は死ぬしかないか……」


 それが嫌なら強くなれ。なんて言える者はそうはいない。実行できる者はさらに少ない。そして、成し遂げた者は奇跡に近いだろうよ。


「コラウスがいらないと言うならオレがもらいます」


 この世界で生きてみてわかったことに種族には特性があるってこと。なら、人間やエルフにはないドワーフだけが持つ特性があるってことだ。誰もいらないってんならオレがもらってやるよ。


「……あなたは……」


「強い者は弱い者を守れ。弱い者は強い者を支えろ。理不尽に戦う人間の戦い方ですよ」


 人間の特性は集団になれること。纏められること、だと思う。


 それをオレにできるかはわからないが、今はそれができる状況だ。


 今のドワーフはなにも持っていない。食べるものも着るものも安らかに眠る場所もない。恩を売るなら最良の時。希望を持たせるなら今この時をもって他にないはずだ。


 ……いや、人間の最大の特性は、どこまでも汚くなれるってことだな……。


「あなたが先に動かないならオレが先に動きますよ」


 ドワーフは戦力となると信じてオレの未来をチップにして賭けてやるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る