第227話 嫌な予感

「オレはタカト。ゴブリン駆除を生業としている。あんたらはオレが預かることにした。不服ならついてこなくてもいい。昼前までに決めろ。あと、オレが出したものは十五日で消える魔法がかかっているから注意しろ」


 ドワーフたちにそう告げた。


 いきなりそんなこと言われても困るだろうが、オレもゆっくりはしていられない。やることがいっぱいあるんだよ。ついてこないならそれまでだ。


「ついていきます! どうか我々を救ってください!」


 斧を振るっていた男が真っ先に動き、オレの前で土下座した。てか、その体格で土下座とか大変じゃね?


「お救いください!」


 他のヤツも続いて土下座を始めた。


「オレはお前らに仕事を与え、給金を払い、寝床を用意してやるだけだ。救われたいのなら自力でがんばれ」


 人を救世主扱いすんな。オレにそんなカリスマ性や指導力はないぞ。


 マチェットを三本と試しで買ったタクティカルトマホークを二本、取り寄せてドワーフたちに持たせた。


「今はそれで我慢してくれ。町にいったら装備を調えるんでな」


 ドワーフの体型が人と違う。ジャージもスリーLでもぱっつんぱっつんだし、靴も合いそうにない。元の世界のものから探すより町で探したほうがいいだろう。


「あと、誰かこれを持て」


 もう使ってないKSGショットガンを大柄の男に渡した。


「名前は?」


「ガトーです」


「よし、ガトー。それはショットガン。お前に貸すから使いこなせ」


 砦の外に出て軽くレクチャーし、使い方を教え、三十発くらい撃たせた。


「しばらく練習していろ」


 バケツに入れた弾を取り寄せた。


「はい! 使いこなしてみせます!」


 気に入ったようでやる気に満ちている。がんばれ。


 出発の準備を進め、砦に残る者に水と食料(缶詰めと乾燥させた巨人パンとか)を用意する。


「十五日以内には戻ってこようとは思いますが、戻ってこれないときのために食料の確保はしておいてください」


 砦に残る冒険者代表のバリットさんに伝える。


 バリットさんは鉄印で、何十年とこの砦周辺で狩りをしていたとか。ミロイド砦にも何百回と泊まっているそうだ。


「ああ、わかった。ただ、ゴブリンが押し寄せてきたら逃げるからな」


「ええ。そうしてください。ゴブリンはオレらの獲物なんで」


 砦に巣食ってくれるなら最高の状況だ。催涙弾ぶち込んで、門から逃げ出してくるところを狙えばいいんだからな。


 十一時半に砦を出発した。


 昼飯は食わず、途中の休憩で小まめに摂り、十六時過ぎくらいにマルスの町に到着できた。


「ルスルさん。これで失礼します。なにもなければ十五日以内にはきます」


「わかりました。気をつけてください。宿にわたしの名を告げれば問題ありませんから」


 ギルド支部の横で別れ、ルスルさんに紹介してもらった大人数でも泊まれる宿へ向かった。


 宿は雑魚寝が基本のところで、料金の高い二階大部屋を大銅貨二枚で借りた。


「これは、安いのか?」


 二十畳あるなにもない大部屋はそう汚くないが、一泊六千円はどうなんだ?


「まあ、安くはないが、よそ者や他種族を嫌う宿はある。ルスルの名前と大銅貨二枚で黙らせた、って感じだろう」


「ミシニーも宿は苦労したのか?」


「コレールの町にはエルフが営む宿があったからな。寝泊まりに苦労したことはないよ」


 他種族が人間の中で生きるって大変なんだな。てか、エルフ、獣人、ドワーフ以外にも違う種族がいるのか?


「まあ、とりあえず食事にするか。ビシャ、女たちを頼むな」


 意外、と言ったらビシャに失礼かもしれんが、ビシャは面倒見がいい。赤ん坊のオムツ交換までやっていた。将来はいい母親になりそうだ。


 ホームに入ると、ラダリオンがいてMINIMIを手入れしていた。


「なにかあったのか?」


 棚に置いてあるMINIMIが三丁消えていた。


「モクダンの群れが現れた」


「怪我は?」


「ない。全部倒した。弾はかなり使っちゃったけど」


 二百発入りの箱マガジンが十箱はなくなっていた。三十箱は常備してたのに。


「まあ、怪我がないのならなによりだ。補充しておくか」


 残金三百万円を切ってしまうが、今は惜しむときではない。こんなときこそ万全の準備を調えておくべきだ。


 MINIMIの箱マガジンとショットガンの弾、グロックの弾と買っておく。


 巨人パンと大徳用のソーセージ、大鍋やカセットコンロを運び出し、気を楽にさせてやろうとパックワインを出してやった。


「ワ、ワインなんていいんでしょうか?」


「構わんよ。これは安いワインだし、一人二杯くらいしか飲めんだろうしな。もっと飲めるかは今後の働き次第だ」


「はい。しっかり働かしてもらいます」


 また土下座をするドワーフたち。それが文化なんだろうが、どうも嫌な気分になるな。なんだか自分がクズ野郎に思えてくるよ……。


「ミシニーはミロンド砦にはいったことあるか?」


「ああ、何度かいったな」


「悪いが明日の朝、向かってくれるか? どうも嫌な予感がするんだ」


 この嫌な予感がするときはゴブリンがなにか動いているときだ。これ、確実にダメ女神からなにかされているよな。


「タカトが言うなら従おう。稼ぎどきみたいだしな」


 そのポジティブが羨ましいよ。


「メビもついていけ。ミロンド砦までの道しるべをつけてくれ」


「わかった。ビシャ、ちゃんとタカトを守るんだよ」 


「言われなくてもわかってるよ」


 どうしてもオレは守られる立場なのね。まぁ、いいけどさ。


「お前たち。食ったら体を拭いて早目に就寝しろ。また半日歩くことになるんだからな」


 まあ、女子供はパイオニアに乗せるが、野郎どもは徒歩だ。オレは運転手をさせてもらいますがね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る