第228話 全体状況把握

 朝、宿の前で待っていると、パイオニア一号と二号がやってきた。


「シエイラが運転してきたのか」


 昨日の夜にミリエルにきてくれるよう頼んだが、まさかシエイラまで運転してやってくるとは思わなかったよ。


「わたしも運転してみたかったので、ミリエルにお願いしました」


 オートマとは言え、舗装されてない道をよく運転できたものだ。元の世界でも初めての運転は怖く感じるものなのにな。


「母親と赤ん坊はミリエルのほうに。残りはシエイラのほうな。男どもは装備を調えるぞ」


 さすがにジャージは防御力は1くらいしかない。せめて10くらいまで高めてやろう。じゃないといざってときに困るからな。


「ミリエル。女たちを頼む。あと、巨人たちにドワーフが住む家を造るように頼んでくれ」


 さすがに館には収まらない。宿舎的なものを造ってそこに住んでもらおう。


「はい。あと、ミロンド砦ですが、かなり崩れていて修繕は難しいそうです」


 嫌な予感が益々高まってきたぜ。


「嫌な予感がするから万全の用意をしろと伝えてくれ。念のため、ミシニーとメビを向かわせたから」

 

「わかりました。サイルス様にも連絡を走らせます」


 サイルスさん、簡易砦に向かったんかい。あの人もやる気満々だな。


 ミリエルたちを見送ったら冒険者が利用する店へ向かった。


 鍛治屋通りと呼ばれるところに冒険者が使うものが揃った店が並んでるそうで、早くから店は開いているそうだ。


 ルスルさんに教えてもらった店へ突撃。金にものを言わせてドワーフたちの装備を揃えた。


「タカトの旦那、こんなにしてもらっていいんでしょうか?」


「オレは弱いからな。周りを強い者で固めるんだよ。だからこれはオレの命を守るための必要なこと。恩に感じることはないさ。給金に見合った働きをしてくれたらオレはそれでいい」


 恩とか忠誠とかそんな重いものはいらない。お互いの利益を追及するドライな関係が一番楽でいい。凡人のオレの手で守れることなんて少ないんだからな。


「自分を守るため。家族を養うため。オレに雇われた。そのくらいの感覚でいたらいいさ」


 蓄えを築いたら辞めても構わない。ゴブリン駆除なんて発展性のある職業ではないんだからな。


「うーん。さすがにドワーフの足に合う靴はないか」


 身長の割りに足は二十七センチはあり、形もビッグフットみたいな足なので、サンダル的なものを辛うじて履ける感じだった。


「しょうがない。そのうち職人に作ってもらおう。今はそれで我慢してくれ」


「は、はい。わかりました」


「よし。ラザニア村にいくぞ」


 領内なので魔物の心配はなく、道もそれなりにいいので二十キロの道のりもそう苦ではない。休み休み進みながらも十五時過ぎにはラザニア村に到着できた。


「お前たち。まずは風呂に入って汚れを落とせ。下着とジャージは女たちが洗ってやれ」


 下着はルライズ商会がサイズ別に作ってくれてダインさんが届けてくれた。アルズライズも穿けるまでのがあったからドワーフでも大丈夫なはずだ。


「ドワーフの宿舎ができるまで館に住まわせてくれ」


 あれこれと職員に指示を出し、風呂から上がってきたドワーフたちに冷えたビールを出してやった。


 酒を飲めるような暮らしではなかったみたいだが、酒が好きな種族なのはファンタジーの世界のドワーフと同じ。ワインを水のように飲んでいたよ。


 ……ミシニーはエルフでも特別だったんだな……。


「お前たちをゴブリン駆除の請負員とする。ゴブリン一匹倒せばそのビールが二十本は飲める。他の酒も買える。美味いものも、いい服だって買えるんだ。暮らしをよくしたいのならたくさんゴブリンを駆除しろ」


 不遇な立場にいたドワーフなら暮らしをよくするためにたくさんゴブリンを狩るだろう。自分たちのために。家族のために、な。


 下着姿のまま、また土下座をするドワーフたち。


「旦那の意のままに」


 ビシャのヤツ、オレがホームにいってる間になんか言ったな。ったく。口止めしておくんだったよ。


「とりあえず、休め。体を回復させろ。働いてもらうのはそれからだ」


 職員に任せ、シエイラから簡易砦の状況を聞かせてもらった。


 まあ、ミリエルからも聞いてはいるんだが、聞き忘れや聞き逃しがあるかもしれない。情報は逐一変わるのだから小まめに聞かないと取り返しのつかないことになる。


「ゴブリンの目撃情報は少ないか」


「マスターのようにゴブリンの気配はわかりませんからね。隠れているのかもしれません」


 まあ、隠れているなら誘い出せばいいだけのこと。簡易砦は完全に冬に入ってからでもいいかもしれんな。


 シエイラにホワイトボードに簡易砦、ミロンド砦、ミロイド砦の状況を書いてもらい、オレはスケッチブックに書く。まったく、こちらの文字を覚える暇もないよ。


「オレは明日、ビシャを連れてミロンド砦へ向かう。どうもあちらの流れが悪い方向にいっている感じがするんだよ」


「女神様の警告ですか?」


「それだとオレは操られていることになるな」


 あんなポンコツに操られていたらオレはとっくに死んでいる。警報みたいなものは出しているかもしれんがよ。


「ビシャ。今日は早めに寝ろな。七時には出るぞ」


「わかった」


 ドワーフのことを頼み、オレはホームに。ラダリオン、ミリエルが揃ったらミーティングを行った。

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