第229話 893じゃないよ

「旦那! おれらも連れてってください!」


 朝、ウルヴァリンにガソリンを入れてたらドワーフたちがやってきて、そんなことを言った。


「まだ体力が回復してないんだから無理するな。ゴブリンはたくさんいるんだから」


 長い逃避行をしてきて一日や二日で回復するわけもない。完全に回復してから働いてくれたほうがオレのためになる。


「無理な者は残します。四人、連れてってください!」


 また土下座。それ、なんとかならんの?


「わかった。ミリエル。二号を運転してくれ。リハルの町まで乗せていくから」


 長々と説得するのも面倒だ。いきたいと言うなら連れていくまでだ。どうなるかわからんのだしな。


「リョウナとルカを呼んでくれ。ミリエルの護衛につける!」


 職員に二人を呼んできてもらう。


「二人はミリエルの護衛につけ。リハルの町にいくぞ」


 細かい説明はしない。ただ命令を下した。


「わかりました!」


「はい!」


 二人も山黒との経験で度胸がついたようで、すぐに了解する。


 人を乗せるために荷物はホームに移し、ビシャには悪いが荷台に立ってもらった。見張りも兼ねてな。


「出発する!」


 オレが運転するパイオニア一号が先頭になりリハルの町に向かった。


 リハルの町も大体十キロなので、到着までにそう時間はかからない。だが、やはりこちら側にはゴブリンの気配が少ない。なにか強いのがいるっぽいな……。


「タカト! 魔物の臭いがするよ!」


 ビシャの鼻も強い者がいることを示していた。


「こちら00。03、クラクションを鳴らせ。威嚇だ」


「03了解。クラクションを鳴らします」


 オレもクラクションを鳴らして魔物を威嚇した。


 リハルの町まで鳴らし続け、見えてきたら鳴らすのを止める。何事かと思われるのも面倒だからな。


 町に入る前でパイオニアを停め、一号はホームに戻し、各自の荷物を外に運び出した。


「リュウナとルカはリハルの町にきたことはあるか?」


「いえ、きたのは今回が初めてです。冒険者には縄張りみたいなものがありますから」


 あーなんか前にそんなこと聞いたような聞かなかったような? まあ、今回はゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの一員としてきたから問題ないだろう。


 ビシャにパイオニアの見張りを頼み、残り全員でギルド支部に向かった。


「次はあんたらかい。カインたちになにかあったのかい?」


 ミシニーたちもギルド支部に寄ったようで、深き水底──あれ? 暗きだっけ? 思いつきに言ったからなんだったか忘れたわ。


「なにかある前に向かおうと思いましてね。その前にゴブリン駆除ギルド員の顔合わせをしとこうと思ってギルド支部にきました」


 ミリエル、リュウナ、ルカ、ドワーフたちをミズホさんに紹介した。特にミリエルはゴブリン駆除ギルドのサブリーダーであることを教えておいた。


 ラダリオン? あいつはエースストライカー的な立場です。


「眠りの魔法や回復魔法が優れているようだね?」


 オレだけでなくミリエルのことも調べられてたか。まあ、当然と言えば当然だけどよ。


「そういうミズホさんは剣が得意とか。なんでしたっけ? なにかカッコイイ二つ名をお持ちとか?」


「カインがしゃべったのかい?」


 あ、あるんだ。はったりだったのに。


「カインゼルさんはなにもしゃべりませんし、こちらからも訊いたこともありません。ただ、領主代理と同じく背筋がいいからはったりを噛ましただけですよ」


 てか、腰に剣を差してんだから普通に剣士だと思うじゃん。


「……無害な顔して意地の悪い男だね……」


「この世には無味無臭の毒があるんですよ」


 それはなんだと訊かれたら答えられないけどさ。


「それに、ミズホさんは裏表がないから軽口が叩けるんですよ。サイルス様や領主代理は無味無臭の毒ですからね」


 デリカシーがないと言えばそうなのだが、サイルスさんや領主代理を知ったらミズホさんが純粋無垢に思えるよ。


「わたしは褒められてんのかい?」


「最上級に褒めてますよ。カインゼルさんが今でもあなたと仲良くしているのがよくわかります」


「言っとくが、わたしとカインはそんな仲じゃないからね」


 ため息をつくミズホさん。


「わかってますよ。性別を超えた友情ってあるものなんですね」


「ったく。あんたはやり難いよ……」


「オレはやりやすい人だと思ってますけどね」


 是非ともゴブリン駆除ギルドに引き抜きたいよ。まあ、そうしたらカインゼルさんがやり難そうになるから引き抜いたりはしないけど。


「オレたちはこれからミロンド砦に向かいます」


「魔物の目撃情報が多くなっている。気をつけな」


「ありがとうございます。帰りには報告に寄りますんで」


 ギルド支部をあとにしたらパイオニアに戻り、軽く食事をして、隊列を決める。


 先頭はビシャ。斧使いのロズ。マチェットと斧を使うライゴ。オレ。マチェット二刀流のマッシュ。殿はKSGを持つガドーだ。


「体調が悪くなったり疲れたりしたら遠慮なく言え。万全の状態でミロンド砦に着くことが目的。最悪の状況で戦闘すると思え」


 嫌な予感は消えてくれてない。それどころか不安が増している。これは絶対になにかある。


「ミリエル。なにかあればホームに入る。弾と食料の補給を頼むな」


「はい。無理しないでください」


「無理しないための人員投入だ。よほどのことがない限り無理のしようもないよ」


 カインゼルさんとアルズライズがいて、ミシニーも投入した。ゴブリンの王が軍勢を率いていても負けることはないだろうさ。


「ビシャ。タカトさんが無理しようとしたら殴っても止めるのよ」


 オレ、まるで信用ナッシング。そして、乱暴なことはしないで。


「ロズさんたちもお願いします。どんな怪我でもわたしが治しますから」


 ミリエルさんや。うちのギルドをブラックにしないでちょうだい。ホワイトギルドとしてやっていこうとしてんだからさ。


「お任せください、お嬢。旦那は必ず守ります」


 お、お嬢って。うちは893じゃないんだけど。清く正しいゴブリン駆除ギルドだよ。


「よし。迂回ルートをいくぞ」


 ミロンド砦に通じる道は三つあり、迂回ルートだと四日はかかるとか。だが、一番道が広くて逃げるならその道なんだそうだ。


 午前九時にリハルの町を出発した。

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