第230話 恐怖はない
一日目は順調な進みだったが、二日目の朝、一時間くらい進んだらゴブリンの気配を感じた。
「ビシャ、止まれ。ゴブリンの群れだ」
先頭のビシャに声をかけ、あちらに気づかれる前に気配をじっくりと確認する。
「あちらの方角にゴブリンが二、三百匹が固まっている。倒すぞ」
明らかに別動隊的な感じだ。これは確実に倒しておくべきのものだ。
「そんなにいたら倒し切れないんじゃない?」
「全滅させる必要はない。群れを崩したあとで各個撃破する」
群れを成すときはリーダーがいる。そいつを倒せば群れは瓦解するはずだ。
スケッチブックを出してゴブリンの配置、方角を描いて皆に教える。
「ビシャとガドーは南回りで向かえ。オレらが仕掛けて場が混乱したら撃て。オレの気配を確認して射線には入るんじゃないぞ」
スケッチブックに描いて作戦を教える。
「おそらくゴブリンを率いているボスがいると思う。どちらにいくかわからないからボスらしき者を見たら合流して戦うぞ」
勝てないときは即撤退。リハルの町まで戻ることを決める。
「ビシャとガドーが移動したら処理肉を谷に蒔く。他の魔物がいても戦うなよ」
「わかった。ロズのおっちゃん、タカトを頼むよ。側から離れないようにね」
「守られてばかりじゃ強くなれんだろうが」
「タカトは目を離したら死にそうになるじゃない」
それは否定できないので黙るしかなかった。
「お任せください。ガドー。嬢ちゃんを死なすんじゃねーぞ」
ビシャは嬢ちゃん呼びなんだ。ドワーフたちの中でオレたちの序列、どうなってんの?
「わかってるよ。KSGに誓って死なせたりしねーよ」
いや、そこまでKSGに価値はないぞ。誰も使ってないから使わせただけだし。まあ、本人のやる気を失わせたくないので黙ってるけど。
ビシャとガドーが移動したら残りにカロリーバーと水を飲ませ、胃が落ち着いたら処理肉を三十キロ買って谷にばら蒔いた。
狙える場所に陣取り、MINIMIを取り寄せ息を殺して待った。
「動いた」
処理肉の臭いに気がついたようで、一匹二匹と動き出し、すぐに群れが崩れた。ボスの統率力も食欲の前では無力のようだ。
谷はそう深くはないのでゴブリンは谷沿いから山からと集まってきた。
「少しずつ谷下に向かうぞ」
上からだと枝が邪魔して上手く狙えない。谷下に下りて薙ぎ払うほうがたくさん駆除できるだろう。
ばら蒔いた処理肉を争うように食い始め、狂乱化したときの臭いが立ってきた。
──今だ!
木々の間から飛び出し、ゴブリンに向けて二百発の弾丸をばら蒔いた。
二百も撃って駆除できたのは六、七十匹。箱マガジンは二万円だからまあまあの儲けにはなった。
「駆逐しろ!」
ドワーフたちに命じると、雄叫びを上げながらゴブリンの群れの中に突っ込んでいった。
なんて無双? って突っ込みを入れたいくらいゴブリンが宙を舞っている。ドワーフ、おっかねー……。
MINIMIとリュックサックをホームに持って入り、マチェットだけ抜いて外に戻った。
オレもゴブリンの群れに飛び込み、ドワーフたちが討ち漏らしたゴブリンに止めを刺していく。横取りとか言っちゃイカンよ。後ろから襲われないようにしてるだけです。
快進撃にゴブリンを駆逐していってると、気配の強いのがこちらに向かってきた。
「ボスがくるぞ!」
マチェットをゴブリンの頭に突き刺し、背中に回していたスリングを戻してVHS−2を構えた。
現れたゴブリンは赤い肌の上位種、ホグルスだった。ってことは魔法を使うミダリーもいるのか?
「一旦下がれ! ゴブリンの上位種だ!」
ドワーフを一旦下がらせて休憩をさせよう。
「タカト! 赤いヤツだよ!」
側面から攻撃していたビシャとガドーが下りてきて合流した。
「弾を補給しろ」
P90のマガジンと散弾を取り寄せて、補給させた。
「くるぞ!」
身長二メートルはあるホグルスが三匹も現れた。一匹じゃなかったんかい!
一匹だけ気配が強いから一匹だけと思ったじゃないか! なんの詐欺だよ!
「ゴォガァァアァァッ!」
上位種に相応しい咆哮を上げるホグルスくんたち。いろいろ経験してなかったら大洪水を起こしていただろうよ。
それに今はビシャやドワーフたちがいる。恐れることはなにもない!
先手必勝とVHS−2の引き金を引いた。
上位種なだけに5.56㎜弾では仕留め切れない。だが、P90とKSGが混ざれば効果はある。一匹は仕留め、一匹は逃げ出し、一匹は迫ってきた。
「やれ!」
ドワーフたちに止めを刺させる。
「ビシャ、ガドー、周りのを殺せ!」
ボスは三人のドワーフに任せ、オレらは周囲にいるゴブリンを削っていった。
狂乱化してしまったので、最初の数からかなり増えてしまったが、少なくとも四百匹は駆除できた。百万円はプラスできたぜ。
「休むのはあとだ。少し下がるぞ」
ガソリンをぶっかけて燃やしたいところだが、今はそんな時間も体力もない。補給もしなくちゃならない。昨日、野営した場所まで戻って立て直すのが先決だ。
「タカト、魔石!」
おっと、そうだった。上位種なら魔石はあるはず。置いてってはもったいない。
「上位種から魔石を取ってくれ。ビシャ、ガドー、補給だ」
魔石は三人のドワーフに任せ、オレらは弾の補給をする。
「旦那! 魔石を取りました!」
「よし。昨日の野営地まで戻るぞ」
まだ補給は終わってないが、なんか背筋がぞわぞわする。これはさっさと逃げろとの合図だ。素直に従って逃げさせてもらいます。アデュー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます