第231話 約束できないこと

 ──ピローン!


 野営地に向かっていると脳内に電子音が鳴り響いた。


 ──一万一千匹突破だよ~! 順調順調。がんばって~! 


 うっさいよ! ほんと、ミュート機能をつけて欲しいよ!


 ん? 報酬金が凄い勢いで跳ね上がっている。これは群れに襲われているのか!?


「タカト!? どうしたの?!」


 立ち止まったオレにビシャが周囲を警戒し、ドワーフたちもそれに続いた。


「どこかでゴブリンの群れが現れた。この跳ね上がり方は……カインゼルさんのところか?」


 駆除員がいないとこの跳ね上がり方はしないし、銃でないとこの短時間に報酬が入ることは無理だ。カインゼルさんとラダリオンがMINIMIを使っているんだろう。


「とりあえず野営地に急ごう」


 あと三十分の距離なので早歩きで進み、ビシャたちに休憩することを指示してホームに入った。


 MINIMIの箱マガジンがすべて消え、アサルトライフルのマガジンも大量に消えていた。


 急いで箱マガジンを二十箱買い足し、P90の空マガジンと弾を作業鞄に詰め込んでいるとミリエルが入ってきた。


「どうかしたんですか!?」


 オレがなにか言うよりなにかあったと察するミリエル。勘のいい娘だよ。


「カインゼルさんのほうで大規模な戦闘が行われている。タブレットを見ろ。いくらになっている?」


 近くのタブレットに手を伸ばし、増えていってるだろう報酬に驚いている。


「三百万円を切っていたのに五百万円を超えました」


「百万円はオレたちが駆除した。おそらく別動隊的な群れだったと思う。上位種のホグルスが三匹いた」


「三百から四百もいたんですか?」


 計算も速い娘だよ。


「ああ。他にもなにかいる気配もした。一旦、リハルの町に戻って、明日の朝に別ルートでミロンド砦に向かう」


「わたしもいきます」


「いや、ミリエルは館にいてくれ。これが陽動とも限らない。簡易砦かミロイド砦になにかあったときに対応してくれ」


 ホームに詰めていてもらいたいが、脚が治った今、もうホームにいることはできないだろう。はぁー。四人目を検討しなくちゃならんかな~?


「P90の弾込めを職員に指示を出して、銃の手入れをしておいてくれ。食料もすぐ食べられるものを頼む」


「わ、わかりました」


「ありがとな。ラダリオンが戻ってきたら状況を録音しておいてくれ」


 連絡用としてボイスレコーダーを買ったのだ。


 ベネリM4装備に換え、料理と水を抱えて外に出た。


「ビシャ。まだ体力は残っているか?」


「もちろん! 一日中でも走れるよ!」


「リハルの町に走ってギルド支部にさっきのことを話して、支部長に頼んで宿を取ってもらえ。オレたちがすぐ休めるように」


 これから危険を冒して三日かけて進むより一日戻って道のいい二日のルートを進むとしよう。


「わかった! おっちゃんたち、タカトを頼むよ」


「おう、任せろ」


 満足そうに頷くと、ビシャは元気に駆けていった。


「食事をして少し休憩したらリハルの町に戻る。休憩なしで、暗くなる前には着くようにするぞ」


 強行軍になるが、今はそれをやるべきとき。ドワーフたちにはあとで報いてやることにして無理をしてもらった。


 てか、ドワーフの体力バケモノすぎ! こちらは水を飲みながら回復してもひーひー言ってんのに、ドワーフたちは息も切らしてないよ!


「おれらはちゃんと食えたら人間の何倍もの体力や腕力を出せます」


 ただ、速く走れはしないとのこと。


「種族特性ってヤツか。完璧な生き物はいないもんだな」


 長所があって短所がある。当たり前と言えば当たり前なことだが、そのことを知らないと軋轢を生む。もっとドワーフのこと知らんといかんな。


 とは言え、それはあとだ。今は一刻でも早くミロンド砦にいくことに集中しろ、だ。


 がんばったお陰で暗くなる前にはリハルの町に到着。ビシャと支部長、何人かの冒険者が迎えてくれた。


「はい、水」


 差し出してくれたペットボトルを受け取り、頭からかけた。飲みすぎて横っ腹が痛い。体が熱い。足が動かない。吐きそうだ……。


「タカト、ホームに戻って。ミリエルに回復魔法をかけてもらって」


 このままではどうにもならんとビシャの言葉に従ってホームに入った。


「タカトさん!?」


 運よくミリエルがいてくれ、回復魔法をかけてくれた。ふー。


「……た、助かった。ありがとな……」


 ダメ女神に二段階アップさせられて、鍛えてきたと思ったが、どうやらまだまだのようだ。やはり、パイオニアに頼っているのが悪いんだろうか?


「無茶しないでください」


「無茶をしてでも急ぐ必要があったんだ。ラダリオンはきたか?」


「はい。魔王軍が攻めてきたそうです」


 ま、魔王軍ときたもんだ。オレの領分じゃないんだけど……。


「数は?」


「砦を囲むほどです。主にゴブリン、二割がモクダン、マーグが所々にいるそうです」


 ミロイド砦と同じ規模みたいだから軽く二千匹はいそうだな。


「率いている者は確認できたか?」


「鎧を纏った知性を持つゴブリンみたいです」


 魔笛のミサロじゃないようだが、またゴブリンと人間のハーフか?


「サイルスさんには伝えたか?」


「はい。ですが、急なので兵を集めるのに時間はかかりそうです」


 兵と言っても浮浪者だろう? とてもミロイド砦まで移動なんてさせられないだろう。実質、いる者で対応しなくちゃならないってことだ。


「わたしもいきますから」


 一歩も退かない目でオレを見るミリエル。説得するだけ無駄、っぽいな。


「くるときは数を揃えろ。巨人、残りのドワーフ、冒険者を部隊として纏めてミリエルが隊長として率いてこい」


 戦力の逐次投入は愚作と言う。なぜかは知らん。そう言われてんだから従っておこう、って考えです。


「わかりました。だから無茶しないでください」


 その言葉に答えず外に出た。

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