第232話 ビバ権力

「──支部長、魔王軍がミロンド砦を囲んでいるそうです。数は約二千。ゴブリン七、モクダン二、マーグ一のようです」


「魔王軍だと!? 本当なのか?!」


「そう言う報告でした。あと、指揮しているのは鎧を纏った知性のあるゴブリンだそうです。ビシャ、ロズたちを宿に案内してくれ。あと、請負員カードの使い方を教えてくれ」


 オレは支部長たちと町館へ。主だった者を集めてミロンド砦のことを語り、サイルスさんに報告したこと、応援として巨人とドワーフ、冒険者の混合部隊を送ることを伝えた。


「オレは明日の朝早くにミロンド砦に向かいます。あとのことは支部長にお願いします」


「あんた一人でいっても仕方がないだろう」


「ビシャと先行して、魔王軍を外から削ります。ミシニーたちも先行してますし、合流できたら応援が到着するまで時間稼ぎをします」


 魔王軍がミロンド砦を囲んでいるならカインゼルさんたちと合流はしてないはず。二人で突っ込むとも思えないから様子を伺っているはずだ。


「二千もの軍勢に四人で挑むなんて無謀だよ。死ぬ気かい?」


「死ぬ気なんてさらさらありませんよ。オレは老衰で死ぬのが目標ですからね」


 別に考えもなしに突っ込もうとは思ってはない。ちゃんと考えはある。そのために砦周辺のことも写真に収めてもらい、万が一、囲まれたときのことも話し合っているんだからな。


「申し訳ありませんが、先に休ませてもらいます」


「カインを頼むよ」


「仲間を見捨てるほど人間腐ってませんよ」


 なによりラダリオンを救わなきゃならない。こんなところで死なせたらオレは一生後悔する。考えもなしにゴブリン駆除員にした責任は果たさなければダメ女神のようなクズになるわ。


 借りた宿は町館にあり、なかなか高級そうなところだった。


 宿に入ると、ビシャがホール的なところから駆けてきた。


「休んでてよかったのに」


「タカトが一人でいっちゃいそうだったから待ってた」


 オレ、まったく信用されてなぁ~い。いや、信用されないことミリエルにしてきたけど!


「いくときはビシャも連れていくよ。オレ一人でどうこうできると思うほど実力はないし、度胸もないからな」


 情けないと言うなら好きなだけ罵ればいい。凡人中の凡人はそんな罵りなど軽く右から左に流せれるんだよ。


「明日の朝早くに出る。今日はゆっくり休め。部屋は?」


「二階のいい部屋を取ったよ。おっちゃんたちも二階だよ」


 一応、カウンターにいって宿の者に前金で銀貨一枚を払っておく。朝、バタバタしたら嫌だしな。


「旦那」


 汗を流したようで、ズボンにTシャツ姿になっていた。


「酒を出すから飲んでくれ。食事は?」


「今用意してもらってる。ばーちゃんが口利きしてくれたからいいものを出してくれるって」


 ビバ権力。仲良くしていてよかった。


 食堂に移り、ビールとジョニ黒、氷とソーダを取り寄せた。


「明日に残らないていどに飲んでくれ」


 オレはビールに手を伸ばしていっき飲み。余韻を楽しんだらジョニ黒に手を伸ばし、ドワーフたちに飲み方を教えた。オレはハイボール一択だけど。


「美味い! こんな酒が世の中にあるんだな!」


 ストレートでグビグビ飲むドワーフたち。ミシニー並みに酒に強いな!


「それは請負員だから買えるものだ。ビシャ、請負員カードの使い方は教えたか?」


「まだだよ。水浴びさせるのを優先したから」


 まあ、体力はバケモノ並みだが、汗は大量にかいていた。ビシャも鼻がいいから汗臭いのは堪えられないのだろうよ。


 請負員カードを見せてもらうと、大体一人十七万円くらいは稼いでいた。


 まずは好きな酒を買わせることから教える。そのほうが覚えやすいのはミシニーが証明しているからな。


「……ゴブリンを倒せばこんな美味い酒が飲めるのか……」


 教えてはいたが、実際に買ってみてようやく実感が持てたようだ。


「明日、オレとビシャで先行する。ロズたちはミリエルの部隊と合流してミロンド砦にきてくれ。それまでに体力を完璧にして食料や武器を買い揃えておけ。ミリエルの部隊が打撃軍。魔王軍に止めを刺してもらう。オレらは囮になってお前たちがくるのまで時間を稼ぐ」


「おれらはついていけないので?」


「パイオニアのような機械の乗り物を使う。ビシャも乗せたいところだが、初めて乗るもの。操るので精一杯だ。ビシャには悪いが、自力で走ってもらう」


「あたしなら大丈夫。荷物を軽くしたらパイオニアにだって負けないよ」


 ほんと、獣人はマジパネーよ。


「アハハ。頼もしい限りだ。でも、オレを置いてきぼりにはしないでくれよ」


 オレのテクニックでは三十キロも出せるかわかったもんじゃない。つーか、ぶっつけ本番でまともに運転できるかもわからんわ。


「はい、お待たせ。たくさん食べておくれ。ミズホ様からしっかり食べさせろって言われてるからね」


 肝っ玉かーちゃんが料理を運んできてくれた。


「ありがとうございます。さあ、明日のために食うぞ」


 ミリエルに回復してもらったとは言え、一番の体力回復は食って寝て、気持ちよく目覚めることだ。


 あ、でも、ミリエルがホームにいない間にオフロードバイク、買わないとな。


 なんてことを考えながらドワーフたちに負けないよう料理をかっ込んだ。

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