第233話 ラダリオン

 カワサキKLX230。悩んだ末に選んだオフロードバイクだ。


 車は好きだからそれなりの知識はあるが、バイクはそれほど興味はない。乗ったのもスクーターだし。


 だから自衛隊のバイクを買おうと思ったが、あそこまでの装備はいらない。つーか、使いこなせる自信がない。だから一般仕様の、と思ったら250CCは中古が多かった。


 あーこれは古いものだと理解して、230が新しかった。125CCもあったが、馬力を考えたら230だろうと、KLX230を選んだのだ。


 これがいいのかはわからない。が、詳しくないなのだから他を選んでも同じこと。本体価格四十四万円くらいだし、五十パーセントシールを使えば約二十二万円。よさげなアサルトライフルを買うようなもの。使い潰してもそう気落ちはしない。と思う。


 クラッチ式だが、まあ、そこまで知らないわけではないし、扱い方は知識として持っている。一時間も練習したらそれなりには扱えるようにはなった。


 装備は膝のプロテクターを追加し、VHS−2やリュックサックは邪魔だからホームに置いておく。


「ビシャ、先行してくれ」


 道はいいそうだが、舗装されているわけじゃないし、真っ直ぐでもない。ビシャに先導してもらわないとスカイジャンプして崖下に、ってことになりかねない。まずは駆け足ていどでお願いします。


「ロズ。頼むぞ」


「はい。気をつけてくださいよ」


 うんと頷きアクセルを回した。


 クラッチを握って足先で二速に。二十キロくらいで先導してくれるビシャを追った。


 道幅は一メートルくらいあり、往来が激しいのかしっかり踏み固められていた。


 それに、狩った魔物を運ぶためだろうか? リヤカーくらいの轍ができているし、倒木も端に寄せられていた。


 一時間ほど走って休憩する。


 林道みたいな道なのですんなり走れたが、初めての運転だから疲れた。歩くより早く移動できてるのだから無理する必要はない。おそらく陽が暮れるまではゴブリンが察知できる距離までは詰められるはずだ。


「ゴブリンはいないな?」


「他の魔物の臭いもないよ」


「ミロンド砦に集中させているんだろう。人間の軍なら見張りなり立たせているものだがな」


 まあ、獣同然の魔物に細かい指示を出すなど不可能だ。仮にできるとしても見張りを立てない時点で軍勢を纏める者の質がわかると言うものだ。


「数と勢いで侵略するタイプか」


 じゃあ、数と勢いを殺す作戦を取るしかないな。


 水を飲み柔軟体操をして疲れを回復させる。


「ビシャ。疲れはないか?」


「このくらいじゃ疲れないよ。ゆっくり走ってたからね」


 少なくとも十五キロは走った。アップダウンの激しい道を。それで汗一つ、どころか涼しい顔している。身体能力が高くても人間に捕まるのだから知恵の大切さがよくわかると言うものだ。


 三十分休んだら再出発。さらに一時間走ったらゴブリンの気配を感じた。


「ビシャ、止まれ!」


 エンジンを切り、道横に倒したらVHS−2を取り寄せる。


「あちらの方角、三キロ先。約百。こちらの方角、二キロに同じく約百。数からして別動隊だと思う」


 スケッチブックを取り寄せて方角を調べてゴブリンの別動隊の配置を描き、その別動隊を襲うことを話した。


「なにか魔物の臭いはするか?」


「ううん。獣の臭いもしない。鳥も鳴いてない」


 そう言えば辺りが静かだ。鳥の囀ずりすら聞こえない。気がつかんかったよ。


「少しホームに入る。警戒しててくれ」


 KLXを立てて跨がったままホームに入ると、ラダリオンがいた。


「そちらはどうだ?」


「昨日の夜中から膠着状態。銃の届く範囲に入ってこなくなった。今は交代で休憩してる」


「そうか。かなり弾を使ったようだな」


 MINIMIの箱マガジンがすべて消えていた。ショットガンの弾もなくなりそうだ。アサルトライフルの弾も残り少ないな。


 ……報酬は五百万円を超えているが、確実に百万円は消える勢いだな……。


「オレとビシャは先行して近くまできている。ゴブリンの別動隊が二ついたから壊滅させる。ミシニーとメビは合流したか?」


「ううん。南側にはいる感じ」


 やはり合流しないで隠れて機会を伺っているか。


 ミシニーとメビのいる方向はなんとなくしか感じないからまだ十キロ以上は離れている感じだな。ちなみに請負員の気配は十キロ以上だとなんとなく方向がわかるくらいなんだよな。


「砦の様子はどうだ? 士気は落ちてないか?」


「大丈夫。水と食料はあるし、ミニとベネの使い方を冒険者に教えた。応援もくるから士気は高い」


「ミリエル、怒ってたか?」


「カンカンに怒ってた」


 だよな~。二、三発殴られたら許してくれるかな?


「大丈夫。ミリエルは弱い自分に怒っているだけ。守られてばかりの自分に。あたしも守られるだけの女じゃない。あたしはあたしの意思でタカトの側にいるんだからタカトが気に病む必要はない」


 ラダリオンにはバレていたか。オレが後悔してることや責任を感じていることに。


「あたしはラダリオン。タカトを守る火の槍だよ」


 どういう意味だ? と問う間もなくポリタンクを両手に持って外に出てしまった。

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