第234話 増援

「よし。まずは一番離れている別動隊を潰すぞ」


 準備を調えたら出発する。


 目指す別動隊までは約三キロ。ビシャに先導してもらって向かった。


 オレを気遣ってか、ビシャの進みはゆっくりだ。三十の男が十四歳の少女に気を遣われるとか情けない限りだよ。


 とは言え、男のプライドがどうこう言える立場ではない。ビシャの心配りに感謝してついていきましょうだ。


 休み休み進み、方角と印をつけながら二百メートルくらいまで近づいた。


「ゴブリンは固まっている。グレネードを撃ち込むぞ」


 グレネードを撃ち込みやすいよう山を登った。


 催涙弾を入れた作業鞄を取り寄せ、防毒マスクを装着。M79グレネードランチャーをビシャに。オレはグレネードランチャーつきのVHS−2に持ち換えた。


 なるべく別動隊の中心に向けて発射。手持ちの催涙弾を撃っていくと、ゴブリンが悶え苦しむ気配が伝わってくる。


「逃げないな?」


 百匹の別動隊を覆うほど催涙弾は広がってくれない。端にいるのは充分逃げられるはずなのに、なぜかさらに固まり始めた。習性か?


 しばらくすると何匹か死に始めた。催涙弾、相変わらず凶悪だよ。


「よし。片付けるぞ」


 防毒マスクを装着。マチェットを抜いて別動隊に向かった。


 ゴブリンの苦しむ悲鳴が耳障りだが、ゾンビ化対策として首や足首にマチェットを突き刺していった。干からびたらゾンビになっても動きは鈍いだろうからな。


「上位種か?」


 他のゴブリンよりは体格のいいのが涙や鼻水を垂れ流しながら苦しんでいる。


 まあ、なんでもいいとマチェットを振り、首を切ってやる。あとは体に残った水分を取り出してやり、首を落としてやった。


 二人で手分けしてやったが、五十匹もマチェットで止めを刺すってのは疲れるものだよ。


「ビシャ。次にいくぞ」


「わかった」


 次の別動隊まで約二キロ。今度は百五十匹はいそうだ。


 催涙弾の効果がなくなるくらい離れたら防毒マスクを取り、新鮮な空気を大きく吸った。


「ビシャ。休憩しよう。今のうちに軽く腹に入れておけ」


「うん。わかった」


 モスなバーガーを買い、なんかのシェイクで流し込んでいる。オレは飲料ゼリーを飲むのが精一杯だよ。


「よし。いくぞ」


 残り約一キロを詰め、また山の上から催涙弾を撃ち込み、いい感じに燻されたら止めを刺しに下りた。


 なんとか止めを刺し終わる頃には十六時を過ぎていた。やはり二人では限界があるな。


「さすがに疲れたな」


「うん。お腹空いたよ」


「そうだな。少し下がって野営の準備をしよう」


 かなりミロンド砦に近づいている感じがする。ここでは火も焚けない。二、三キロくらい下がったほうがいいだろう。

 

 最初に別動隊を感じた地点まで戻り、少し道から奥に入ってホームからパイオニア二号を出した。 

 

「ビシャ。パイオニアの中で体を拭いておけ。オレは隠す枝を切ってくるから」


 近くの枝を切り落とし、パイオニアに被せていく。


 終わったら極細のワイヤーを取り寄せて周囲に張り巡らせ、ブービートラップを仕掛けた。


「タカト。終わったよ」


「おう。じゃあ、夕飯にしよう」


 火を焚こうと思ったが、枯れ枝を集めるのも面倒だ。パイオニアの中ででき合いのものを食べることにした。


「ホームにいってくる。眠いだろうが外を警戒しててくれ」


 サーマルビジョンつきの単眼望遠鏡を渡し、ホームに入った。


 玄関の作業台にボイスレコーダーが立ててあった。どうやらミリエルが吹き込んだみたいだ。


 再生すると、準備ができたからリハルの町に向かうとのことだった。


 巨人八人。ドワーフ三人。冒険者と職員が十八人。ミリエルを合わせて三十人。数的には少ないが、巨人が八人もいるとなると百人には匹敵する、か? よくわかんねーよ。


 まあ、眠り魔法の使い手たるミリエルがいるんだから充分な数だろうよ。


「また戦闘があったのか?」


 箱マガジンがすべて消えていた。


 報酬が増えていたことはわかっていたが、気にしている余裕はなかった。タブレットを見たら八百万を超えていた。


「五、六百匹は倒しているだろうに、それでも退かないか」


 普通の軍隊なら撤退する損害だろうに、それでも撤退しないのは微々たる被害なのか、またはまだ兵力があるかだ。それとも退けない理由があるのか?


 わからないが箱マガジンをまた三十個買い足し、二十発入りの催涙弾を四箱買った。


 冷蔵庫を確認したら空に近い状態。水を入れてたポリタンクも空。作る暇もないようだな。


 コ○トコのパンや食品を適当に買って冷蔵庫に詰め込み、水も買って玄関に積んでおく。一人じゃ追いつかないな!


 なんだかんだと一時間近く買い物に費やし、シャワーを浴びるのも面倒と外に出た。


「静かだな」


 虫の鳴き声は聞こえるが、獣の鳴き声は聞こえない。ゴブリンの気配はまばらに感じる。


「ミロンド砦に向かっている?」


 数は少ないが、どいつもミロンド砦のほうに向かっている。なにか呼び寄せるものでも持っているのか?


「増援か。勇者はなにやってんだよ。オレより恵まれてんだからしっかり仕事しろや」


 こっちは大した力ももらえず大軍と戦ってんだぞ。勇者なら魔王城に突っ込んでいけや。


「ビシャ。先に寝ろ。一時に交代だ」


「なにかあればすぐに起こしてよ」


「起こすよ。夜の戦いはビシャのほうが優れているからな」


 まあ、朝の戦いもビシャのほうが優れているけど!


 携帯カセットコンロを出し、お湯を沸かして苦いコーヒーを飲んで周囲を警戒した。

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