第235話 沼

 何事もなく時は過ぎて夜中に交代。何事もなく朝を迎えられた。


 とは言え、パイオニアの中で眠ったから体が痛い。早く弾力あるマットレスの上でぐっすり眠りたいよ……。


「ビシャ。体の調子はどうだ?」


「ぐっすり眠ったし、いっぱい食べた。タカトが眠ってる間も体力を温存してた。今日もたくさんゴブリンを殺せるよ」


 とても頼もしい言葉ではあるが、十四歳の女の子が言ってるかと思うと悲しくなってくるよ。


「今日はミロンド砦の近くまで進んでみる。もしかするとすぐ戦闘になるかもしれないから注意しろ。もし、オレとはぐれたらミシニーのほうの道を戻ってミリエルたちと合流しろ。オレはホームに入って援護に回るから」


 朝飯を食いながらミーティングをする。


「砦には向かわなくてもいいの?」


「いけるのならいきたいが、おそらく砦は魔王軍に取り囲まれているだろう。そこを無理矢理突っ込んでも危険なだけだ。なら、合流して挟み撃ちにする」


 近くにあった石と枝で説明する。


「またタカトが無茶する未来しか想像ができないよ」


「オレだって無茶も無理もしたくないよ。けど、凡人のオレは無茶も無理もしないと生き残れない。逃げた先に幸せがあるなら地の果てだって逃げるさ。だが、オレは見張られている。ゴブリン駆除を強制される。下手したらオレだけ別の土地に移動させられるかもしれない」


 別世界から転移させられるだけの存在。同じ世界を移動させれるくらい造作もないだろう。でなければ誰かは十年二十年と生きているはずだ。五年がやっととかどう考えてもおかしいだろう。


「オレは逃げられない。生きてゴブリン駆除を続けるしかないんだ」


 死ぬその日までな。


「そんな顔するな。オレは凡人だが、諦めの悪い凡人だ。どんな手を使っても生きて生きて生き抜いて、老衰で死んでやる。だからこそギルドを立ち上げ、巨人やドワーフを引き込んだんだ。弱いなら群れる。群れて強い集団となる。そうすれば生き残れる確率が上がるってものだからな」


 さらに面倒なことになりそうだが、請負員を増やすだけでも生き残れる確率は上がる。千人も請負員にしたら環境は変わる。ゴブリンも魔物も少ない地域はできるはずだ。


「万が一のときはホームに戻るし、ホームを使った戦い方もできる。ビシャは自分の命を優先して、他と協力して危機を取り除いてくれ。オレが安全にホームから出れるようにな」


 安心するようビシャの目を見て語りかける。


「……わかった……」


「あくまでもお互いがはぐれたときだ。生き抜くには万が一のときも考えなくちゃならないからな」


 朝飯を食ったらパイオニアをホームに戻し、KLXを出した。


 リッター三十から四十キロなので燃料は問題なし。転んでもないから欠損もなし。エンジン音も好調。道に出て出発した。


 道なりに五キロくらい走ると、察知範囲にゴブリンの群れを感じ取った。


「ビシャ、止まれ!」


 すぐにエンジンを切り、ホームに入れた。


「別動隊があちらこちらにいるな」


 まだ察知できるギリギリのところにいるから三つしかわからないが、それでも五百匹はいる感じだ。


「突っ切るのは無理っぽいな」


 KLXの音で集まってきそうだ。なら、狂乱化を起こさせて引き離すとしよう。


 少し歩いて一ヶ所に集めれる場所はないかを探すが、これと言って適当な場所がない。


「沼か」


 道沿いに野球場くらいの沼があった。


「ドライアイス戦法は無理っぽいな」


 二酸化炭素が溜まりそうな地形ではないし、沼のほうから風が吹いている。やるだけ無駄だろう。


「ん? ゴブリンがバラけたな。エサ探しか?」


 作戦を考えていたら三つの別動隊がバラけた。


 エサでも探しているのか、三つの別動隊がバラけて広範囲に広がり始めた。


「……よし、ビシャ。ブービートラップを仕掛けるぞ」


 手榴弾四十個と催涙グレネード四十個を買ってきて周囲の木に仕掛けた。


 あまり効果はないだろうが、足止めていどにはなるだろう。狂乱化させるのが目的だしな。


 次に処理肉を買っているとラダリオンがホームに入ってきた。


「ラダリオン。オレらは狂乱化を起こす。そちらも処理肉をばら蒔いて狂乱化を起こせ。おそらくミシニーとメビが参戦するだろう」


 じっと隠れているならオレたちの動きに合わせようと潜んでいるのだろう。ミシニーが一流の冒険者ってのがよくわかるぜ。


「わかった。あと、砦の回りにいるゴブリン、なんだかイラついているみたい。その場を離れるゴブリンを見せしめに殺してた」


「力で従わせているタイプのいい見本だな」


 知能の低いゴブリンを率いるなら仕方がないことだが、軍隊としては失格だ。どこぞの国の軍隊といい勝負だ。どこだとは言えないけど!


「ミリエルたちも今日の朝にリハルの町を発った。明日の夜には近くまでくるだろう。踏ん張りどきだ。油断するなよ」


「わかってる。タカトと合流するまでは油断しない」


 なにか逞しくなっているラダリオン。いったいなんの成長物語があったの?


「弾薬は充分だと思うが、足りないときは各自で買ってもらってくれ。あとで補填するから」


 カインゼルさんもアルズライズも結構な数を駆除しているはず。弾なら問題なく買えるだろうよ。


「大丈夫。タカトはタカトの戦いをして」


 そう言うと、食料を抱えて出ていった。


 しばしラダリオンの頼もしさに茫然としていたが、オレも処理肉をダッシュートしてから外に出た。

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