第236話 重症

 処理肉を広範囲にばら蒔き、臭いが拡散されるよう焚き火を起こして放り投げた。


「部位を切り落とした余り肉なのにいい匂いさせやがるぜ」


 食欲がなかったが、いっきに食欲が湧いてきた。冷めたハンバーガーを取り寄せ、半分食べて放り投げる。決して食べ物を粗末にしているわけでないので非難しないでね。


 食欲は出たが、ハンバーガーを六個(半分だけど)も食うと胃がもたれてきた。もうそんな歳なんだろうか? 二十歳の頃は五個くらいペロリだったのにな。 


「ん? 臭いを嗅ぎ取ったか。まったく、嗅覚が鋭いヤツらだよ」


 まだ罠を仕掛けたいが、釣れたことでよしとしておこう。 


「ビシャ! もういいぞ! 沼へこい!」


 張り巡らせたワイヤーに気をつけながら沼へいき、ホームに入って以前買った五万円のゴムボートを出した。


「沼に出るぞ」


「沼になにかいるんじゃない」


 あ、それは考えてなかった。じゃあ、手榴弾をいくつか放り投げてみるか。ホイっとな。


 水柱が上がり、しばらく見守ると、なにかが出てきたっ!? なんかオオサンショオウみたいなのが!? デカ! グロ! キモ!


「ミションドだよ。よく沼に住んで水を飲みにきた獣を沼に引き込んで食べちゃうんだよ」


 マ、マジか!? 異世界の沼、おっかねーな! 今後、沼を見たら手榴弾を放り込もうっと。


「ビシャ。ヒートソードを沼に入れろ。五百度くらいにして」


 まだなんかいそうだ。念のために湯攻めしておこう。


「わかった」


 ヒートソードを抜き、五百度くらいにして沼に刃を突っ込んだ。


 ボコボコと沼が沸いていき、小さなオオサンショオウがわらわらと出てきて山の中に消えていった。どんだけいんだよ!?


「チッ。もうきたか」


 沼にゴムボートを浮かべ、荷物を乗せて漕ぎ出した。


「暑いな」


 湯気が出るくらい湯立っているんだから仕方がないんだけどさ。あと、臭い。防毒マスクしとこっと。


 湯気を水魔法で操り、ゴムボートを隠した。


 これは風呂で練習してきた。今なら水の膜を作れるくらいにはなったぜ。


 ゴブリンの鳴き声がどんどんと近づいてきて、気配も染められていった。


「凄い数だ。五百以上は集まったな」


「ゴブリン、沼に入ってくる?」


「いや、水には入ってこないと思う。泳ぎができると思わんしな」


 断言はできないが、オオサンショオウがいそうな沼に入る度胸があるとは思えない。まあ、入ってきたら茹でタコにしてやるさ。それにしても暑いでござる。


 処理肉をばら蒔いたところまでいくと、ブービートラップが発動。手榴弾の爆発と催涙グレネードが炸裂する音が奏でられた。


 風上にいるので催涙ガスが流れてくることはないが、留まることもない。次々と撃ち込まないと意味がなくなる。


「ビシャ、やるぞ」


「わかった!」


 オレはVHS−2についたグレネードランチャーで。ビシャはM79で催涙弾をゴブリンの群れの中へ撃ち込んでいった。


 四十発があっと言う間になくなり、ゴブリンの阿鼻叫喚があちらこちらから聞こえてくる。


「催涙ガスが流れたら止めを刺すが、時間がもったいないから念入りにする必要はないからな」


 これは砦に向かわせないためのもの。ゾンビ化したときはそんときだ。


「じゃあ、撃ったほうが早いね」


「そうだな。相当な数が悶えている感じだし」


 沼も冷めるまで待ち、催涙ガスがなくなったら岸にゴムボートを寄せた。片付けはあとだ。


「バラけるのは危険だから一緒に止めを刺すぞ」


「わかった」


 単発にして阿鼻叫喚なゴブリンどもに止めを刺していった。


 手持ちのマガジンがあっと言う間になくなり、取り寄せては止めを刺していくを繰り返した。こんなことならP90にするんだった。弾、五十発入りだし。


「……タカト、疲れた……」


「……オレもだ……」


 阿鼻叫喚のゴブリンを撃ち殺すだけの簡単なお仕事なのに、乱戦より疲れるぜ……。


「もう昼だし、休憩しよう」


 まだまだゴブリンはいるが、二人で五百匹以上は殺した。充分数減らしはできたはずだ。


 沼まで戻り、見張りを頼んでゴムボートを持ってホームに入ったらミリエルがいた。


 あ、そっちも昼か。


「そちらはどうだ?」


 まだ怒ってる? と、恐る恐る話しかけた。


「銃声が聞こえるところまできました」


 笑顔でずかずかと近づいてくるミリエルが怖いです。まだ怒ってくれたほうが安心できるよ……。


「もう、無茶するなとも無理するなとも言いません。わたしが、タカトさん以上に無茶も無理もしますから」


 はぁ? え? どういうこと?


 戸惑っているオレの両頬に手を当てると、回復魔法をかけてくれた。


「夜か朝には追いつきます」


 そう言うと、リヤカーに食料を積んでホームを出ていってしまった。


 しばし茫然としていたが、そんな悠長な時間はないと、冷蔵庫からケーキの箱を出して外に出た。


「ビシャ。午後三時まで休む。食べたら昼寝しろ。砦に乗り込むぞ」


「ミリエルたちがきたの?」


「ああ。銃声が聞こえるまでは近づいているそうだ」


 ミリエルがいたことを伝えると、なぜかため息をつかれた。なんで?


「ほんと、タカトは鈍感なんだから」


「オレは察しのいい男だぞ」


 空気も読めるし、気遣いもできる。まあ、だからってモテたことはないがな!


「ハァー。重症だよ」


 さらにため息をはかれた。なんでぇ~っ!?

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