第225話 脱走者
これと言った問題もなく四日目の作業が終わった。
処理肉のばら蒔きが功を奏したようで、察知範囲に数百匹も集まった。これ以上は狂乱してしまいそうなので止めておくべきだろう。
砦に戻り、ルスルさんと話し合いをする。
「修繕の進み具合はどうです?」
「六割、と言ったところですかね? 寝泊まりできる小屋や薪もあるていど備蓄できました」
四日で六割とか、どんな修繕したんだ? 小屋もいくつかできているし。どれだけ優秀な人材を連れてきたのよ?
「明日戻るので?」
「はい。カインゼルさんたちがいるミロンド砦はまだ時間がかかりそうなので、そちらにもいってみようかと思います」
魔物がいたせいで到着に三日かかって、昨日から修繕を始めたそうだ。
「あちらは魔境ライゾムがありますからね」
なにやらまた不穏な言葉が出てきたんですけど。魔境? ライゾム? そういうファンタジーはノーサンキューなんですけど!
「どういうところなんです?」
「人が立ち入れない場所です」
うん。ゴブリン駆除員のオレには関係ないところのようだ。よかったよかった。
「──誰かくるぞ!」
ホッとしたところに見張りの叫び。心臓が止まるかと思ったわ!
「どちらからだ!?」
ルスルさんが叫んだ。この人、叫べたんだ。
「西です! まだ遠くてわからないが武装をしています! いや、集団です! 数は十から十五!」
「マガルスク王国から逃げ出してきたのかもしれません」
ミロイド砦の西にはマガルスク王国とやらがあるらしい。
ルスルさんによればマガルスク王国は奴隷階級ってのがあって、酷い圧政を強いているんだとか。それでよく逃げ出してくる者がいるそうだ。
「この国とは山々が間に入っているので国交はありません。そのせいか、あえてこちら側に逃げてくるんです」
マガルスク王国までは歩いて十日から十五日。冒険者でも過酷な道のりなんだとか。よくそんな危険な山々を抜けてきたものだ。
「ロースランの群れです!」
最後の最後に運のない脱走者たちだ。
「ミシニーとビシャは出てくれ。メビはオレと援護だ。上がるぞ」
もう少しで暗くなる。さっさと追い払わないと砦まで襲われ兼ねないぞ。
メビと防壁の上に昇り、見張りが指差す方向を単眼鏡で覗いた。
「ロースランの群れを一人で抑えているよ」
小柄な男が軽く四倍はあるロースランの群れを斧で近づけさせないよう奮闘していた。
「ロケット花火、用意! メビ。Hスナイパーを使え」
Hスナイパーを取り寄せてメビに渡した。
「無理に当てようとしなくていい。ミシニーとビシャが向かうまで時間を稼げ」
「任せて!」
銃の才能があるメビには狙撃手として育ってもらいたいので、時間があるときはスナイパーライフルを練習してもらっていたのだ。
「ロケット花火、用意!」
緊急時の警報として見張りにはロケット花火の扱い方を教えてある。
「まずは一発。メビ。タイミングを逃すなよ」
「大丈夫。外さない距離だから」
目標まで約四百メートルが外さない距離なんだ。銃の申し子かな?
「一発、点火!」
「はい!」
ロケット花火が打ち上がり、上空で弾けた。
ロースランの群れの動きが止まった──ところにメビが撃った徹甲弾がロースランの肩に当たった。
「あん! 弾が流れた! 次は当てるからねっ!」
宣言通り、ロースランの首に直撃した。
「順次点火!」
ロースランが我を取り戻す前にさらにパニックにさせてやる。
そこにメビの射撃が当たり、さらにパニックを起こしている。ロースラン、頭がいいんじゃなかったのか?
マガジンを交換してロースランの太い脚を狙っていくメビ。逃がす気はないようだ。
「メビ。ストップ。ビシャが到着する」
獣人とは言え、ビシャの走るスピードは凄まじい。どんな脚力してるんだか。蹴られないよう気をつけないと。
どうやらヒートソードを持っていったようで、ロースランの脚を焼き斬っている。あちらも逃す気はないらしい。姉妹だな~。
ミシニーも追いついて、ロースランに火矢を放った。
「ルスルさん。オレもいきます。見張り、お願いします」
「はい。無理しないでください。モニルたちもいってくれ」
二十代半ばのチームと向かった。
四日の間、何度も登り降りしたが、一日に何度もは結構キツいもんである。夜にミリエルに回復してもらおうっと。
「ドワーフだ」
やけに背の低い集団だと思っていたら、冒険者の一人がそう呟いた。ドワーフ!? そんなものまでいたんかい! そのうち竜人とかまで出てきそうだな!
「誰か一人、ドワーフたちを砦に連れてってくれ。二人は警戒。残りはロースランを解体するぞ」
冒険者にも序列があるようで、集団になったら上位者に従うことが暗黙の了解となっている。だから上位者は下を指揮するように心がけろとミシニーに言われました。
チームリーダーのモニルに決めさせ、オレは全滅させた二人のところに向かう。
「ご苦労様。暗くなる前に解体してしまおう」
ロースランは食えるので、冒険者たちに持ってってやろう。下手に残してゴブリンが寄ってきたら困るからな。
倒したロースランは五匹。サイズからしてこのロースランも家族で群れているようだ。
魔石もそれなりのサイズで、長いこと生きていたことがよくわかる。
持ちきれない部位はガソリンをかけてミシニーに焼いてもらう。これならゴブリンは寄ってこないはずだ。
辺りはすっかり暗くなり、ゴブリンの気配がざわめき立っている。まだロースランがいるみたいだ。
「よし。砦に戻るぞ。殿はオレとミシニーがやる。ビシャはライトをつけて警戒しろ」
九千ルーメンのLEDライトを取り寄せ、威嚇するように振りながら砦に向かった。
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