第238話 ミロンド砦攻防戦

 M32グレネードランチャー。


 これが正式名称なのかはわからないが、銃器雑誌にはそう書いてあった。なので、オレの中ではそう呼ばさせていただきます。ハイ、決定。


「軍事兵器ってなんでこんなに高いんだろうな?」


 ピンキリではあるが、M32グレネードランチャーも二十五万円から四十八万円までばらつきがあった。


 まあ、五十パーセントオフシールを使うからアサルトライフル並みに買えるが、通常料金だったら絶対買うか。ゴブリン百匹駆除するのにどんだけの苦労があると思ってんだ。いくら必要だからってポンポン買ってらんねーよ!


 でも今なら五丁(グレネードランチャーも丁でいいのか? 門か? なんだ?)は買える。いや、十丁は買いたい。だが、M32グレネードランチャーだけで百万円が限界だ。MINIMIやP90も新調しなくちゃならない。今回勝ってもマイナスになったら実質敗北だわ。


 二丁はラダリオンに持たせ、一丁はオレ。一丁はカインゼルさん。残り一丁は予備だ。万が一のときのために備えて、な。


「榴弾も高くて嫌になるぜ」


 それでも大軍を相手しなくちゃならないと、八十発を買った。キリキリ痛む胃に堪えながら。


 回復薬を一粒飲んでから外に出て、ラダリオンを連れてホームに入る。


 M32グレネードランチャーの扱い方──なんて知らないので、ラダリオンと一緒に考えた。


 やはりラダリオンは銃の才能があるか、オレより理解するのが早い。つーか、オレが教えてもらう立場だよ。


「元に戻って正面にいるゴブリンを爆撃してくれ」


 巨大化すればちょっとした榴弾砲だ。密集しているところに撃ち込めば大打撃を与えられるはずだ。


「ラダリオンは正面十二時方向を頼む。オレは三時方向を受け持つ」


 九時方向はビシャとメビ。六時方向はミシニーだ。冒険者はそのサポートとのことだ。


「P90の弾入れてもらうか」


「人はいるからやらせるといい」


 ってことで小屋の一つに案内してもらうと、五人の若い冒険者が中で弾入れをしていた。


「これもお願い」


「外はどうなんだ?」


 リーダーらしき二十歳くらいの男がラダリオンに尋ねてきた。


「あまり変わってない。けど、これから反撃に出るから弾入れ急いで」 


 これまではオレの陰に隠れて人と接触してこなかったが、今は積極的に前に出ている。なにがあったの?


「オレはタカト。ラダリオンやカインゼルさんの仲間だ。生き残れたら特別報酬を払うからがんばってくれ」


「あんたがタカトかい。ラダリオンから聞いているよ」


 そこまで他人と接触してたのかよ。ほんと、なにがあったのよ?


「情けないことを聞いてないことを願うよ。過大評価は迷惑だからな」


 今は無駄話している暇はないので、P90の弾入れを教えた。


「G3の弾を取りにきた!」


 まだ少年が小屋に飛び込んできた。補給係か?


「できてる」


 G3のマガジンが収まった鞄を少年に渡すと、すぐに飛び出していった。


 さすが兵士長だった人。人の動かし方が上手い。オレも動かして欲しいよ。


「暗くなってきたな。夜も攻めてきたか?」


 率いられたゴブリンは昼も夜も関係ないが、もう四日くらい砦を囲んでいる。食料など持参するわけもないんだから二十四時間攻め立てるなんて不可能だろう。


「撤退すると思う。見張りを残して夜は下がってたから」


 と、なにか叫ぶ声がした。


「率いているヤツの叫び。そうするとゴブリンは退いて、モクダンが見張りに現れる」


 メビのところにいってメガネを借りて周囲を探ると、モクダンと思われる熱があちらこちらに見て取れた。


「……逃がさないってことか……?」


 目的がコラウスを襲うことならミロンド砦など無視してしまえばいいものを。なんでここに固執するんだ? オレたちのほうが危険と判断したからか?


「どちらにしろ、統率力はありやがるな」


 狂乱化を静めるほどの力があるってことか。ちょっと誰か、勇者を呼んできてくれませんか? 出番ですよ!


「タカト」


 重い気分でいたらカインゼルさんとアルズライズがやってきた。


「ありがとうございます。よく持ち堪えてくれました」


 カインゼルさんじゃなき全滅していたことだろうよ。


「タカトなら援護にくるとわかっていたからな。そんな苦労はなかったよ。ラダリオンやアルズライズもいたからな」


 バレットがないと思ったらアルズライズが使っていたのか。でも、弾は買ってなかったぞ?


「使わせてもらっている。弾はこちらで買っている」


「いい腕しておるぞ。オーグを六匹も倒したぞ」


 アルズライズは手斧を持っていて、近接戦を得意とするとか言ってなかったっけ?


「バレットはいい。買えるまで借りてていいか?」


「それは構わんが百三十万円くらいするぞ」


 請負員なら軽く五百匹は駆除しないと維持できんぞ。オレは七十パーセントオフシールがあったから買えたようなもんなんだからな。


「バレットはこちらで用意するから拳銃を買え。アルズライズならデザートイーグルなんていいと思うぞ」


 アーノルドなターミネーターな体格をしている。デザートイーグルくらいの拳銃じゃないと満足できんだろう。


 請負員カードを見せてもらったら五十八万円。バレットの弾を買っていてもなかなかの数を倒したことになる金額である。


「明日は乱戦になるかもしれない。バレットよりデザートイーグルを二丁とマガジンを十本くらい買っていたほうがいい。弾はこちらで買うから」


 魔王軍の指揮官とサシで戦えるのはアルズライズかミシニーくらいだ。なら、それを見越して装備させておくほうがいいだろうよ。


「食事をしながらミーティングをしましょう。カインゼルさん。見張りの指示をお願いします」


「わかった。マイジ、アトック、見張りに立て!」


 カインゼルさんが指示を出している間にオレは夕飯の用意を始めた。

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