第115話 ムバンド村
昼飯が終わり食堂が混んできたので、外に出てミーティングをすることにした。
「タカトは地図を描くのが上手いよな。兵士時代にいて欲しかったよ」
そんな上手く描いてるつもりはないが、そこはグーグル先生を使ってる者と使ってない者の違いだろうよ。
「ムバンド村はここから東ですか。距離的にかなり山に入りますね」
「ああ。山の上と言ってもよいところだな」
「パイオニアでいけるところですか?」
距離的には三キロくらいらしいが、山の上と言うなら歩きだと結構な時間がかかるかもしれんな。
「ああ、馬車が通るから問題はない。まあ、そこまで幅があるわけではないなら交差するのは難しいがな」
まあ、パイオニアの馬力なら馬車が下りてくる前に登り切れるだろうよ。
午後の一時になったら出発。いったことがあると言うのでカインゼルさんに任せた。
しかし、相変わらず道はよくないよな。三十キロくらいで走っても上下によく揺れるぜ。
少しずつ標高が上がっていき、森を抜けたらムバンド村に入った。
山一つが芋と豆、いくつかの野菜を植えて生きてるらしいが、現代っ子のオレには本当に人が暮らせる場所なのかと疑いたくなる。
上り坂を登っていくと、村が見えてきた。
二百人ほどの村らしいが、こんな山の上に村を作って水とかどうするんだろうか? 雨水利用か? それだってキツいだろう。水汲みのために下まで下りていくのか? 重労働ってより拷問だろう。
村に着いたら村人が何事かと集まってきた。
「ゴブリン駆除の依頼を受けた者です。村長はいますか?」
依頼は村長の名で出されてるらしいよ。
「今呼んでくる」
と言うのでパイオニアから降りて村長がくるのを待った。
村人は遠巻きにオレらを見るだけで話しかけてくることはない。余所者が! ってなことなんだろうか?
しばらく待っていると、昨日、オレらにマーヌ退治をお願いしてきた初老の男だった。
……あの集落まで十数キロは離れてるのに一日で依頼を出すとか凄くね……?
「依頼を受けてくれてありがとうございます」
「いえ。お構いなく。それで、被害の状況を教えてもらえますか?」
「はい。こちらで説明します」
と言うので村長の家で説明してもらった。
なんでも春先からマーヌの番が住み着き、これまで村の子供が四人も食われたそうだ。一度、冒険者ギルドに依頼を出したそうだが、近寄ってこない上に走るのが速くて狩人でも射止めることは無理だとのことだった。
まあ、あの速度と隠れる巧みさでは狩るのは無理ゲーだろう。逆に誰が狩れるか聞きたいわ。
「タカト。ゴブリンはいるのか?」
「マーヌかはわかりませんが、何匹かいますね。芋でも食ってるんですかね?」
「いや、ゴブリンは芋を食いません。芽が毒だとわかってるようなので。おそらくネズミかモグラを探しているんだと思います」
あー芽な。てか、ゴブリンは毒に弱いのか? 虫とかネズミとか食ってるなら毒にも強いと思うんだがな?
「とりあえず、いるのがマーヌかどうか探りますか」
気配がするほうへと向かい、双眼鏡でマーヌかを探った。
「マーヌですね。昨日のより一回りデカいかな?」
距離的に二百メートルはあるからはっきりとは言えないが、昨日のは中型犬くらいで、今日のは大型犬くらいあった。
「そうだな。もしかすると親かもしれんな」
ってことは、子もいるってことか。また厄介な……。
「慣らしでカインゼルさんがやってみますか?」
カインゼルさんが選んだのはHK−G3。結構昔のバトルライフルだ。もっと最新のもあるのに、G3のフォルムが気に入って選んだようだ。カインゼルさん、見た目から入るタイプっぽい。
「いいのか? 外したら逃げられるぞ」
「構いませんよ。気配は覚えたので」
最近、ゴブリンの気配の違いがわかるようになり、察知範囲も広がった感じがする。ここを縄張りにしてるならまた戻ってくるはず。晴れてるうちに倒せるだろう。
「まあ、訓練だと思ってやりましょう」
村の方々には申し訳ないが、安い報酬で請け負ったのだから訓練くらいさせてもらっても罰は当たるまい。いついつまで殺してくれって期日はないんだからな。
「わかった。そうしよう」
地面にマットを敷き、リュックサックを銃座にしてうつ伏せになり、スコープを覗きながら銃口をマーヌに向けた。
オレも双眼鏡でマーヌの様子を見る。
メスかオスかはわからないが、犬っコロのように地面をスンスンと嗅いでいる。モグラでも探してるんだろうか?
二百メートルも離れていると、こちらを警戒する様子はない。追いつけられないと理解してるんだろうよ。
一分くらいしてカインゼルさんが引き金を引いた。
G3を使うのはこれが初めてだが、MINIMIやスコーピオンを使っていたからか、マーヌの太もも辺りにヒット。跳ね上がって逃げるが、冷静なカインゼルさんは逃げる方向を読んでいたらしく、二発目も当てた。
「お見事」
これが才能と言うヤツだろうか? 自分と比べるのもおこがましく思えてくるわ。
「カインゼルさん。右に五十メートル。距離は三百。そこにもう一匹のマーヌがいます」
「了解」
当てた歓喜はなく、返事は冷静。すぐに銃口を向けた。
番が死んだにも関わらずもう一匹のマーヌは逃げたりせず、死んだ番へと駆け寄った。
これが人間なら感動的で悲しみを感じるところなんだろうが、ゴブリンにそんな情は一切なし。カインゼルさんもそのようで引き金を引いた。
首のところに当たり、転がるように倒れ、立ち上がろうとしたところに止めの一発。ムバンド村にきて二十分もしないで依頼完了。お疲れ様でした!
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