第114話 双子

 目の前に小箱を抱えたみすぼらしい格好の双子が現れた。


 認識するなり双子と目が合った──瞬間に目を逸らした。


 徴税人だ! 徴税人が現れた! クソ、油断した! ミスリムの町にいなかったから意識から外れてたわ!


 回れ右した──ら、双子の片割れがスッゴい笑顔で目の前に現れた。だが、オレはこの世界で鍛えられた。心を磨り減らしてやさぐれたのだ。そんな笑顔くらいで絆されたりはしないのだ。


 知らぬ振りしてまた回れ右した──ら、もう片割れが逃げ道を塞いでいた。


「「恵まれない子供たちにお恵みください」」


 前と後ろからのステレオ攻撃。ヤツらのシンクロ率は百二十パーセントを超えてやがる!


 クッ。これが精神汚染か? 逃げたいのに逃げられない。と言うか、双子の連携がよすぎて逃げられない。なんなんだ、この双子の徴税人は?!


 逃げられないと悟り、仕方がなく銀貨一枚を出して小箱に入れてやった。


「「ありがとう、おじさん!」」


 もらうものもらったら速やかに立ち去る双子の徴税人。この町にはとんでもないヤツらがいやがるぜ……。


「……タカト、ナメられすぎ……」


 うぐっ。ラダリオンの正論ナイフが胸に突き刺さる。それ以上、オレを苦しめないでくれ……。


 もう町を巡る力も尽きたのでパイオニアのところに戻り、スキットルを出してウイスキーを飲んだ。飲酒運転? 取り締まりたいなら取り締まってみやがれ! 異世界にこれるなら免停になっても構わないわ!


 スキットル一本分飲みほしても一向に酔う気配がない。ウーロン茶で割ったのが悪かったようだ。


 午後から駆除しなくちゃいけないと言う思いが二本目に手を出すのを躊躇わすので、熱いブラックコーヒーを飲むことにした。


 行き来する馬車や往来する人を眺めていると、街の冒険者ギルドで遭遇した、豪鬼と呼ばれていた二メートルはある大男が現れた。


 ……確か、アルズライズとか言ったっけか……?


 街からきたのか、大量の荷物を背負っている。冒険者の他にもシェルパみたいなこともしてるのかな?


 と、アルズライズがこちらを見ると、ゾクッと背中に冷たいものが走った。


 バケモノとは思ってたが、ゾクッと感じさせるとか、謎の黒い生き物やレッドなドラゴンを見たとき以来だぜ。


 アルズライズはすぐに視線を前に戻し、そのまま立ち去っていった。


「……ああ言うのとは関わりたくないな……」


 特に敵対とかは絶対にしたくない。秒で殺される自信があるわ。


「タカト。そろそろお昼」


 ラダリオンの言葉に腕時計を見れば十一時半を過ぎていた。


「そうだな。支部にいってみるか。カインゼルさんと落ち合ったら昼にしよう」


 ミズホさんとなんの話をしているかわからんが、二時間もあれば話も終わっているだろうよ。


 パイオニアに乗り込み、一旦町の外に出てまた東側から入り、町館へと向かった。


 支部前にくると、カインゼルさんが待っていた。


「お待たせしました」


「いや、すまんな。予定をずらしてしまって」


「構いませんよ。昼を食べてから始めましょう。どこか食堂とかありますか?」


 こういうときカインゼルさんがセフティーホームに入れないのは難点だが、外の料理に触れておくのも大事だ。当たりを探すためにも、な。


「それならあそこで食おう。夜は冒険者に人気で昼は町館の者がよく利用しとるよ」


 ってことで、カインゼルさんが指差した食堂へと向かった。


 まだ昼前なので食堂はそれほど混んでなく、駆け出しっぽい冒険者が数人いるくらいだった。


 席を確保したらオレはセフティーホームへと戻ってミリエルの昼飯を買い、調味料を入れたバッグを持って戻った。外れを引いたときのためにな。


「一通り頼んでおいた。ワインはどうする?」


「オレは一杯だけお願いします。カインゼルさんは好きなだけどうぞ」


 こちらのワインはどうも好かんが、まったく飲まないのも変に思われる。一杯くらいは飲んでおくとしよう。


「わしも一杯だけにしておくよ。請負カードから買う酒を覚えたら薄くて飲めたもんではないからの」


 美味いワインもあるらしいが、それは高額であり他の領地に運ばれている。一般人が飲むのは水増ししたうっすいワインしかないそうだ。


 ……そういや、元の世界でワインは飲料水の代わりに飲まれるとか聞いたことある。ここでも同じなのかな……?


 しばらくして料理が運ばれてきた。


「肉ばっかりですね」


 焼きと煮込みと種類はあるが、肉がメインすぎて野菜が申し訳ていどにしかついてない。それに、パンではなく茹でた芋がついていた。


「まあ、冒険者が毎日のように狩ってくるからな。ここでは駆け出しでも肉が食えるのさ。その分、パンは高いがな」


 へー。そう言うこともあるんだ。いいような悪いような、だな。


「ラダリオン、どうだ?」


「悪くないかも」


 美味いか不味いかを匂いで判断できるグルメモンスター。なので、まずは調味料を足さないで食ってみた。


「うん。悪くないな」


 凄く美味いかと言われたら違うと言えるが、不味いかと言われたらそうでもないと言える味だった。醤油と生姜で焼いたらご飯が三杯いけるな。


 煮込みはちょっといまいちだが、粒コンソメを入れたらマシになった。


「芋、美味しいですね!」


 驚いたことに一番美味かったのが茹でた芋だった。なんでこんなに美味いんだよ? これなら元の世界でも通じるどころか大人気になるぞ!


「そうだな。この芋はリハルの味だ」


「この芋、買えますかね?」


「これからいくムバンド村で作られてるから買えると思うぞ」


 それは朗報。雨が降ったらじゃがバターして食おうっと。

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