第117話 プランド村

「タカト──」


「──いいですよ。プランド村にいきましょうか」


 カインゼルさんがなにかを言う前に承諾する。


「ラダリオン。夜間戦闘になる。今日は冷蔵庫にあるもので我慢しろ」


「わかった。フルーツサンド、全部食べていい?」


「マンゴーは残しておけよ。ミリエルがあとで食べようって呟いてたから」


 フルーツサンドに嵌まってくれてよかった。冷蔵庫一つはフルーツサンドが六割を占めている。今夜の分は間に合うだろうよ。


「……タカト。いいのか? 金にならんぞ」


 戸惑うカインゼルさんににっこり笑ってみせる。


「そうですね。金にはなりません。けど、経験にはなります。指揮はカインゼルさんがお願いします。オレはゴブリン以外は新米冒険者にも劣るんですから」


 窮地のときに力になれないようでは、自分の番になったとき助けてもらえない。持ちつ持たれつが仲間でしょう、だ。


「……すまん」


「謝罪はいりませんよ。さっさと終わらせて勝利の乾杯をしましょう。よく冷えたビールでね」


 あれ? これは死亡フラグか? いや、勝利のフラグだ。指揮するのはこの歳まで生き抜いた元兵士長。失敗する未来が見えないぜ。


「それで、プランド村は遠いんですか?」


「パイオニアなら二十分もかからないはずだ」


「なら、暗くなる前に着けますね。まずはいってから装備を換えましょう。二十匹ていどなら今の装備でも対応できますからね」


 どうなるかわからないからVHS−2装備にしてきたし、アポートポートはオレが装備している。オレとカインゼルさんで対応している間にラダリオンが装備変更すれば問題ないはずだ。


「ああ、そうだな。いこう」


 外に出てパイオニアに乗り込み、プランド村へと向かった。


 運転はカインゼルさんに任せ、後部座席に積んだリュックサックからヘッドライトを取り出し、タクティカルヘルメットを装着し、VHS−2にもライトを取り付けた。


「タカト。わしがメガネをかけていいか?」


「はい、構いませんが、モクダンは夜行性なんですか?」


「夜行性ではないが、襲撃する際は夜が多いと聞く。視覚より嗅覚で獲物を襲うそうだ」


「嗅覚ですか。いざとなったら熊よけスプレーか催涙弾を使いましょう。防毒マスクを出しておきますね。ラダリオンもすぐ被れるようにしとけよ」


 てか、この揺れでよく食えるよな。気持ち悪くならないんだろうか?


「わかった。オレンジジュース、取り寄せて」


「トイレが近くなっても知らないからな」


「村についたらトイレにいく」


 まったく、緊張感がないヤツだ。オレはビビッて食欲も湧いてこないってのによ。


 カッコイイこと言ってはみたものの、未知の魔物を相手にするとか恐怖でしかない。一人だったら鼻水垂らしながら逃げ出してるところだ。


 カインゼルさんが言ったように二十分もしないでプランド村が見えてきた


「棚田?」


 昔、長野に旅行にいったときに見た棚田のようなものが村の背後にあった。米でも植えてあるのか?


「コノと呼ばれる野菜を作っている。主に家畜のエサになったりするが、煮込むといい酒のツマミになる」


 へー。煮込みか。なら、熱燗に合うかな? また買わしてもらって試してみるか。


「タカト! 獣の臭い! 周りに結構いる!」 


「モクダンだ! メガネを」


 メガネをしていたラダリオンがカインゼルさんに渡し、パイオニアから降りてVHS−2を構えた。


 プランド村の手前は牧草地のようだが、所々に奇形な樹木が生えている。


 時刻は五時を過ぎてるが、夏なので陽が暮れるまで二時間近くはある。数が少なければ充分片付けられるだろう──なんていいことばかり考えてないと洪水を起こしそうである。


「……あれがモクダンか……」


 確かに人型の猪であり、オークと名称しろよ! と叫びたいくらいオーク然とした見た目である。あと、棍棒を持つくらい知能があるようだ。


「タカト、ラダリオン。モクダンは生命力が高い! 脚を狙って動きを止めろ!」


「了解!」


「わかった!」


 モクダンは二メートルくらいあるし、動きはそれほど速くはない。こちらが三人だと思ってナメた態度が見て取れた。


 オレのほうへとくるのは四匹。戦略的撤退するには充分すぎる数だが、この状況で逃げるわけにもいかない。殺らなければ殺られる。オレが死ぬかモクダンが死ぬか。なら、お前が死ね、だ!


 十メートル内に入ったらVHS−2につけたライトをフラッシュ。怯んだところにモクダンのご子息さんに向けて引き金を引いた。リアルでくっ殺とか見たくないからな。


 連射でいっきに撃ち払い、すぐにマガジン交換。また撃ち払ってやる。


 ご子息さんに向けて撃ったのに、四匹は絶命しておらず、ピギーピギーと鳴き叫んでいる。


 またマガジンを交換。単発に切り替えて頭を狙って止めを刺していった。


 ラダリオンはどうだ? と見ればこちらも止めを刺してるところで、五匹を倒してしまった。


 まだ弾は残ってるが、満杯のマガジンに交換してカインゼルさんのほうに向く。


 こちらは十匹近くいて、倒し切れてないが、G3は7.62㎜弾を使ってるだけにモクダンに与えるダメージは強い。脚を撃たれて立っていられるのは後方にいる四匹。牽制のためにご子息さんを痛めつけてやった。


「……お前、意外とえげつないよな……」


「敵には優しくできない性分なので。今のうちにマガジンを補充してください」


 長時間戦闘できる弾は持っていない。オレとラダリオンはマガジン五本だし、カインゼルさんは四本だ。次がくる前に補充しておきましょう。


 空のマガジンはパイオニアに置き、アポートポーチから弾入りのマガジンを取り寄せた。

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