第442話 ハンバーガー丘 2

 一斉射撃が弱まると、ゴブリンどもが左右に割れた。


 それに合わせて職員たちも左右に移動していき、全方位に向けて撃っていく。


 こうなると作戦もない。各自相応に対処せよ、だ。


 スコーピオンのマガジンはパレット買いをし、9㎜弾は半パレット分が残っている。


 一人マガジンは二十本は所持させているが、全方位を囲まれると二十分も持たない。数の暴力の恐ろしさがよくわかる。


 と言え、数の暴力の恐ろしさを教えているのはこちらも同じ。スコーピオンのマガジンが切れたら次はP90の攻撃だ。


 P90は十丁しかないが、MINIMIの弾はまだ尽きない。手の空いた者はマガジンの弾込めを行う。


 軽く千匹は殺しただろうが、まだ二千匹以上いて、少しずつ丘を越えてきている。


「撃ち方止め! グレネードランチャー用意!」


 M32グレネードランチャー担当の者が弾込めを中断。すぐに土嚢までかけて麓に向けて構えた。


 全方位からゴブリンが丘を越えて雪崩込んでいく。


 一旦勢いが乗ればゴブリンたちにも止めることはできない。まさに雪崩となって麓に流れ落ちていった。


「撃て!」


 麓に落ちて団子になっているところに催涙弾を撃ち込んでやる。


 ちょうどよく谷になっているので催涙ガスは流れることなく溜まり、そこに突っ込んでいくゴブリンで巻き上がる。


「地獄だな」


 何度と見た光景だが、さすがにこの阿鼻叫喚には同情してしまうよ。


「今のうちに弾込めだ」


 ゴブリンはまだ止まらないが、丘を登ってくる猛者はいない。阿鼻叫喚の連鎖が繰り広げていた。


「千は落ちたかな?」


 さすがのゴブリンも危機を察したようで丘を越える者はいなくなり、歯を見せてこちらを威嚇していた。


「ここのゴブリンは元気だな。いいもん食ってんのか?」


 これだけ集まっているのに狂乱化してないし、統制も取れている。指揮官がいるのか?


 赤い肌のゴブリンはちらほらと見えるのだが、どいつも真っ裸。あ、大事なところはお毛々で隠れていますよ。まあ、立派な服を着てないからどいつが指揮官かわからんのよね。


「ん? あいつか?」


 通常ゴブリンの三倍はあり、なんか立派な大剣を持っていた。


 ……あんな大剣を持つ者でも殺られてしまうのか……。


 奪ったか拾ったかまではわからないが、持っているってことは死んだのだろう。素人が見てもわかるくらいのものを捨てるわけはないんだからな。


「まっ。どれだけ強かろうが、知能が低ければ意味はない」


 これだけ殺られて隠れもしないとか鳥頭すぎんだろう。


 リンクスを柵の上に乗せて指揮官(仮)に銃口を向け、スコープの照準を合わせた。


「死ね」


 引き金を引き、指揮官(仮)の厚い胸をぶち抜いた。


 ついでだから赤い肌のゴブリンを狙撃していく。てかお前ら、隠れるとか知らないのか? 背中を見せたら負けだと思ってんの? 死亡フラグ揚げすぎだよ。


 十発すべて命中。五万円ゲットだぜ! いや、一発千円の弾だから四万円の儲けか。今日は余市十二年で乾杯しようっと。


 指揮官クラスが死んだからか、緑肌のゴブリンが丘の陰に隠れてしまった。


「トイレ休憩をしておけ。お菓子休憩も可だ」


 日の出から一時間が過ぎたか。これなら一日で終わるかな?


 ってこともなく昼が過ぎてもゴブリンが丘から顔を出すこともなし。ただ、ちょっとずつ増えていっていた。

 

「麓のゴブリンはまだ生きているか」


 ショック死した者や圧死した者もいそうだが、五、六百匹は生きている感じだ。


「シエイラ、タリア。麓にいるゴブリンを撃て」


 二人には人一倍稼いでいてもらいたい。特にタリアはアシッカに残ってもらうので最低でも百万円は稼いで欲しいものだ。


 二人だけで阿鼻叫喚なゴブリンどもを殺してもらうが、丘の陰に隠れたゴブリンは出てこない。じっと動かないでいた。


 阿鼻叫喚も徐々に静かになっていき、七十万円くらいがプラスされた。


「もういいぞ!」


 あとは自然に事切れるのを待つとしよう。弾がもったいないしな。


「五人でスコーピオンの手入れ。MINIMI射手は引き続き見張りを続けてくれ。残りは休憩だ」


 それからゴブリンが動くことはなく夜になってしまった。


「ゴブリン、現れませんな」


 ミサロが作ってくれたカレーを皆で食べながら今日の様子を話し合う。


「そうだな。少なくとも十二時間はなにも食べてないだろうによく堪えられてるものだ」


 ゴブリンは貯め食いでもできるんだろうか? あ、もしかして体内の魔石で食わずにいられるとかか? それなら魔石を取れるってことじゃないか? あっぶねー。気づかなきゃ見捨てるところだったよ。


「解体ですか。終わってからのほうが苦労しそうですな」


「ホグルスゴブリンだけでも百はいましたしね」


 魔石のことを語ったら辟易した表情を見せた。まあ、それはオレも同じ。萎えていく気持ちを引き止めるのが大変だよ。


「夜はイチゴを立たせるが、五人は起きててくれ。お湯割りのワインを飲むことは許すから」


 候補者が十人もいたのでジャンケンで選出。選ばれた者にワインを贈呈した。


「交代で体を洗え。ビール一缶は許す」


 オレはまだ眠くないので櫓に明かりを灯し、上がって見張りに立つ。ここにオレがいるぞと知らしめるためにな。

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