第443話 ハンバーガー丘 3

 二日目、いや、ミントラの丘(砦)にきて三日目か。三日目の朝は穏やかに迎えられた。


 だが、ゴブリンの数は増えている。一晩明けて軽く二千匹に膨れ上がっていた。


「いっきに攻める気ですかね?」


「基本、そうだろうな。ただ、それなりの知恵を持つ個体が何匹かいる。なにか仕掛けてはくると思う。それに、まだ魔法を使うミダリーゴブリンを見てない。オレはゴブリンの気配は感じられても魔力を感じることはできない。なにか仕掛けられても見抜くことはできないんだよな」


 気配に籠る感情はわかる。だが、それは強い感情だ。乱れてなければただの気配でしかないんだよ。


「夜に仕掛けてくるかもしれない。午後から半分は休むとしよう」


 ちょっとずつゴブリンが集まっている。それが嫌に気に触る。なんかしようとしている感じだ。


 オレも午後から休ませてもらい、十八時までぐっすり眠った。


 起きていた連中と交代。時間を決めず眠らせた。動くとしたら夜中だろうからな。それまではぐっすり眠っていろ、だ。


 櫓に立ち、ブラックコーヒーを飲みながらゴブリンの気配を探っていると、零時方向のゴブリンが動き出した。


「緊急警戒! 眠っている者を起こせ!」


 すぐに職員たちに号令をかけた。


 ライトを向けると、通常ゴブリンが枝を両手に持っていた。威嚇か?


 なにかギーギーと叫び出し、持っていた枝を投げ始めた。


「MINIMI、撃て!」


 姿を現したのならさっさと駆除するしよう。


 だが、そこそこ知能があるヤツら。姿を現しては枝を投げまた隠れる。それは左右に広がり、やがて全方位からやられてしまった。


 弾によって殺されると理解したのだろう。地面を這いずるようにしながら枝を投げてきている。


 それが一時間ほど続けたらまた丘の陰に隠れてしまい、数百匹が山脈のほうへと下がっていった。


「なにがしたいんだ?」


 ライトを照らして向かいの丘を見ると、かなりの数の枝が散らばっていた。


「逃げ道を塞いでいるのか?」


 いや、それだとゴブリンもこちらにやってこれない。別の目的か?


「狂乱化しない相手は厄介だな」


 姿を現さない以上、こちらも付き合ってやる必要もなし。イチゴを呼んで見張らせ、半分は弾込め。半分は眠ることにした。


 ゴブリンの気配で目覚めると、まだ太陽は出ておらず、腕時計を見れば五時前。こんな早くから動くのかよ。


「全員起床! ゴブリンが動き出した!」


 すぐに投光器を点けて丘を照らした。


「……盾だと……?」


 枝を集めて束ねたものを抱えるゴブリンども。そこまで知能が高いのか? 五歳児じゃなくて十歳児くらいの知能があるんじゃないか?


 さすがにスコーピオンじゃ撃ち抜けないな。


 リンクスを構え、よく狙って引き金を引いた。


 対物ライフルの名に恥じず、木を集めて束ねた盾を貫いて、持っていたゴブリンを真っ二つにした。


 それで恐れることはせず、木を集めて束ねた盾を谷へ投げ捨てた。は?


「盾じゃないのか?」


「マスター! 他からも現れました!」


 投光器を回してみると、木を集めて束ねた盾を谷に投げ落としていた。


「……まさか、火攻めをしようとしているのか……?」


 枝を投げているところで気づけよ。オレも死体を片付ける手として燃やそうとしていただろうが……。


「撃て! ゴブリンの数を減らせ!」


 そちらの策を見抜いて慌てているように思わせるようにメチャクチャに撃たせた。


 はん! たかだか五歳ていどに知恵が増そうが誤差でしかない。まあ、確かにしてやられたとは思ったが、そんなもの子供の浅知恵。対抗策などいくらでもあるさ。


 慌てた様子をみせながら少しずつゴブリンを駆除していく。


 時間は流れ、太陽が顔を出してきた。

 

 ゴブリンは未だに木を集めて束ねた盾、いや、薪を谷に投げ続け、ゴブリンの死体が見えなくなるまでになった。まさに塵も積もれば、だな。


「マスター! 四時方向を見てください!」


 すぐにそちらにリンクスを向ける。


 スコープを覗くと、大木を抱えたホグルスゴブリンがズラリと並んでいた。本隊のご出陣か?


「ん? ミダリーゴブリンか」


 大木の隙間からミダリーゴブリンらしき姿が見えた。


 狙いを定めて引き金を引いて大木に当てた──が、貫けた感じはしない。かなり硬い木のようだ。


 貫けなくてもよろめかせることはできた。上のほうを狙って隙間を作り、MINIMIで後ろに隠れているミダリーゴブリンを排除させた。


「マスター! 十時にも現れました!」


「七時にも現れました」


「二時にもです!」


 ホグルスゴブリン、どんだけいんだよ!


「四時から火球が放たれました!」


「七時もです!」


「四時からも放たれました!」


 ミダリーゴブリンもどんだけいんだよ! ここは赤ゴブリンに支配された地だったのか?


「フルフェイス型の防煙マスクを買って装着しろ!」


 オレも取り寄せて防煙マスクを装着した。


「こちらが慌てているように適当に撃て。煙で視界が遮られたら休憩だ」


 今のうちにキーキー騒いでおけ。煙が晴れたらどちらが追い込んだかを教えてやるからよ。クク。

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