第441話 ハンバーガー丘 1
ホットワインを飲みながらマルセさんたちには別動隊としてゴブリンを駆除してもらうようお願いした。
「こちらは構わん。そちらにいては見ているだけになりそうだからな」
「銃を貸し出しましょうか?」
P90は余っている。最近出番がないし、貸し出しても問題はない。
「いや、必要ない。斬るほうが早いからな」
まあ、六人で六百匹のゴブリンを相手にする元バーバリアン。銃なんておもちゃにしか思えないだろうよ。
「あまり砦には近づかないようにお願いします。銃より凶悪な武器を使いますので」
「ああ、わかった。そちらの動きに応じてこちらも動く」
まだ数日の付き合いだが、マルセさんたちがミントンカでも上位にいる者たちだとわかる。男爵はかなりオレに気を使ってくれたんだろうな~。
地元民なのでどう行動するかは一任し、オレはブラックリンで砦に戻った。
砦造りは順調で、一メートルくらい土嚢が積み上げられており、単管パイプで銃座(?)を組み立て、MINIMI用の銃架を設置した。
砦は物が増えて降りられないので丘の麓に降ろし、ホームに戻したらえっちらほっちら登った。
「そういや昔、ハンバーガー丘って戦争映画を観たな」
うっすらとしか記憶が残ってないが、こんな丘を攻略しようとたくさんの兵士が死んでいったっけ。それがゴブリンだと思うと哀れみも出てこない。逆にミンチにしてやると意気込んでくるよ。
「てか、厳重にして入るとこなくなってんな」
ホームから脚立を持ってきて設置した。
「ご苦労様。順調のようだな」
「はい。土嚢はもっと高くしますか?」
「このくらいで構わないよ。あとは土嚢に有刺鉄線を巻いてくれ」
ここまで登ってこれないだろうが、念のために有刺鉄線を巻いておこう。
益々出入りができなくなるが、砦内で過ごせるだけのものは用意した。長くても五日くらいだろうし、皆には我慢してもらおう。
夜はイチゴに見張りに立ってもらい、皆には体調を整えてもらう。始まったらまともに眠れないだろうからな。
その間、オレは肉を括りつけたプランデットと連動できる偵察ドローンを飛ばし、ゴブリンどもの食欲を乱してやった。
数千も集まったら山にある食料なんてすぐに食い尽くす。知能があろうと空腹に勝てる生き物はいない。近くでいい匂いをさせてたら気が狂うほど食欲を爆増させているだろうさ。
「よし。今日は焼き肉をやるか。ビールも飲んでいいぞ」
森から出るゴブリンも出てきている。ここらで止めでも刺してやるとしよう。
バーベキューコンロを四つ買い、有名焼き肉店の最高級の食べ放題を五人分買った。
ビュフェと同じく皿に乗った肉が大量に現れた。だろうと思って、玄関で買ってよかったよ。
別皿に移して外に運び出し、ラダリオンがヨダレを垂らしているので、焼き肉奉行としてダストシュート移動してもらった。
オレはホームで焼き肉パーティー。ラダリオンが戻ってくるまでビールと焼き肉を楽しんだ。サイコー!
いつの間にか眠ってしまい、起きたら午前四時。がっつり眠っちゃったよ。
「おはよう。まずはシャワーを浴びてきたら」
マッサージチェアで眠っていたと思ったら起きていたミサロ。何気にそこがミサロのベッドになってたりする。本人曰く、揉まれながら眠るのがサイコーらしいよ。
……胸が大きいから肩でも凝るんだろうか……?
大変だな~と思いながらシャワーを浴び、麦茶を飲みながらのんびりしてたらラダリオンが入ってきた。
「タカト。ゴブリンが動き出した」
日の出とともに、って感じかな?
「了解。ミリエルが起きたらアシッカに出ててくれ」
「わかった」
麦茶を飲み干したらVHS−2装備に着替え、一応、リンクスも持って外に出た。
「日の出か」
今日は雲一つない殺戮日和だ。って、オレもこの世界に染まってきてんな~。
「マスター、おはようございます」
職員たちも起きており、昨日の酒が残っている感じはしない。ぐっすり眠られたようだ。
「今日からゆっくり眠れない日が続くぞ」
「稼ぎ時ってのはそんなもんですよ」
「そうそう。寝ずに働きますよ」
皆やる気で士気高し、って感じだな。
「よし。まだ時間はある。ゴブリンのために最後の晩餐でも用意してやるとしよう」
処理肉を運び出してきて砦の周りにばら撒いてやった。
「ゴブリンの群れです! 数は不明! 少なくとも三千はいます!」
団体さんのお出ましだ~とか言いたかったけど、そんなキャラでもないので全員配置と叫んだ。
今回は職員たちのためのもの。オレは櫓に上がり、指揮をする。
「まずは南に集中。東と西の銃架を南に向けろ、前方の丘まで近づけさせる」
前方の丘まで約百五十メートル。そこならスコーピオンでも届く距離だが、まずはMINIMIで薙ぎ払ってやろう。
ゴブリンたちはまだ狂乱化しておらず、まだ気配は平静だ。王、いや、部隊長クラスのゴブリンに率いられている感じだな。
走ってきてないので丘までくるのに時間がかかる。缶コーヒーを取り寄せて一服する。
職員たちに目を向けると、少し緊張してきてるようだ。
「大丈夫。ゴブリンは空を飛ぶわけでもなければ火を吐くわけでもない。ただ、数が多いだけだ。弾なら十二分にある。万が一の備えもしてある。落ち着いてゴブリンをミンチにしてやれ」
おー! と雄叫びを上げることはないが、職員たちから緊張は消え、笑みを浮かべる者もいる。
「さあ、やるぞ」
丘の陰に消え、しばらくして丘の上に赤い肌をしたゴブリンが数十匹が現れた。
「結構いるんだな、ホグルスゴブリンって」
一番体格のよいホグルスゴブリンが剣を振り上げた。
よくよく見たら武器を持っているゴブリンがちらほらと見えた。
まあ、だからなんだって話だけどな。これからミンチになるヤツらだし。
と、体格のよいホグルスゴブリンが叫び、剣を振り下ろした。んじゃ、こっちもやりますか。
「薙ぎ払え!」
飲み干した缶コーヒーを押し寄せてくるゴブリンに向かって投げ放った。
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