第440話 物欲

 本当に一日で五メートルもある櫓を作ってしまうミントンカの者たち。どんだけだよ!


「凄いですね」


「道具がいいからだ。斧一本だったら三日はかかっていただろう」


 斧一本で櫓を作っちゃうんだ。バーバリアン工法スゲーな。


「マルセさんたちも請負員になりますか? ゴブリン三匹も殺せばいい斧が買えますし、昨日飲んだ酒も買えますよ。ただ、請負員が買ったものは十日触らないと消えてしまいますがね」


 十五日縛りなのは秘密。請負員の利益を守るためにな。


「我らはミントンカの民だ。あの地を離れるわけにはいない」


「別に離れる必要はありませんよ。本業の隙間にゴブリンを殺してもらえば充分ですし。請負員は一年ゴブリンを殺さなければ勝手に辞められます。負担ならやらなければいいだけです」


 ミントンカは奴隷傭兵団を受け入れてることはないだろう。他が潤っているのに自分のところは、とか思われて不満が募るのも面倒だ。請負員となってくれるなら多少なりとも解消されるはずだ。


「マルセさんたちに不利益がないよう男爵様にはオレから説明しますよ」


 それで納得したようで、六人を請負員とした。


「シエイラ。一応、名簿に記録しておいてくれ」


 なにかあるってわけじゃないが、名前を把握しておくに越したことはないしな。


「少し、稼いでおきますか」


 まったく報酬がないってのも実感がないだろうし、稼げばモチベーションも上がるはず。と言うか、マルセさんたちは別動隊にするか。この人らは近接戦闘型だ。砦にいても稼げないだろうしな。


「明日の朝、ゴブリン狩りにいきましょう。今日はゆっくり休んでください」


 マルセさんたちには早々に休んでもらった。


 次の日、八時に砦を出て山脈に向かうと、さらにゴブリンの気配が増えていた。


「凄まじいまでの数がいるな」


 気配察知能力がないマルセさんたちも森の中から溢れ出る気配は嫌でもわかるようだ。


「体力気力は大丈夫ですか?」


「二日三日寝ずに戦えるほどには充実している」


 他の人たちも力強く頷いた。頼もしいこと。


「およそ五百の群れがきます。徐々に下がりながら殺してください。オレは邪魔にならない位置で援護しますので」


「わかった。皆、やるぞ」


 おう! と呼応すると、それを合図に森の中からゴブリンが溢れ出た。


 たくさんの気配に隠れているが、森の中にボス級のボグルスゴブリンがいるのがわかる。斥候のとは別の個体だ。


 狂乱化は起きてないが、どいつもこいつも凶悪な表情だ。これは、統率された進撃だな。


 そんなゴブリンに怯えることもないマルセさんたち。バーバリアンのハートはどんだけなんだか。なんかの映画を観ているみたいだな。


 ゴブリンが五十メートルまで近づくと、一番細身のラダジさんが前に出た。


 なにをするんだと思っていたら、なんか抜刀するみたいな構えをして、二秒ほど固まっていたら剣を抜いて一閃した。


「はぁ?」


 押し寄せたゴブリンの上半身がズレて崩れ落ちてしまった。


 報酬を見たら二十万円くらいが増えていた。いやいや今ので六十匹が死んだとかなんだよ? それってなんてストラッシュだよ? マジかよ!?


 あ然としている間にバーバリアン対ゴブリンの戦闘は始まっており、凄まじい勢いで報酬が増えていった。


 マルセさんたちの戦いは衰えることなく一時間が経過。六十万円は越えていた。


 ざっと四百匹は駆除したってこと。この人はいったいなんなの? バケモノ? アルズライズ級の実力者ばっかりじゃねーかよ。え? ミントンカって勇者の隠れ里だった? それともラストダンジョン前の村か? 近くに魔王でもいんのかよ?


 九十万円を越えると、ゴブリンの進撃が止まり、森の奥に逃げていってしまった。さすがにこれ以上減らされたらたまらないと思ったんだろうよ。


「お疲れ様です。水をどうぞ」


 取り寄せた二リットルのペットボトルを渡してやった。


 二日三日寝ずに戦えるとは言ったが、飲まず食わず戦えたらそれはもう人間ではない。人間であることを証明するかのように全員汗だく。二リットルの水を飲み干してしまった。だ、大丈夫?


「まずは移動しましょう」


 全員言葉を出せないようで、頷き一つしてミントンカ方面に移動した。


 木々の中に入ったらヒートソードを三百度にして地面に刺した。


 もう春とは言え、汗だくのままいたら風邪を引いてしまう。体を冷やさないようにしてもらい、ホームから盥を持ってきてきたら魔法で水を溜め、ヒートソードで一瞬湯沸かし。体を洗ってもらった。


 唯一の女性たるミーツさんはシートを張ってやり、新しい盥を出してやってそちらでやってもらった。


「下着はこれを使ってください」


 汗臭い服は各自で洗ってもらい、請負員カードで新しい服を買わせた。


「動きやすい服だ」


「ああ。これはいい」


 バーバリアンが現代人にクラスチェンジ。いや、どこかの消耗品部隊になった感じだな。見た目は。


 ミーツさんも新しい服に口許が緩んでいる。意外とお洒落さん?


「請負員カードの使い方はそんな感じです。稼げばもっといいものが買えるのでがんばってください」


 現代人になったことで物欲に目覚めた六人。目の色が変わっていた。これなら請負員としてやってくれそうだ。ふふ。

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