第341話 エルフ料理
ここに住む、となったら人間もエルフも行動力のリミッターが外れるんだろうか? 陽が昇ると同時に起き出して働き始めているよ。
まあ、そういうオレも陽が昇る前に起きてホームから出てきたんだけどね。十八時から飲んで二十時には寝ちゃったのよ。
「いい匂いがするな。パンでも焼いているのか?」
あちらこちらからいい匂いがしてくる。
「タカト様、おはようございます」
匂いを嗅いでたらアリサがやってきた。
「ああ、おはよう。なに焼いているんだ?」
「ナンです」
ナン? って、インド人が食べるパンみたいなヤツのことか? いや、イメージだけど。
「昔、マサキ様がエルフに教えてくれたのです」
カレー屋と言ったらココなイチを思い浮かべてたのだが、どうやらマサキさんは本格的なカレー屋を営んでいたようだ。
「ナンって小麦粉からも作れたんだ」
作っているところを見せてもらったら小麦粉を練っていた。
オレ、ナンってトウモロコシの粉で作ってるのとばかり思っていたよ。てかオレ、ナン食ったことねーな。どんな味すんの?
「初めて食ったが、ナンって美味いな」
パンの味を想像してたんだが、パンとは全然違う。まあ、どう美味いか説明できんけどさ。
「おばあ様の話では元のナンとは違うそうです」
まあ、この世界の材料を使っているしな。味が変わるのは仕方がないか。
「オレはこのナンのほうが好きだな」
食ったことないのに? とか言わないで。この世界のパンと比べたらこのナンのほうが何倍も美味いんだよ。
「毎朝持ってきましょうか?」
「いや、大丈夫だよ」
オレはパンより米派。いくら美味くても毎日はいいや。
「でも、もったいないよな。アシッカの町で料理屋をやれば流行ると思うぞ。エルフ料理としてな」
本職が教えたならカレーだって教えているはず。それが不味いわけがない。きっと美味しい料理として進化してるはずだ。いや、素材がよくないと美味しくないか?
「……エルフ料理、ですか……」
「マサキさんがエルフに教えたならそれはもうそれはエルフの料理。この味を後世に残したらマサキさんも喜ぶだろうよ」
じゃあ、人間が作ったら人間料理になるのか? とか意地悪な返しをされたら言葉に詰まるが、まあ、いろんな種族がいるんだからそんな呼び方になっても構わないだろうさ。
「はい! エルフ料理を残していきます!」
やる気スイッチが入ったアリサがどこかに駆けていき、寝惚け眼なメビが起きてきた。
「タカト、こんな朝早くにどうしたの?」
「早く寝たから早く起きただけだよ。午前中は司令部にいるからまだ寝てていいぞ」
今後のマイセンズ砦発展計画や長老たちとの話し合い、食料の搬出がある。今日はずっと砦に詰めることになるだろうよ。
起きてきたカインゼルさんたちと朝飯を食い、軽いミーティングをしてからエルフの長老たちを呼んで話し合いを始めた。
「アリサから聞いたが、エルフ料理を残せとか」
「ええ、まあ。マサキさんからカレーの作り方は聞いてますよね?」
「材料がないので、まったく違う味になってしまったがな」
「それこそエルフ料理なんだから構いませんよ。それに、料理は時代によって変わっていくものですし、材料が増えれば料理の種類も増える。料理で稼いでいけばいいんですよ」
「……マサキも料理ができたらどこでも生きていけると言ってたよ……」
さすがカレー屋を営んでいた人。手に職があるってやっぱり強いんだな。
「まあ、それは食材があってのことですが、今はその食材があり、ゴブリン駆除の報酬として調味料や鍋が買えます。春になれば商人もくるでしょう。準備期間は充分にありますよ」
大した料理もない時代。基本になるものを五品も作り出せば回していけるはずだ。
「もしよければこちらで香辛料や食材を用意しますからマサキさんのカレーを作ってもらえませんか?」
この人なら絶対、レシピを覚えている。オレを見たとき、生きてきてよかったといった顔をした。そんな人ならマサキさんと繋がっているカレーを忘れるわけがないさ。カレーを食ったとき、泣いたからな。
「……あ、ああ、頼むよ……」
ペンとスケッチブックを渡して書いてもらった。
もう百数十年も前だろうに、カレーの香辛料をスラスラと書いている。それだけマサキさんを思っていたんだな。たった二年くらいの関係なのに……。
「これを頼むよ」
うん。こちらの文字でした~。
仕方がないのでアリサに読み上げてもらい、日本語で書き写した。
「結構使うもんなんですね」
カレールーを入れて終わりの人間には二十種類以上も混ぜて作るカレーなんて想像もできないよ。カレーになんてココなイチしかいったことないし。
「肉や野菜はどうします?」
「肉は羊。野菜はトマト、玉ねぎ、ほうれん草、バジルを頼む」
「わかりました。すぐに買ってきます。ついでにミヤマランで買ってきた食料も出しちゃいますね。メビ。時間がかかると思うからゴブリン駆除でもしてきていいぞ。匂いに釣られてゴブリンが集まり出しているから」
「いっぱいいるの?」
「んー。察知内には五十匹くらいかな?」
もっといそうな気もするが、ざっと感じ取れたのはそのくらいだ。
「わかった。誰か誘って狩ってくる」
「アリサ。一時間くらいしたら出てくるから人を集めておいてくれ」
そうお願いしてホームに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます