第340話 報告

 巨人の村(仮)に向かう前にヨシュアたちにダインさんのことや、いく場合のことを指示、ミリエルに銃器を渡すようなど、あれこれを話した。


「ミリエル。オレがいなくなったあと、よく気をつけててくれ。変なちょっかいはかけられたくないからな」


 ミヤマランから戻るとき、雪を溶かして道を作った。その道を辿ってきた者がいないとは限らない。その可能性を考慮してミラジナ男爵にもミヤマランから誰かきたらすぐ知らせるようお願いもしてきた。


 オレがいなくなったと同時になにかされてアシッカを乱されたらたまったもんじゃない。ミリエルにはしばらく残って様子を見てもらいたいのだ。


「はい。任せてください。しっかりと見張っておきます」


「ああ、頼りにしてるよ。その間にマイセンズをしっかり固めて、道を整備するから」


「ヨシュア。ミリエルの補佐を頼むぞ」


 ミリエルにはモリスの民の代表的立場になってもらっている。


 本人は語ろうとしないが、回復魔法が使えて読み書きできるだけで庶民なわけがない。どこか名のある家のお嬢様だろう。


 ヨシュアもミリエルの雰囲気になにかを感じたようで、奴隷という立場より騎士としてミリエルに接していた。


 まあ、野郎の指示に従うより同じモリスの民で女であるミリエルに従うほうが野郎どものやる気も出るってたもんだろうよ。まあ、狂われても困るからガス抜きのためにも娼館を建てさせるけどな。


 オレはいきたいとも思わなかったから知らなかったが、コラウスの娼館も経営が苦しく、安価で街に立つ女性もいるんだと。その働き口としてアシッカにも娼館を建てさせてもらうようコラウスからきてもらうことにしたのだ。


 もちろん、このことは伯爵にも話を通してある。性犯罪が急増されるくらいなら娼館を建てたほうが治安がよくなるかと、伯爵も娼館の役目を知ってたことには驚いたよ。


 KLX230をホームから引っ張り出してきて巨人の村(仮)に向かった。


 氷点下でバイクの移動は厳しいが、電熱グローブと電熱ベストがあれば充分に堪えられる。文明の利器、万歳。


 道も均されているので十分もしないで到着。まったく、道は偉大なり、だよ。


「マスター!」


 今日は寒いのか、ダイルたちは剣の打ち合いをしていた。そういやオレ、半年近くカインゼルさんから剣の稽古受けてねーや。


「ご苦労さんな。装備が届いた。体に合うのを選んでくれ」


 バイルズ武具店から買いつけた装備をアポートウォッチで取り寄せ、ダイルたちに装備を選ばさせた。


 靴以外は冒険者がよく使うもので、鉄印の冒険者ならこのくらいの装備をしているそうだ。


 革鎧とか中古品で少しへたれているが、ベテラン感は出ている。剣や槍も持ってみたが、そう悪いものには見えなかった。ガズのヤツ、奮発してくれたのかな?


「出発はそれぞれに任せる。P90とグロック17の弾の減りには注意しろ。銃を過信するな。まずは確実に依頼とゴブリン駆除をこなしていけよ。安全第一、命大事にだ」


 母親か! とか言われそうな雰囲気だが、これはくどいくらい言わなくちゃならない。こいつらにはがんばってもらわなくちゃならないんだからな。


 あとの判断はダイルたちに任せ、KLX230に跨がってマイセンズの砦に向かった。


 なんだかんだと時間がかかったので、マイセンズの砦に着いたのは陽が暮れてからだった。


「なんか人が増えてないか?」


 他にエルフがいるとは聞いてないし、ここに移り住んで活気が出たからそう見えるのかな?


 ミヤマランにいっている間に建物も増え、堀も二重になっており、司令部はなんか建て変わっていた。


「浦島太郎の気分だな」


 司令部に入ると、カインゼルさんとアルズライズ、ビシャやメビがいた。


「ご苦労様です。洞窟はどんな感じですか?」


「かなり深くて今の装備では心ともないから中断した。今はエルフたちに見張ってもらっておるよ。ロンダリオの隊も少し手間取っているようだ」


 手間取るくらい深いのか~。厄介そうな洞窟っぽいな。


「ゴブリンが巣食っていた場所、ありましたか?」


「ああ。入って百メートルくらいに大空間があって、いろんな骨や木の実のカスが埋め尽くされていたな。それはロンダリオたちも同じだ」


 そこが第一巣、って感じかな? 


「やはり、洞窟の奥からゴブリンが現れます?」


「ああ。定期的に三から五匹のゴブリンが奥から現れてくるな。死体は行き止まりのところに放り込んどるよ」


 腐ったら酷い臭いになりそうだな。外に誘き出したほうがいいか?


「風は奥から吹いてくるんですよね?」


「たまに止まることはあるが、大体は吹いとる。ただ、ときたま鼻が曲がりそうな臭いも流れてくるな」


 風の流れが変わるのか? 臭いものはゴブリンの糞や腐臭か?


「それだとラダリオンは砦で待機だな」


「そうだな。ラダリオンには堪えられないだろうよ。ビシャとメビも防毒マスクをしとるが、半日もおられん状態だ」


「あれは無理」


「うん。鼻が死んじゃうレベルだよ」


 じゃあ、ビシャとメビは拠点防衛をやってもらうか。溢れたら迎え撃ってもらわないといけないからな。


「東洞窟はエルフに任せてカインゼルさんたちは一旦アシッカに戻って三日くらい休んでください。オレは砦で仕事してますんで」


 エルフたちへ食料を出したり、砦の様子を確認したり周辺を確認したりと、三日くらいはかかるはずだ。


「メビ。お前はタカトについていろ。タカトを一人にするな」


「わかった。任せて」


「いや、エルフたちもいるんですから大丈夫ですよ」


 まったく大丈夫とは言えないが、戦えるエルフは五十人くらいいる。狂乱化が起きても対処できるはずだ。


「タカトが動いたと言うことはゴブリンどもも動く恐れがある。万が一に備えてメビを連れていけ」


 元兵士長だった人の言葉は軽んじることはできない。確かにそうなりそうな確率が高いしな。


「メビはいいのか?」


「大丈夫。あたしはずっと洞窟前で待機だったから疲れてないし」


 なら、メビについててもらうか。獣人姉妹は夜目もよかったしな。


「三日後くらいにまたここに集まりましょう。全員が揃ったら本格的に洞窟探索をします」


 オレの言葉に全員が頷いてくれた。

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