第69話 謙虚
ロスキートのお陰でマルスの町に到着したのは昼過ぎだった。
「タカト、お腹空いた」
人目がないところを探すが、ロスキートのことが広まったのか、町の外まで人が出ていてセフティーホームに入れる隙がない。ラダリオンの胃は隙だらけて悲鳴を上げてるけどな。
「しょうがない。そこで食うか」
火を焚いた跡がいくつかあったので、ここで昼飯を食うことにした。
「ラダリオン。夜豪華にするから手持ちのを食べろ」
オレはアポートポーチから小型のガスバーナーコンロとガスボンベ、シェラカップ、そしてカップラーメンを取り寄せた。
「たまにはカップラーメンもいいだろう」
ラダリオンがきてからカップラーメンは口にしてなかったからか、久しぶりに食うとやたらと美味い。こんなに美味いものだったっけか?
「タカト、あたしもそれ食べたい」
「いつも食ってるのより安い味だぞ?」
カップラーメンを作っている方々には申し訳ないが、いつも食っているのは店の料理。カップラーメンと比べるほうが悪いだろう。
「それでも食べたい」
まあ、カップラーメンは保存食として箱で買ってある。しょうゆ、シーフード、カレーと、お湯が沸くごとにカップラーメンを作ってラダリオンに渡してやった。
「美味しい! これ好き!」
そうかい。でも食べすぎないようにな。野菜も食えよ。
昼飯を済ませ、ガスバーナーコンロとかはラダリオンのリュックサックに。ゴミを埋めてから町の中へと入った。
「出入り自由で大丈夫なのか?」
街と同じく門番はいたが、呼び止められることはなく、ただ出入りする者を見ているだけだった。
マルスの町中は浮浪者的な感じの者はいない。なかなか綺麗な町並みで、花壇なんかも道の端に作られていた。
建物はほとんどが石組みのもので、木造はなにかの小屋ぐらい。鉱山があるって言ってたし、石が手に入りやすいのだろう。
地面も石畳が敷かれており、街のときのような埃っぽさもない。が、太陽の照り返しで町の外より暑いのが困りものだな。
「さて。支部はどこだ?」
誰かに尋ねるかと考えてたらまた教会が現れた。
しかもまた募金を呼びかけてやがる。教会は募金されないと維持できない組織なのか? そんな力もない宗教なんて創ってんじゃないよ!
とかなんとか心の中で文句を言いながら募金箱に銀貨一枚を入れてやった。まったく、なんの通行税だよ。
「ありがとうございます!」
「どう致しまして」
子供の笑顔に素っ気なく返して教会の前を通りすぎ──る前に支部がどこかを尋ねた。
「そこだよ」
隣かい! この世界は冒険者ギルドと教会が隣り合わせじゃないダメな決まりでもあるのか?
子供に礼を言って支部へと向かった。
街のギルドとは違い、支部はちょっと大き目の家と言った感じで、町の郵便局みたいなこじんまりとしたカウンターだった。
「すみません。タカトと申しますが、ルスルさんに取り次いでもらえますか?」
カウンターにいた中年の男性に声をかけた。
「ああ、あんたがタカトさんかい。ちょっと待ってな」
男性は奥へいき、しばらくしてからルスルさんがやってきた。
「ゴブリンだけではなくロスキートまで倒すとは大活躍ですね」
嫌味にも聞こえそうだが、本人は素直にそう思ってそう言ってるのだろう。表情が呆れていた。
「いえ。あの冒険者たちの仕事を奪って申し訳ありませんでした」
「謙虚もすぎたら嫌味ですよ」
あれ? もしかして本当に嫌味で言ったの?
「強い言葉で己を飾っても強くなるわけじゃありませんからね」
自分の強さは自分が一番知っている。大言壮語で自分を強く思い込ませても意味はない。ただ早死にするだけだ。
「謙虚なのは性格ですか」
「ただ臆病者なだけですよ」
そう言ったら笑顔を見せるルスルさん。なんか琴線に触れること言ったか?
「こちらへ」
と、カウンターの奥に通され、階段を上がって二階へ。多目的室的な部屋へと通された。
そこにらあの冒険者たちと四十歳くらいの男性、あと、白髪の老人がいた。
「先ほどぶり」
「はい。先ほどぶりです」
勧められた席に座り、リーダーらしき男と挨拶を交わした。
「説明はロンダリオさんから聞きました。素材はロンダリオさんのチームに。報酬は山分けでよろしいですか?」
リーダーらしき男、ロンダリオって言うんだ。格好いい男は格好いい名前してんな。クソ……。
「はい。構いません」
ではと、オレとラダリオンの前に銀貨八枚ずつが置かれた。
「こんなにもらえるものなんですか?」
円にしたらいくらかは知らないが、たぶん感じからして銀貨一枚は一万円くらいだ。一枚一万円としたら八万円になる。あちらの冒険者は五人チームだから五十六万円ってことになる。ゴブリン……(計算中)……百十二匹分になるのか、ロスキートって?
「それだけのものと言うことです。ご理解いただけましたか?」
「ええ。次からは見なかったことにするか全力疾走で逃げます」
そんなヤバいヤツと知ってたら戦おうなんて思わなかったよ。あんなと戦うくらいならゴブリン二百匹と戦ったほうがマシだわ。
「アハハ。恥ずかしいことを堂々と言うんだな」
「格好いいことを言って死ぬ趣味はありませんからね」
オレは「ここはオレに任せて先にいけ!」ってタイプではない。と言うか、そんな状況にならないよう努力するタイプである。
「報酬は間違いなく受け取りました。ルスルさん。お時間があるならゴブリンの情報をいただけませんでしょうか?」
この世界の金をいくら稼ごうが弾一つ買えないのだ。ゴブリンの情報のほうが遥かにありがたいよ。
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