第68話 ゴブリン殺し

 ロスキートを警戒しながら子供に近づき、足先で反応をみた。


「……うぅ……」


 お、生きてる。血も流れてないから吹き飛ばされるかして気絶したんだな。


「ラダリオン。子供を運ぶから警戒は任せる」


 羊のスプラッターとロスキートのスプラッターの側にいさせるのは可哀想だしな、少し離れるとしよう。


 Hスナイパーはとりあえず地面に置き、子供をお姫様抱っこして運んだ。てか、軽いなこの子? 日焼けした顔も細い。三十五キロもないんじゃないか?


 今のオレでも運べてるんだから相当軽いんだろう。ちゃんと食べれてないのか?


 隠れるにはちょうどいい石の陰に子供を寝かせ、強く打ったところはないかを確認する。


 頭や体、腕や脚に痣はない。が、内出血を起こしてるかもしれないので、バスタオルを取り寄せて頭の下に入れ、タオルケットを取り寄せてかけてやった。


 目覚めるまではどうにもできないので、ロスキートを見に戻った。


「動いたか?」


「ううん。動かない。完全に死んでる」


 それはよかった。あれで死ななかったらこれから対物ライフルを持ち歩かないと外を歩けなくなるよ。


「さて、どうしたもんかな?」


 警察に電話することもできないし、放置してもいいものなのか? それともラダリオンに元に戻ってもらって埋めたほうがいいのか? どうなんだ?


「タカト」


 いろいろ考えてたらラダリオンがオレを揺らし、あれと指を差した。


 その先に目を向けると、馬に跨がった集団がこちらに駆けてくるのが見えた。


「銃口は下げておけ。でも油断はするな」


「うん」


 オレもP90の銃口は下げるが、引き金には指をかけたままにしておいた。


 やってきたのは三十前後の冒険者っぽい感じの男たちだ。剣と弓矢を装備しており、見るからに強者とわかる雰囲気を出していた。


「あんたがやったのか?」


 リーダーっぽい男が馬を降り、剣に手をかけたまま尋ねてきた。


「ああ、そうだ。ゴブリンを狩っていたらロスキートが飛んでるのを見てな、危険と判断して倒した。あの石の陰に怪我人がいる。手当てしてやってくれ」


 リーダーらしき男が仲間に見てこいと指示を出す。統率力が高いこと。


「あんた、タカトってヤツかい?」


「ああ。ルスルさんから?」


「そうだ。ゴブリン狩りを専門とする男と子供がいるってな。どんなもんかと思ったらロスキートを倒せるほどの猛者だったとはな」


「猛者に見えたら節穴だな。道具に頼るだけの男だよ」


「フッ。道具を使いこなせるのも強さのうちさ。ゴブリン殺し」


 ゴブリン殺し? って、それ、オレのこと? なんかダサいあだ名なんですけど。いやまあ、だからってゴブリンスレイヤーとか呼ばれるのも嫌だけどよ。


「それで、ロスキートの死体はどうしたらいいんだ? ゴブリン狩りばかりしてるんでこう言うことはなにも知らないんだよ」


「素材を剥ぎ取ったら燃やすか埋めるだな」


「素材はそちらにやるんで片付けを頼んでいいか? オレらはゴブリン狩りで金を稼いでいるから剥ぎ取りとか知らないし、必要ともしないんでな」


「わかった。こちらで片付けよう。ただ、こちらもプライドがあるんでな、分け前は払わしてもらうよ」


「そちらがそれで構わないのならオレに異存はない。好きにしてくれ」


「交渉成立だ。皆、やるぞ」


 長いこと冒険者をやっているようで手際がいい。てか、火の魔法を使ったよ! スゲー!


 手のひらから炎を出す光景にテンションが上がってしまった。


「魔法か。使えていいな」


 操を守れず魔法使いにはなれなかったが、炎とか出せるなら操を守るんだった。ライターを出して燃えろ、とか言ってみてー!


 なんてことは心の奥に仕舞い込み、子供のところに向かった。


「様子は?」


 なにやら手のひらを光らせる男。ホ○ミか? ケ○ルか? ヒールなのか?


「強く打ったみたいだな。かなり悪かったが、処置が早かったから問題なく回復するだろう」


 魔法がこんなに凄いものだとは思わなかった。オレも回復魔法を使えるヤツを探そうかな~?


「……う、あ、え……?」


 子供が目を覚まし、オレたちがいることに戸惑っていた。


「まだ寝ていろ。羊飼いの組合には知らせてやるから」


 羊って組合で飼ってるんだ。所変われば品変わるだな。


 いつの間にか他の仲間が知らせに走ったようで、モンゴルの民族衣装のような服を着た男たちが駆けてきた。


「羊の処理はそちらで任せる。この子供はゆっくり運べ。まだ回復したばかりで体は弱っているからな」


 回復魔法の男がテキパキと指示を出す。一人一人が優秀なチームだよ。


「は、はい。ありがとうございました」


 子供のことは任せ、オレらはリーダーらしき男たちのところへと向かった。


「おれらは先に戻ってルスルさんに話を通しておく。あとできてくれ」


「了解した。オレらはゆっくり向かわせてもらうよ」


 冒険者たちは颯爽と現れて颯爽と去っていってしまった。


「……あんな冒険者がいるならゴブリン駆除もしてくれたらいいのにな……」


 あれだけ強いならゴブリン駆除も簡単だろう。五千匹どころか一万匹だって可能なはずだ。


 なんて愚痴っても仕方がないな。それができるならやってるはず。できないから素人のオレにやらせてるんだからよ。


「ラダリオン。いくか」


「うん」


 置きっぱなしにしていたHスナイパーを回収し、マルスの町に向かって歩き出した。

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