第187話 ウルヴァリン

 ライダンド伯爵領にきて八日が過ぎた。


 思い返せば濃い日々だった。いや、この世界にきてからずっと濃い日々だったけどね!


「このままのんびり過ごせたらいいのに」


 なにもせず、宿の部屋でのんびりゆったり飲む酒の美味きことよ。このまま人生が終わってくれたらハッピーエンドなんだがな。


「あたしは飽きた。ゴブリン駆除したいよ」


「あたしも。まだ帰らないの?」


 白黒ひっくり返しなゲームをしていたビシャとメビの獣人姉妹。賭けゲームなんてどこで覚えてきたんだか。姉妹ケンカになる前に止めておきなさいよ。


「戦いには待つことも休むことも大切なんだぞ。暇なら外で遊んでこいよ」


 オレはダインさんの用意が調うまでは休むと決めた。銃の手入れも弾込めも筋トレもしないのだ。


「なにをして遊べって言うのさ?」


「砂遊び?」


「もうそんな子供じゃないよ!」


 と、跳びかかってくる獣人姉妹。だが、ダメ女神により二段階アップしたオレはもうやられるだけのアラサーではない。しがみつく獣人姉妹を投げ放ってやる。


 そして、十分後、息切れして獣人姉妹に尻に敷かれました。


 ……ゼーゼー。十二歳と十歳に負けるオレ、情けなさすぎる……。


「タカト。ダインの使いがきて二日後にコラウスへ帰るそうだ」


 獣人姉妹に尻に敷かれるのはいつものことなのでカインゼルさんは突っ込んだりしない。それどころか微笑ましく見てるよ。


「じゃあ、明日から帰る準備しますか。一号のガソリンは入ってます?」


「ああ。常に満タンにしているよ」


 自分の報酬でガソリンを買い、洗車を欠かさない。もう愛してると言ってもいいくらいだ。


「そう言えば、コラウスとライダンドの往来は再開してるんですか?」


 オレ、あれから冒険者ギルドにいってないや。


「まだだな。ロースランが倒されたことは伝わったようだが、自ら安全を示す商人は少ないだろう。おそらくわしらが帰るのを待って再開するんだろうな」


「自らハズレは引きたくない、ですか」


「そう言うものだ。まあ、ダインとルライズ商会はアタリを引いたがな」


 どれほど儲かるかは知らないが、その強運にあやかりたいよ。こちらは働いた分の報酬しか手に入れてないってんだからよ。


「こういうときって、冒険者ギルドへ報告したほうがいいんですかね?」


「そうだな。わしもそこまで冒険者事情に詳しくはないが、挨拶はしておいたほうがいいんじゃないか? これからもライダンドにくる機会はあるんだから」


 そう、だな。バイスたち請負員がいてゴブリンがいる。またこなくちゃならなくなったときのためにコネは作っておくべきか。


「ライダンドの冒険者ギルドは男が多かったし、酒でも持っていきますか」


 ここはまだ袖の下が通じる時代。なら、遠慮なく袖の下を膨れさせてやろう。


 動きたくはないが、このまま獣人姉妹の尻に敷かれてるのも変な誤解を受けそうだ。


 そのままホームに戻ると、パイオニアが消えていた。あれ?


「ラダリオン。パイオニアはどうしたんだ?」


 玄関で弾入りマガジンを整理していたラダリオンに尋ねた。


「ミリエルが運転を覚えたいって」


 ミリエルが? あ、そう言えば、第二城壁街に布を買いにいったときやたらパイオニアの運転のことを尋ねてきてたな。車が珍しくて好奇心で尋ねてるんだと思ってたよ。


「足が復活したから運転したくなったか?」


 まだ筋肉が鈍っているから歩くことは不自由で、村には電動車椅子を使っているが、オートマ車を運転するくらいには問題ない、のかな?


「ミリエルが運転できるようになったらもう一台買わなくちゃな」


 ラダリオンは運転に興味がなく、獣人姉妹にさせるには不安だ。もう一人運転できる者ができるのは助かる。


「じゃあ、二号は小屋に戻すように伝えてくれ。新しいのを買うから」


「わかった」


 タブレットで安いワインを買い、街用の装備を着込んで外に出た。


「カインゼルさん。ミリエルが運転を覚え始めたみたいなのでもう一台買おうと思うんですが、なにか要望はありますか?」


 元の世界の字など読めないのに車雑誌を購読する五十代。オレはなにか重大な罪を冒してしまったのだろうか?


「ヤマハのウルヴァリンがいい!」


 とすぐに返ってきた。


「ウルヴァリンですか?」


 確か、ウルヴァリンRMAX1000だったっけか? ホンダのタロンと悩んだヤツ。


「ああ。できることなら二人乗りのがいい。ダメか?」


「まあ、いいんじゃないですかね。小回りが効いて」


 今のところオレらは五人で行動してるし、荷物を積載できるトレーラーもある。先行偵察車として買っておくか。


 オプションで屋根だけでいいと言うので、希望の青色の二人乗り用ウルヴァリンを買うことに決定。パイオニア一号が停まっている宿の厩へ向かった。


「じゃあ、ちょっと買ってきます」


 と言い残してホームへ。ウルヴァリンを買って戻ってきた。


「おお! カッコイイ!」


 少年のようにはしゃぐカインゼルさん。男は五十代になっても心は少年なんだな~。


「多少、配置は違いますが、基本は同じです。まあ、動かしながら覚えてください」


 まるで聞いちゃいないので運転席を譲った。


「慣らしてくる!」


 そう言うとどこかに走ってってしまった。まあ、ほどほどにね。


「ビシャ、メビ。オレは冒険者ギルドにいってくるよ」


「あたしもいく!」


「あたしも!」


 ってことなので三人で冒険者ギルドに向かった。

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