第186話 懐かしい味

 予約した次の日。オレらはミシェドさんの酒場にやってきた。


「ようこそいらっしゃいました。たくさん用意しておきました」


「ありがとうございます」


 オレらがくるのに合わせてたのか、席につくなり料理を運んできてくれた。あ、酒は持ち込みです。


「じゃあ、いただきますか」


 娘っ子どもはフライングしてたが、オレやカインゼルさんはまずは酒を用意。一杯飲み干してから料理に手を伸ばした。うん、美味い美味い。


 ミリエルを参加させてやれないのは申し訳ないが、昨日、羊料理を買ってホームに運んだ。ゴルグんところで食べてもらうためにな。


 ロミーの親父さんや弟子がきてるから寂しい思いをさせることはないはずだ。酒も腕輪の力を使って十八リットルのポリタンクに詰め替えて渡してある。ロミーが察してミリエルが寂しくないよう歓迎してくれるだろう。


「美味しいね!」


「お腹が三つくらいあったらいいのに!」


 ビシャもメビも大喜び。食欲三倍拳で羊料理を食っている。ラダリオン? 軽く一頭は食ったよ。ほんと、胃にブラックホールを飼うとかどんな病気なんだか。


 ……薬は帰ってからにしてやろう。病気とは言え、満面の笑みで食べてるしな……。


 オレも相当な量を食ったが、そこまで大食漢ってわけじゃない。ただ、羊料理が油っこかったからハイボールが進んで進んで、五杯も飲んでしまった。これ以上、一口でも口に入れたら虹色リバースを吐くことになるぜ。


 ……ちょ、調子に乗りすぎたぜ……。


 まだ余裕な三人を眺めながら食休み。一時間くらいでやっとコーヒーを飲めて落ち着けた。


「カインゼルさん。あまり食べてなかったですけど、調子が悪いんですか?」


 いつもあまり食べないが、今日は二皿も食ってない。


「この歳になったら羊料理は胃に堪える。あっさりしたもので酒を飲むのがちょうどいいのさ」


「五十代はそうなるんですね」


 部長も段々と酒の量が減っていったっけ。


「まあ、報酬で買える酒は強いからな。チビチビやらんとぶっ倒れてしまうよ」


 アルコール度数の低いワインかエールしか飲んでこなかったんだから仕方がないか。


「タカトさん。料理はどうでしたか?」


 料理作りに専念していたミシェドさんが一段落したのかオレたちのところにやってきた。


「とても美味しかったです。若ければもっと食べられたんですがね」


 今日の食事にはバイスたちも誘い、別のテーブルでがむしゃらに食べている。昨日はワイン一瓶飲んでグロッキーになってたのにな。若さが羨ましいよ。


「それは残念です。まだ羊のスープが残ってたんですが」


「あ、鍋を持ってくるんでそれに入れてください。明日の朝飲みたいので」


 うどんかラーメンを入れて食いたい。きっと美味いはずだ。


 そんなオレの思考を読んでか、ラダリオンがホームに戻って寸胴鍋を持ってきた。お前はエスパーか。


「わかりました。肉団子もつけておきますね」


 寸胴鍋を持って下がっていった。


「タカト。わしはもう下がるな。少し飲みすぎた」


「飲んだあとのサウナは危険ですからダメですよ」


 カインゼルさん、暇があればサウナに入っている。どんだけ好きなんだよって突っ込みたいくらいだ。 


「ああ。もう寝るよ。明日はわしも土産を買いにいきたいからな」


 誰にかは訊かない。カインゼルさんも誰に買うかは言わないからな。


「お気をつけて」


「ああ。タカトもな。ラダリオン。ちゃんとタカトを宿に連れていくんだぞ」


「わかった。八分目で止めておく」

 

 まだ八分目にもなってないんだ。帰ったら絶対回復薬を飲ませるとしよう。


「タカトさん」


 と、ダインさんがやってきた。従業員を連れて。


「ダインさんたちも食事ですか?」


「はい。やっと仕入れが終わったのでライダンド名物を食べにきました」


 そう言って隣の席に座った。空いてると思ったら予約してたのか? もしかして、オレたちに合わせた?


 店には商会の旦那連中がきてるが、誰も話しかけてはこない。ミシェドさんがオレの主張を伝えてくれたのだろう。ただまあ、こちらを見ている視線は感じるがな。


「タカト」


 今度はミシニーたち護衛チームがやってきた。


「ミシニーたちもきたのか」


「ああ。せっかくだから皆に酒を飲ませてやろうと思ってな」


 ルライズ商会に雇われた冒険者とは軽く挨拶をしたくらいで、あとはミシニーを通しての関係だ。なので、ミシニーとどんな関係かはわからない。ただ、見てる分には良好な関係を築いてはいるようだ。


 ……ミシニーって何気にコミュニケーション能力が高いよな……。


 種族差別がないのか、人間の冒険者たちもミシニーを信頼して指示に従い、こうして酒を酌み交わしている。


 まあ、コラウス辺境伯領だからで、他はないのかもしれないな。オレはまだこの世界を知らないんだから。


 生き残るためにはもっと世界を知らないといかんな。コラウス辺境伯領ばかりに閉じ籠もってぬくぬくしてたらいざってときに動けなくなる。それは先達者たちの失敗からもよくわかる。


 広範囲に動き、広範囲のゴブリンを駆除し、請負員を増やしていく。ゴブリンが消えた未来などよりゴブリンがいる今を考えて生き抜くんだ。


 って、ダメだな。今は余暇を楽しんでいるってのにすぐ考え込んでしまう。日本人の悪いクセだ。


「タカト。アイス食べたい」


 やっと八分目になったのか、ラダリオンがアイスを求めてきた。


「バニラでいいか?」


「うん。レディーのやつ」


 アポートウォッチでレディーなボーデン大容量を取り寄せた。


「タカト、あたしも食べたい!」


「あたしも!」


 ハイハイ。いっぱいあるから騒ぐんじゃありません。


 ラダリオンサイズでは腹を壊すのでカップサイズのを三つ出してやる。オレも食いたくなりました。


 けど、オレはラム酒も追加。二口掬ってそこにラム酒を足した。


 アイスにラム酒? と思ったが、後輩に勧められて食ったら美味かった。それ以降、バニラにラム酒は欠かせなくなったよ。あー美味い。


「タカト。それは美味いのか?」


 オレの食い方を見たようでミシニーが迫ってきた。面倒なので自分で確かめろとラム酒を押しつけてやった。


 あー。後輩のヤツ、なにしてっかな?


 元の世界を懐かしみながらラム酒アイスを楽しんだ。

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