第188話 帰る家がある
冒険者ギルドへの挨拶も無事終わり、帰る仕度も万全。コラウスへ帰る日を迎えた。
天候は若干の曇りだが、太陽が見えるし雨は降らないだろう。でも、カッパを用意しておくか。一号はフロントウィンドウがないし。
「帰ったら買い足すか」
オレは雨風を浴びたくない。ドアにもウィンドウをつけようっと。
「タカトさん、お待たせしました」
交易広場で待っていたらダインさんたちがやってきた。
「馬車、買ったんですか?」
きたときは二台だったのに四台に増えていた。
「二台はミレット商会のものです。荷が増えてしまったので借りました」
馬車には過積載じゃね? ってくらいの木箱が積まれていた。大丈夫なの?
「差し支えなければ荷はなんですか?」
密輸だったらここでさようならさせていただきますよ。
「塩です。コラウスは辺境なので塩がいつも不足しているんですよ」
「そう言うのって辺境伯か大きな商会が仕切ってるものじゃないんですか?」
よく知らんけど、塩って戦略的物資とかになるんじゃないの? それを一行商人が扱ったりしていいの?
「領主代理たるミシャード様より許可は得ています」
「……こう言っては失礼ですが、それを行商人に許可したりするものなんですか?」
いや、ギルドマスターから依頼を受ける人なんだから領主代理から依頼を受けても不思議……でしかないよな。依頼内容が超重要じゃん。
「まあ、いろいろあるのですよ」
あ、これは触れちゃいけないアンタッチャブルだ。クソ! 一介の行商人がギルドマスターと繋がりがあるってところで気づいておくべきだった。悟れよ、オレ!
「やはりタカトさんにはわかってしまいますか」
「いえ、なにもわかりません。もうなんのことやらさっぱりです」
それ以上聞く気はないと、ダインさんの話を拒絶した。
「タカトさんが賢くて助かります」
そんな挑発には乗らんぞ。オレはこれからもダインさんを行商人としか見ないんだから。
出発するまでダインさんとは話さず、時間になったら出立した。
ライダンドにきたときと同じように先頭はカインゼルさんとラダリオン。ルライズ商会の馬車が八台繋がり、最後尾はオレ、ビシャ、メビがついた。
ルライズ商会の事情はなにも知らないが、きたときより荷が増えている。どうやらここには積みすぎと言う概念がないらしい。損失覚悟なんだろうか?
「こちら01。先行する」
出立して四時間。山の下辺りまでやってきたらラダリオンから通信が入った。
「00了解。気をつけろよ」
「01、02、了解」
通信が切れ、ちょっと道をずらして確認したらウルヴァリンが加速していくのが見えた。まったく、スピード狂な五十代だよ。
山に登る前に三十分ほど休憩し、峠を越えてキャンプ地に着いたときは十七時前になっていた。
「カインゼルさん。どうです?」
先にキャンプ地入りして周辺の様子を見てくれていたカインゼルさんたちと合流して尋ねた。
「ロースランの姿はないが、ゴブリンの足跡はいくつかあった」
「前回もかなりの数がいましたが、今回は軽く倍まで膨れ上がってますね。これが通常なのか?」
ほんと、湧き出てくるんじゃないかと疑いたくなるレベルだよ。
「やるか?」
「いえ、今回は止めておきましょう。こちらを警戒してる感じですから」
火薬の臭いでも覚えたのか、遠巻きにして潜んでいる。これは駆除するのに苦労すると思う。もう少し放置して油断してからのほうが苦労しないはずだ。
「ゴブリンの気配からロースランはいないみたいですね。明かりを出しておけば近寄ってこないでしょう」
ダインさんたちに許可を得て四方に銃弾を放って火薬の臭いをばら蒔いてから夜営の準備に取りかかった。
夜も交代で見張り、何事もなく朝を迎えた。
夜営の片付けを済ませ、馬を繋いで出立する。
三十分ほどキャンプ地に止まり、追撃を警戒しながら馬車のあとを追った。
そして無事、コラウス辺境伯領に帰ってきた。
十五時前にはコレールの町に着き、そこでマルジィーさん率いるルライズ商会の馬車とは別れる。
「タカト。明日か明後日、ラザニア村にいくよ」
「オレはギルドマスターに報告しにいくからいないかもしれないが、酒と料理は用意しておくよ」
そう言ってミシニーたちともそこで別れた。
少し馬車の進みが遅くなったが、暗くなる前にミスリムの町に到着できた。
「タカトさんたちのお陰で無事帰ってこれました。護衛料はギルドマスターを通して支払います」
つまり、この件にはギルドマスターも一枚噛んでるってことか。権力者の企みは怖いもんだよ。
離所の広場で今回の依頼完了をもらい、そこで解散となった。
「じゃあ、我が家に帰りますか。あ、サウナに入りたいならカインゼルさんはここで解散してもいいですよ」
うちにも簡易サウナはあるが、わざわざミスリムの町かリハルの町に入りにいっている。きっと本格的なサウナなんだろうよ。
「いや、帰るよ。さすがに疲れたからな」
ってことで我が家へ向かう。
ラザニア村に着く頃にはすっかり暗くなり、パイオニアは小屋の前に置き、荷物はホームに運んだ。
「タカトさん、ラダリオン、お帰りなさい。料理はできてますよ」
ラダリオンにお願いしてちょくちょくミリエルに状況を伝えてもらい、ミスリムの町でも報告に戻って夕飯の用意をお願いしてたのだ。
「ただいま。ありがとな」
シャワーはあとにしてまずは夕飯だ。
完全に食堂になってしまったラダリオンの部屋に集まり、久しぶりに皆が集まって食卓を囲んだ。
……帰る家があるっていいもんだな……。
そして、一緒に食事をしてくれる人たちがいる。幸せってこう言うことを言うんだろうな。
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