第189話 仲間殺し
午前中いっぱい眠って、十四時に目覚めてしまった。
「……ヤベー。寝すぎた……」
寝坊するなとは覚悟してたが、まさかこんなに寝坊するとは思わなかったよ。ってまあ、構わないか。三日くらいは休もうと思ってたし。
「ラダリオンは起きたか」
中央ルームから玄関にいったら誰もいない。外に出てるのかな?
まあいいやとシャワーを浴びに。上がったらキンキンに冷えたビールをいっき飲み。このまま死んだら天国にいっ……ても追い返されそうだな。それどころか激戦区に送り込まれそうだ。
一缶だけで止めておき、食パンを二枚トースターで焼いて食べてると、ミリエルが戻ってきた。おはよーさん。
「あ、タカトさん。起きたんですね。ミシニーさんがきてますよ」
「ミシニー、もうきたのか」
現役冒険者は元気で羨ましい。オレはここから動きたくないってのにな。
「あと、ギルドマスターが夜にくると使いの方がきました」
「ギルドマスター自らくるのか。聞かせられない話なら勘弁して欲しいもんだ」
まあ、呼び出されるよりはマシか。領主代理とならんで公にできないことしゃべられても胃が痛くなるだけだ。
「ラダリオンは?」
「新たにできた巨人用の倉庫に荷物を運んでます」
ラダリオンも元気だこと。今日くらいゆっくりしたらいいのに。
「あ、ロミーの親父さんに挨拶しないといかんか」
さすがの巨人も十日くらいで完成させるのは不可能なはず。なら、まだ仕事してるだろうし、十七時くらいに挨拶しにいくか。
とりあえずパンを完食。コーヒーを淹れてゆったり飲んだら仕度をして外に出た。
「タカト。やっと起きてきたか」
食堂で一杯やってる飲兵衛さん。冒険者は飲むくらいしか時間を潰す方法を知らんのかね? いやまあ、今のオレも似たようなもんだけどさ。
「ああ。すっかり寝過ごしたよ。まったく、軟弱で困るよ」
「タカトは軟弱と言うより頭の使いすぎだ。お前は考えて戦うヤツだからな」
「考えてもこの様だがな」
頭のできも人並み。もっと頭がいい敵が現れたらと考えたら胃が痛くなって仕方がないよ。
「わたしからしたら羨むくらいの賢さだよ。タカトが上にいてくれると安心して仕事ができる」
「オレは誰かの下について仕事がしたいけどな」
普通の作業でもリーダーは辛いもの。それが命を賭ける仕事となったら心労は幾百倍。苦労で胃をすり減らし、酒でもすり減らす。早死にする未来しかないよ。
「フフ。お前を使えるヤツがいるなら見てみたいものだ」
「いくらでもいるだろう、そんなヤツ」
普通オブ普通のオレなんかより優秀なヤツなんていくらでもいんだろうが。ミシニーがわたしの仲間になれって言うなら喜んで尻尾を振るよ。
「まあ、いるだろうな。だが、お前の立場がそれを許さない。お前が神より遣わされた者だと聞いた。ギルドマスターや領主代理も知ってるとか。それを知ってお前の上に立とうと考えるヤツはいないよ。少なくともわたしには無理だ」
オレだって無理だよ。無理なのにやらされてんだよ。胃を痛めながら生きてんだよ。畜生が。
「わたしも正式にセフティーブレットに入れて欲しい」
「冒険者としての仕事はいいのか? お前、銀印として重要な立場にいるんだろう?」
金印の実力を持つミシニーだ。なにか重要なことが起きたら駆り出される立場なはず。コレールの町の支部が手放すってことないじゃねーの?
「わたしには不名誉なあだ名があるんだ」
不名誉なあだ名?
「仲間殺し。隊を組んでも一年と持たず、わたしだけが生き残るんだ」
そんなあだ名を持つなら嫌われると思うんだが、護衛してたヤツらから嫌われている光景なんて見なかったぞ。
「心ないヤツはどこにでもいるものさ」
つまり、護衛のヤツらは心あるヤツらってことか。まあ、ミシニーはコミュニケーション能力高い。付き合えばいいヤツってわかるものだ。美形でもあるしな。
「……オレにはその事情や背景は知らないが、それは無理な仕事をさせた支部が悪いんじゃないか?」
まず、支部は大した情報をミシニーたちに与えず、実力のある冒険者なら大丈夫だろうと安易にいかせる。なにが起こってるかわからない場所で対処しろってほうが間違っている。それで間違わず生き残ってるミシニーが奇跡なんだよ。
「それを理解してくれるタカトの下なら不名誉なあだ名もなくなるってものさ」
「まあ、入りたいってんなら歓迎するよ。優秀な存在に長く働いてもらえればオレの利益となるからな」
うちは兼業オッケーなホワイト団体。上前三割取っててなんだけど!
「感謝する」
「館が完成したら好きな部屋に住むといい。あと、幹部として後輩の育成には協力してくれよ。家賃と食事は免除するから」
「酒は?」
「嗜好品は各自購入。安いのなら置いててやるから」
飲兵衛に飲み放題とか許可できるか。破産するわ。
「まあ、そこは妥協しよう。タカトはワイン選びが悪いからな」
不味くてうっすいワインばかり飲んでたクセに選びとか言うな。金さえあればオレだっていいワインを買うわ。
「はいはい。オレの舌は貧乏舌だよ」
肩を竦め、ロミーの親父さんに挨拶するべく家を出た。
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