第549話 転移魔法
「タカトさん! ライダンドにいくって本当ですか?」
敷地内を見回っていると、ダインさんが駆けてきた。もう伝わるとかうちの情報管理どうなってんのよ? まあ、別に機密事項ではないからいいけどよ。
「はい。明日にでもいってみようかと考えています」
「もう少し待っていただけませんか? また護衛をお願いしたいのです!」
「オレ、馬を買いにいくだけですよ」
今回はそれが目的だ。領外を見たいとかじゃないんだけど。
「はい。それなら力になれると思います。ミレット商会はライダンドでも力のある商会です。馬飼いにも伝手はあります。安く買えると思います」
そう言われたら断り難いな。
「わかりました。何日必要ですか?」
「五日あれば充分です。品はすぐ集められるので」
「わかりました。六日後の朝に出発するとしましょうか。遅れる場合はオレかシエイラ、もしくはミサロに伝わるようにしてくだい。無理に急ぐことはありませんから」
どうしてもすぐ馬が欲しいってわけじゃない。受け入れ態勢もできてないしな。
「わかりました。では──」
と、きたとき同様、駆けて去っていった。
「なんかまた増えそうだな」
まあ、いつものことだと敷地内の見回りを再開させた。
しかし、ここも発展したな~。木を伐られ、以前、ゴブリンを埋めた場所は拓けており、畑になっていた。ここで生るものは食わないでおこうっと。
長屋までくると、二十軒以上建てられており、住んでいる者たちの笑い声や子供たちの騒ぐ声が響いていた。
次に訓練ひろばに向かうと、見習い冒険者らしき少年少女たちが職員に鍛えられていた。
まだ十二、三歳だろうか。中学生くらいの年齢なのに生きるために働かなくちゃならない。昔の地球もそうだったんだろうし、ここの少年少女たちのように働いている国があるんだろうな~。
恵まれた国に生まれて、苦労なく、飢えることもなく三十歳まで生きられた幸せ。そのまま幸せに歳を重ねたかったよ。
しばらく眺め、馬を飼えそうな場所を下見していると、巨人の職人集団と出くわした。
「ご苦労様! 忙しいかい?」
「いや、ほどよく仕事をしているよ。また依頼か?」
しゃがんでくれる職人たち。人間との共存関係が深いことがよくわかるな。
「今度、ライダンド伯爵領に馬を買いにいくんで、二十頭は入る馬屋と放す場所が欲しいんですよ。どうですかね?」
「おう。任せておけ。あと、馬を飼うんならボキ草を植えるといいぞ。エサ代が抑えられるぞ」
ボキ草? なんじゃそりゃ?
「ありがとう! そのボキ草を植えてみるよ。そう急ぎじゃないからそちらの状況で始めてください」
「忙しいなら村のヤツにも声をかけるから大丈夫だ。お前さんが帰ってくるまでには造っておくよ」
よろしくと、職人たちと別れた。
そのまま館に戻り、シエイラに馬を買うこと、馬屋を造ること、ダインさんのことを話した。
「ミランド峠になにか出たなんて情報はあるか?」
「ロースランが出てからは聞いてないわね? 特に緊急な依頼も出ているって話も聞いていないわ」
これと言った問題はないか。
「なにか気になることでも?」
「いや、オレが歩くと問題に当たるからな。またなにかあるんじゃないかと警戒しているだけさ」
「ふふ。確かに問題に当たってばかりね。でも、その問題をすべて乗り越えているのがあなたよ。ダインとしては頼りたくなるのもわかるわ」
「備えれば大抵のことは乗り越えられるもんだよ。また最初からやらなくちゃならないのは泣けてくるがな」
生き残れても用意したものはすべてなくなる。また一から用意しなくちゃならないとか、賽の河原の子供のようだよ。積んだら崩れ、また積んだら崩れるの繰り返し。何度も繰り返されたら心折れるわ。
「そのときはわたしが慰めてあげるわよ」
本当に慰められるんだから男と言う生き物は単純な生き物だよ……。
「そのときは頼むよ」
だが、その前にやるべきことはやっておく。慰められる前提で動いては失敗するだけ。誰も死なないよう考えて、最悪の状況になっても打開できる用意をしておかなければならないのだ。
ホームに入り、ミランド峠の資料を引っ張り出してきて安全に通過する方法を考えた。
なにもないのになにかあると考えるのは不毛な気もしないし、なにをどう備えるかも纏まらない。これは別の視点から考える必要があるかもな。
写真を見ながら考えていると、ミリエルが入ってきた。そういや、朝から見てなかったな。
「ラダリオンのところにいっていたのか?」
「はい。ドワーフの様子を見て欲しいとシエイラに言われたので。これ、写真です」
と、デジカメを渡された。
メモリーカードを抜いてパソコンに入れ、写したものを見てみる。
「これがマジャルビンか。まんまデカいスライムだな」
某ゲームの有名スライムではないが、半透明でブヨブヨした姿をしていた。よくこんなものが生きられているよな。
「これがマジャルビンの魔石です」
テーブルに作業鞄が置かれ、中に濁った色の魔石がたくさん入っていた。
「これがマジャルビンの魔石か。小さい上に汚い魔石だな。なんの属性だ?」
「アルズライズさんの話では闇だそうです。異空魔法に用いられるそうですよ」
「異空魔法? そんなのがあるんだ。てか、異空魔法ってなにができるんだ?」
「アルズライズさんもよくわからないみたいですが、空間と空間を繋げて遠くの場所に移動する魔法に使われるってウワサがあるそうです」
「転移魔法か。この世界の魔法、スゲーな」
「転移魔法ですか?」
「ざっくり言えば、アポートウォッチと同じだな。女神の話ではアポートウォッチは科学、古代技術で造られたものだ。なら、魔法でも同じことができても不思議じゃないだろう。どう使うかはわからんけどな」
使えたらいいと思うが、ウワサ話ていどなら世に広まった魔法ではないってこと。人生を懸けて使いたい魔法ではないな。
「まあ、山崎さんのところに送るとしよう。あちらはなんの魔石か関係ないからな」
どんな魔石かを紙に書き、ボックスロッカーに放り込んだ。
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