第544話 口止め料
冒険者ギルド横の広場にパイオニア五号を停めたら徴税人たちがわらわらと出てきた。
もう慣れたとは言え、こいつらずっと見張っているのか? やることないのか? 時間があるなら文字の一つでも覚えろや。
「ん? お前たちか?」
よく見たら幼年組の徴税人しかいなかった。
「お前たちだけか?」
なんだっけ? 初代徴税人の名前? 思いっ切り忘れました。
「ミレンダたちはマルティーヌ一家の手伝いをしてるよ」
あーそうそう。ミレンダミレンダ。そんな名前だったよ。
「そうか。まあ、今日もこれを見張っててくれ。ほら、飴だ。ケンカしないで皆でわけるんだぞ。ミレンダたちにも残してやるんだからな」
飴で不和になられても困る。しっかり言い含めてから冒険者ギルドに向かった。
「そういや、どこで登録するんだ?」
オレ、冒険者ギルドのことなんも知らねーわ。まあ、買取りするカウンターはわかる。あの初老の男性がいたので教えてもらった。
「ラーティ! 登録だ!」
初老の男性が叫ぶと、カウンターの奥にいた若い女性が現れた。
「冒険者登録ですか?」
「はい。この五人をお願いします。あと、ワイニーズ討伐が完了したのでその報告です」
あ、ワイニーズ討伐の証ってなんだ? 全然聞いてねーや。
「わかりました。冒険者登録とワイニーズ討伐完了はこちらで行います。ギルドマスターが会いたいと申していたので二階にお願いします」
案内する者がいないようなので、勝手に上がらせてもらった。
勝手知ったる他人のギルド。迷うこともなくギルドマスターの部屋にいき、ノックしたらすぐにドアが開いた。
いつぞやの職員の女性だ。名前は知らないけど。
「どうもです。よろしいですか?」
「ああ、構わんよ。サナカ。休憩だ。紅茶を頼む」
シエイラから移動販売を始めているとは聞いてたが、もうこそこそしなくてよくなるほどきているようだな。
「あ、これ、差し入れです」
買えるようになったとは言え、貢ぎ物は出しておかないとなにを言われるかわかったもんじゃない。交際費と思えば惜しくはないさ。
ドーナツを取り寄せてサナカと呼ばれた女性職員に渡した。
「ありがとうございます。今度、離所にも足を運んでもらえると助かります」
あーあったね、離所。用もないから忘れていたよ。
「時間があれば顔を出してみますよ」
必ずいくとは約束はできない。なにがあるかわからない人生なんでね。
ギルドマスターから長椅子を勧められ、サナカさんが紅茶を淹れてくる前に芋焼酎、赤白黒の霧島を取り寄せて渡した。
「これが好きみたいですね。シエイラが言ってました」
ギルドマスターは芋焼酎が好みなようで、霧島をよく買っているそうだ。そういう好みまで調べておくんだからシエイラは有能だよ。
「ふふ。すまんな。他の職員の手前、そうたくさん買えんのだよ」
「どこでも女性の発言権は強いですからね」
「ふふ。まったくだ」
そそくさと芋焼酎を机の下に隠すギルドマスター。なかなか愉快な人だ。
「なにやら街が騒がしいが、なにをやったんだ? マルティーヌ一家が騒いでいるようだが」
「マルティーヌ商会に協力してもらって獣人を拐ったミヒャル商会を潰しました。それに関わったとされるマンタ村を全滅させました」
「……それでか。なにも情報が上がってこないのは。ミシャード様は知っているのか?」
「サイルスさんがきたので伝わっていると思います。ただ、逃げ出したミヒャル商会の隊商を消したことは伝えていません」
「護衛をしていた冒険者たちはどうした?」
「領主代理の名を借りて金で黙らせました。ほとぼりが冷めるまで戻ってこないでしょう。ミヒャル商会からの依頼はなかったことにしてもらえると助かります」
「芋焼酎は口止め料だったとはな。ズル賢い男だよ」
「正しく生きれる世なら正しく生きたいものですが、なかなかできない世なのが悲しい限りです」
できることなら清く正しく生きたいよ。人に優しくありたいよ。だが、それができない。やろうとしてもやらせてくれない。そんな理不尽で死にたくはない。なら、撃つしかない。オレには責任があるんだからな。
「……わかった。こちらで処理しておこう。ミヒャル商会はよいウワサは聞かなかったからな。自業自得だ」
「助かります」
持つべきものは大きい組織よ。次くるときも霧島持ってきますね。
「それと、ワイニーズ討伐が完了しましたが、なにか証拠が必要ですか? 魔石は譲ってしまって証がなにもないんですよ」
「お前さんが討伐したと言うなら信じるさ。討伐されてなければワイニーズの目撃情報が入ってくるだけだからな」
確かに。ウソをつくだけバカだな。
「ワイニーズの他に山黒の群れもいたそうです。かなりの数がいたので撃ち漏らしがいるかもしれませんね」
「山黒の群れ? どうやって倒したんだ!?」
「電撃で頭を沸騰させたみたいです。恐らく雷が弱点かもしれませんね。魔法で雷なんて創り出せるんですか?」
「金印の魔法使いなら可能だ」
へー。金印の魔法使いなんているんだ。ミシニーか?
「まあ、電撃じゃなくても目と鼻を潰してやればあいつらの能力の半分は奪えますよ。あとは時間をかけて仕留めるのがいいでしょう」
一匹なら銃を使わなくても倒せるだろうよ。オレはしないけど。
「それができる冒険者は銀印の冒険者以上だろうな」
まあ、見たら逃げろ。あとは数の暴力で倒せ、だな。
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