第545話 紙作り
「お前たち、ありがとな。報酬だ」
子供たちに銅貨一枚を報酬として渡した。
「ありがとう、おじさん!」
年長の子が音頭を取って礼を言ってきた。
なんだか礼儀を身につけつつあるな。練習でもしているのかな?
「もし、これからやることがないなら仕事をするか? 荷物持ちだ。一日大銅貨一枚。昼に食事を出すぞ」
「やる! あ、やらしてください!」
これは誰かに教えられた感じだな。マルティーヌ商会か? それとも修道士か?
「ロイズ。子供たちを連れて仲間の生活に必要なものを買ってこい。オレは城にいって今回のことを説明してくる。夕方にここで落ち会うとしよう」
五人に銀貨を五枚ずつ渡した。
「なにかあればセフティーブレットと名乗れ。そして、子供たちは絶対に守れ。それで人を害してもオレが上にかけあってないことにしてやる。いいな?」
可能性は低いが、万が一は人を殺してでも守れ。今、教会に睨まれることはしたくない。そうならないためなら子供を害する者は殺したほうが得だ。
……なんてことを考えるようになってしまったんだな、オレは……。
「わかりました。必ず守ります」
ロイズたちは別の考えで頷いたのだろう。まあ、お互いの利益になるならなんでもいいさ。
あとは任せ、パイオニア五号に乗り込んで城に向かった。
ここも勝手知ったる他人の城。オレを見るなり道を開けてくれるので、慣れた感じで進んでいった。
いつもの場所にパイオニア五号を停めたら執事(仮)のロズさんが現れた。この人、ちゃんと仕事してんだろうか?
「こちらへどうぞ」
ロズさんも慣れたようで無駄話せず、領主代理のところに案内してくれた。
「忙しいところお邪魔して申し訳ありません」
今日も今日とて忙しく書類に目を通している領主代理。こんな地位には着きたくないものだ。なんか痔になりそう。
「構わん。こちらも話したいことがあったからな。まずはお前の話しから聞こう」
机から長椅子に席を移し、報告を聞くようだ。
日本の信州ワインを取り寄せ、封を切って領主代理に差し出した。
「お前が選ぶ酒はどれも美味いな。仕事の合間に飲むのに最適だ」
いや、仕事中に飲んじゃダメでしょう。まあ、オレも仕事中に飲んじゃうことあるけどさ。
ミヒャル商会の倉庫のことはサイルスさんから聞いているだろうからマンタ村からのことを語った。
「そうか。マンタ村のことはこちらで処理しておこう。モリスの民の戸籍も用意する。ただ、ドワーフのことは手間取っている。他種族が増えることに不安を抱いているのだ」
移民問題みたいなものなんだろうか? 種族に関係なく仕事をさせたら、なんてことができたら移民問題や人種問題は起きたりしないか。外国人に仕事を奪われるとか聞いたことあるしな。そう簡単には考えられないか。
「ドワーフを受け入れるのに利があればいいってことですか?」
「人間に害がないと言うことも必要だ」
「人間がドワーフを害しないって証明するくらい難しいですね」
「ふふ。そうだな。難しいな」
領主代理もわかっているってことか。この問題が。
「ドワーフの存在が不安なら領主代理が代表者を任命して、コラウスの下と教えるべきでしょう。不満があればまずは代表者に陳情させます。領主代理は鎮めろと命令すればよろしい」
「不満は代表者に募るか。まあ、よくある手だな」
「よくある手だから効果があるってことです。まあ、ドワーフには生きていける仕事、移動できる自由、心配しないで眠れる家、そして、美味い酒を用意したら不満は溜まりませんよ」
「仕事? なにをさせる気だ?」
「紙を作ってもらいます。名簿や資料を紙に写して残しておきたいんですよ。オレが出したものは十五日触らないと消えてしまいますからね」
十五日に一回触らなくちゃならないのは手間だし、忘れたら消えてしまう。重要な書類とか請負員の名簿とか毎回触らないが、消えたら困る。残しておくためにも紙は必要なんだよ。
「紙か。作るにはかなり手間だと聞くぞ。それに技法は秘密とされている。お前は知っているのか?」
「オレは知りませんが、紙を作る書物や道具は用意できます。まあ、ドワーフに与えてもすぐには作れませんが、仕事は与えられ、コラウスの特産とすればよろしいかと」
「作れるとなれば確かに美味い話だな」
「紙作りには水が必要です。原料となる木や植物も必要となります。ドワーフにはがんばってもらいましょう」
苦労を買って出てくれるのだ。生きる場所くらい与えたってバチは当たらないだろうよ。
「紙を管理する役職が一つできました。いや、部門ができたかな? 出世したい人には朗報でしょうよ」
部門ができることは出世の道が増えたってこと。自分の駒に与えるのもいいかもしれんな。
「……お前に男爵の地位を与えてわたしの下に置きたいよ……」
それもいいかなと思うが、それを許すダメ女神とも思えない。そんなことしている暇があればゴブリンを駆除しろと、また知らない土地に飛ばされたらたまったもんじゃない。
「是非、と言えない身なのが悲しいですよ」
「使徒とは難儀なものだな」
まったくですと、領主代理は苦笑いを見せた。
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