第543話 コール

 三日かけてモリスの民をラザニア村に運んだ。


 なかなかどうして過酷なものだった。ほんと、早く道をよくしてもらいたいよ……。


「ロイズ。請負員は明日冒険者ギルドにいく。冒険者として登録する。朝、八時に館の前に集合だ」


 散り散りになるモリスの民を捜すには冒険者になったほうが動きやすい。五人をコラウスの冒険者として登録させておこう。


「ゆっくり休めよ」

 

 オレも今日はゆっくり休ませてもらう。肩や腰、ケツが痛い。この世界での運転は過酷すぎるよ。


 風呂に入る前にビールを一缶空け、シャワーを浴びてからまた一缶空ける。今日は久しぶりに余市十二年をハイボールでいただくとしよう。


「飲みすぎじゃない?」


 いつの間にシエイラが横におり、ワインを飲んでいた。


「もう三日は飲んでないんだから許してくれよ」


 一仕事終えての酒。明日までゆっくりできるのだから思う存分飲ませてくれ。これが楽しみでがんばって生きてんだからさ。


「タカトさん。飲みすぎです。もう休んでください」


 と、ミリエルの声がして、気がついたらミリエルと雷牙が左右で寝ていた。は?


 なにがなんだかわからないが、ラダリオンとミリエルの部屋に入ったわけじゃなさそうだ。ミリエルも飲んだのか?


 たまに一緒に寝ているときがあるが、そのときは酒を飲んだとき。部屋に戻るのが面倒で一緒に寝たのだろう。それよりトイレだ。


 しがみつく雷牙を離し、ユニットバスに直行。湖を思い浮かべながらすっきり。ついでだとシャワーを浴びることにした。


「タカト?」


 シャワーを浴びていると雷牙が入ってきた。


「おはようさん。雷牙も浴びるか?」


「うん!」


 なにが嬉しいのかわからんが、急いで服を脱いで入ってきた。


「ほら、洗ってやるからまずはお湯を浴びろ」


 いつもはミサロかミリエルが入れてくれるようで、シリコンのブラシで洗っているそうだ。


 まあ、シリコンのブラシは女子風呂のほうなので、ボディーソープを手で泡立ててやった。


「気持ちいいか?」


「うん! ブラシ使わないから気持ちいい!」


 あの二人なら念入りに洗ってそうだな。男なんてほどよくでいいのによ。


 とは言え、雷牙は全身に毛が生えている。洗うとなるとかなりの作業になってしまうな。


 それでもざっと洗えば十五分くらいで終わる。ふー。よくやった。なんて達成感もそこまで。次は濡れた毛を乾かすためバスタオルでわしわしと拭いてやり、ドライヤーで乾かす作業が十分もかかってしまった。


 ……寝起きには辛い作業だな……。


「さっぱりしたか?」


「うん。さっぱり」


 それはよかったと頭を撫でてやり、ユニットバスを出た。


 さすがに四十分近く入っていたらミリエルやラダリオンの起きる時間となっており、髪を濡らした状態で豆乳を飲むミリエル。この子の趣味嗜好がなんか変わっているよな。


「おはよう。オレにも豆乳をくれ」


 雷牙を洗うのが大変で喉が乾いたよ。


 ミリエルが飲んでたコップでもらい一息。雷牙も飲むか?


「おれ、それ嫌い。牛乳がいい」


「ライガはこっちよね」


 と、ミサロが牛乳を持ってきた。


 なんだかママのようなミサロ。雷牙に母性でも目覚めたのか? まあ、雷牙を相手しているとわからないではないがよ。


 朝飯が終わればラダリオンはミロイド砦に。オレらは館に出た。


「なんだかみるみるうちに変わっていくな」


 館から出て見る光景が変わり過ぎて時代に取り残されたような気分になるよ。


「マスター、おはようございます」


 まだ七時四十分だってのにロイズたちがやってきた。


「おはよう。ゆっくり休めたか?」


「はい。酒も飲めて最高でした」


「それよかった」


 オレはいつの間にか眠ってしまってあまり飲めなかったけどな。


「タカト!」


 次はカインゼルさんがやってきた。なんだか急いだ感じで。


「おはようございます。どうかしましたか?」


「悪いが軽トラとPC01を使っていいか? リハルの町で使いたいのだ」


 あーそう言えば、なんかそんなこと言ってたっけ。そのために油圧ショベルを買ったんだっけな。すっかり忘れてたわ。

 

「わかりました。PC30はどうします? 急ぐなら街からまっすぐリハルの町に向かいますが」


「いや、まずはPC01を見せて慣れさせる。普通の人間は軽トラを見せただけで驚くものだ」


 まあ、確かにそうか。オレは便利さを優先させて周囲の視線などガン無視してたし。


「あと、見習いを十人ばかり連れていく。輸送部を使うな」


 あ、見習いがいたことも忘れていたよ。


「それは助かります。必要なものがあるなら用意しますよ」


「いや、見習いの稼ぎで買わせる。ギルドが出してばかりでは甘えるからな」


 そういうものか。オレも注意しないと。


「なら、金を持ってってください。ないよりはいいでしょう」


 プレートキャリアのポーチから金貨一枚と銀貨五枚を出して渡した。


「助かる。先立つものは必要だからな」


「魔石を取ったら個人の報酬として構いませんから。セフティーブレットは副業自由ですから」


 うちは基本、請負員の上前で運営しているようなもの。大規模ゴブリン駆除も基本は個人の自由にしてある。それ以外で儲けたものは個人の懐に入れてもギルドとしては関与しないよ。


 今回渡したのはカインゼルさんを雇っている報酬みたいなものだ。何回か渡してそれから払ってなかったしな。


「応援が必要ならすぐに呼んでください。ブランデットに緊急信号があります。それをコールするとオレに繋がりますから」


 カインゼルさんに渡したブランデットを操作してわかりやすい位置に固定した。


「イチゴも外に出して待機させておきます。迷わずコールしてください」


「わかった。なにかあれば迷わずコールするよ」


 PC01をホームから出し、軽トラダンプに載せるのは任せ、オレたちはパイオニア五号で街に向かった。

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