第489話 ミシ村(マナカ地区)

 ゴブリン駆除は順調に続けられ、午前中に五十三匹を駆除できた。


 ミダが三十二匹。シエイラが二十一匹。まずまずと言っていいだろう。


「よし。請負員カードの扱い方だ」


 まずは請負員カードを使って昼飯を買わせる。


 館なら食費無料にしてやるんだが、外では自分で飯を確保しなくてはいけない。どんなものが買えるかを教えて、働く原動力としてやろう。


 まず味の基礎(?)となるおにぎり、ハンバーガー、サンドイッチを買わせた。


 男勝りで剣を振るっているだけに味の濃いハンバーガーを選び、五つも食べてしまった。


「食事は肉、野菜、魚とバランスよく食べろよ。これからも活躍していきたいのならな」


 食べたら歯ブラシと歯磨き粉を買わして歯を磨かせた。


「戦士は歯が命だぞ」


 オレもシエイラも歯を磨いてみせた。


「シエイラ。悪いが、ミダに下着の買い方とつけ方を教えてやってくれ。ミダは覚えたら他のヤツに教えてやってくれ」


 さすがに職員に教えろと指示を出すのは酷だからな。


「わかりました。ミダ。こちらに」


 シエイラとミダが茂みに入り、二十分くらいして戻ってきた。


 そこでどうだ? とは訊かない。十五、六の少女に訊いたらセクハラ親父である。尋ねられない限り、こちらから訊いてはならぬのだよ。


 ミダは違和感にそわそわしているが、シエイラは大丈夫と頷いたので、午後のゴブリン駆除を開始する。


 ちなみにオレたちは、マルスの町の北西。ミシ村と言うところに向かっている。


「あそこがミシ村だよ」


 ミシ村(マナカ地区)は、マルスの町から歩いて一時間。距離にしたら五から六キロくらいだろうが、馬車が通れないほどの狭い道なので、歩くとなると結構大変な道だろうよ。


「意外と大きな村だな」


 前にいったムバンド村(ゴブリンの上位種、マーヌがいた村ね)も大きかったが、山の中なのに結構な数が住んでいるよな。魔物がよく出る地だって言うのによ。


 まあ、それは都会者の考え。そこでしか生きられない理由があるのだろう。オレだって地方民だったしな。進んで大都会にいきたいと思いもしなかったよ。


「ミシ村は蝋燭を作っている村だよ。よく見習いや駆け出しが運ぶ仕事をもらっているよ」


 へー。運ぶのは村の連中じゃないんだ。あ、だから道を整備しようとしないのか。世知辛い、のか?


 ミシ村も他の村同様木の柵で覆われており、門番だか見張りの男が一人、いや、柵の向こうに冒険者らしき集団がいるな。あれが運び人か?


「冒険者か?」


 槍を向けられなかったが、警戒しながら尋ねられた。


「いや、冒険者登録はしているが、ゴブリンを駆除して生きている。そんな集団がいるってウワサを聞いてないかい?」


「そのウワサなら聞いているよ。あんたがそうなのか?」


「はい。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターです。名はタカト。村長に会わせてもらえますか?」


「わかった。おい、誰か村長に伝えてきてくれ」


 運び人たる冒険者に言うと、一人が走っていった。


「三人でやっているのか?」


「いえ、今日は新人教育です。これは冒険者ギルドも承知しています」


 支部長が他に知らせてくれているだろうから事後承諾です。


 五分もしないで村長らしき男性が走ってやってきた。


「あ、あんたがゴブリン殺しか?」


「オレは自らゴブリン殺しと名乗っているわけじゃないんで、お答えしかねます」


 なんかダサくて嫌だな、ゴブリン殺しって。


「オレは、タカト。ゴブリン駆除ギルドのマスターです。しばらくこの周辺でゴブリン駆除をやろうと思うので、その挨拶にきました」


「そうか。まずは話を聞かせてくれ」


 と言うので村長宅へ。新人教育やらゴブリンの目撃情報なんかを話し合った。


 話のわかる村長──いや、ムバンド村とそう離れていないから、そちらから話を聞いていたんだろう。オレに協力するほうが得と判断したんだろうな。


「請負員に金を出せとは言いませんが、村を守りたいと言うなら請負員に休む場所くらいは提供してくださると助かります。ギルドとしても請負員を管理する義務があります。悪さをするようなら役人や兵士に報告しても村から排除しても構いません。こちらも悪さをする請負員は処分します」


 そのくらいしないと信用は得られないだろうよ。


「ただ、請負員も人です。不当に扱われるなら逃げ出すでしょうし、ギルドとしても気に入らない村にいくことはないと指示しています。それをお忘れなく」


 守るべき者は守る。処分すべき者は処分する。それがセフティーブレットの法であり、オレの責任だろうよ。ハァー。重くて仕方がないぜ……。


「わ、わかりました」


「そう萎縮しないでください。早い話、お互い、儲けていきましょうってことです。村はゴブリンが減って助かる。こちらはゴブリンを駆除して儲けられる。いい関係じゃないですか」


 一方的な搾取は悪手だ。歪みだ。皆で幸せになりましょう、が発展するとオレは思う。


「これからゴブリンを駆除しに若者がくるでしょう。どうかご協力のほどをお願い致します」


 にっこりと村長に向けて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る