第488話 ミダ

 シエイラにベッドを占拠されたので、仕方がないので床で寝た。


 酒が入っていたのですぐ眠りにつけ、朝も懐中時計の目覚ましで起きられた。あー体いてー。


「……いい気なものだ……」


 子供のように丸まって眠るシエイラ。相変わらず寝顔は幼くなるよな。


 二十八の女が幼く見えるのもおかしなものだが、きっとこれがシエイラの本性ってことなんだろうな。まぁ、適当に言っているけど!


 部屋に備えつけの桶に魔法で水を注ぎ、ヒートソードで温める。


 タオルを横に置き、シエイラを揺すって起こした。


「お湯を用意したから顔と体を洗っておけ。オレはホームにいってくるから」


「……なにもしないんですね……」


 いや、充分すぎるほどやってあげているよね? オレに体を拭けってのか?


「ったく。甘えん坊か」


 仕方がないのでタオルをお湯につけ、固く絞ってシエイラの顔を拭いてやった。


「ほら、綺麗になった。歯はしっかり磨いておけよ」


「母親ですか!」


「せめてお兄ちゃんと言ってくれ」


 まあ、見た目ならシエイラのほうが姉っぽいがな。つーか、妹いないから妹がどんなもんか知らんわ。


 ホームに入ってシャワーを浴びて戻ってきたらシエイラはいなくなっていた。


 部屋は掃除してくれると言うのでそのままにして食堂に向かった。


 時刻は六時半前。食堂には少年少女たち、青年たち、職員たちが揃っていた。早いこと。


 皆からの挨拶を返し、空いている席に座った。


 すぐに宿の者が食事を運んできてくれ、感謝していただいた。


 そう言えば、この世界の料理をまともに食うの、これが初めてじゃないか? まあ、屋台の料理もまともに食ったと言えばそうなんだが、一食として食べるのはこれが初めてだろうよ。


「おじさん、おはようございます」


「ああ、おはよう。寝坊しなかったか?」


「はい! ちゃんと起きれました」


 朝から元気なことだ。オレにも元気をわけてくれ! だよ。


 まあまあの朝食をいただいていると、シエイラがやってきて同じテーブルに。昨日のことなどなかったような挨拶をされた。


「おはようさん。七時半に宿の前に集合な」


 オレも昨日のことなどなかったように返す。


「わかりました」


 朝食をいただいたら先に宿の前に向かい、ホームからパイオニア一号を出した。


 ベネリM4と鳥撃ち用の弾を取り寄せる。


 職員にはスコーピオンを持たせているが、茂みに隠れているゴブリンにはショットガンのほうがいい。オレも一応、ショットガン装備にする。


 皆も外にやってきたので、職員主導で皆に準備運動をさせた。


 オレも準備運動をして体が温まり、職員を集めてミーティングを開始する。


 職員はコラウスに長く住んでおり、職員として各町の支部にもいっているそうだ。マルスの町にもきたことがあり、土地勘もある。スケッチブックに周辺の地図を描き、担当場所を決めて少年少女をつけさせた。


 青年たちはチームとして完成しているので先にいかせる。


「では、マスター。いってきます」


「ああ。無理しないていどにがんばってこい」


 職員と少年少女たちを見送り、全員が出発したらオレたちも出発した。


 オレのチームは、シエイラと剣が得意と言う少女、ミダだ。


「ミダは槍を使えるか?」


「得意ではないけど、槍で猪は倒したことあるよ」


 ミダの身長はオレくらいあり、この世界の少女としては体格もしっかりしている。男だったらよかったのにな、ってタイプだ。


「冒険者以外の仕事はないものなのか?」


「ないね。特にあたしは、こんな男勝りの体と性格だからね、嫁にもらってくれる男もいないよ」


 世界が違えど男勝りの女を好む男は少ないだろう。いたとしても出会えるとも限らない。どちらにしも生きていくには冒険者になるしかなかったってことなんだろうな。


「まあ、結婚することが幸せとは限らん。冒険者として成功して自分の幸せを求めたらいいさ」


 すべての人間が結婚できるわけでもない。できないのなら別の道を求めるしかないだろうよ。


「よし。オレらの幸せのためにゴブリン駆除をするぞ」


 茂みに向けてウォータージェットを薙ぎ払った。


「ゴブリン二匹だ。ミダ。止めを刺せ」


 報酬は殺した者に入る。いくら手足を斬り落とそうと、最後に殺した者が総取りなのだ。


「わ、わかった!」


 茂みに飛び込み、ゴブリン二匹を殺した。


 オレも茂みに入り、死んだゴブリンから血を吸い出して遠くに捨てた。片付けてくれる者がいないんでな。


「ミダ。請負員カードを見てみろ。報酬が入っているから。シエイラ。あそこに向けて二発撃て」


「わかりました」


 レーザーポイントで指したところに鳥撃ち用の弾を二発。ゴブリンの気配が消えた。


「町の側ってのに結構いるものだ」


 銃声に驚くゴブリンだが、学習能力がないゴブリンのようで逃げることは選択せず、隠れることを選んでいる。


 シエイラが倒したゴブリンからも血を吸い出して遠くへポイ。今回オレはサポート要員。ミダたちにゴブリン駆除は儲かる。稼げば稼ぐほど生活が豊かになることを教え込む。それが今回の目的だ。


「さあ、次にいくぞ。昼まで最低三十匹は駆除するぞ」

 

 最低十万円。いけるなら二十万円は稼がせたい。下準備はなにかと金がかかるからな。

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