第333話 帰還

 解体が終わりマイゼイさんたちと別れた。


 暗くなるまであと三時間。山黒とゴブリンの死体から離れるべくアシッカへ続く道を進んだ。


「雪が積もってきたな。よし。ここで野営しよう」


 ヒートソードを二本、二百度にして地面に突き刺した。これで朝までは持つだろう。


 枯れ枝を集めたら釣糸で周辺に張り巡らせ、ラダリオンに今日の夕飯を運んでもらった。今日はミートボールのトマト煮か。ミートがなんなのかわからんけど。


「──きょ、巨人!?」


 鍋を持ったまま元のサイズに戻ったラダリオンに驚くヨシュアたち。あ、ラダリオンが巨人だってこと教えてなかったわ。


 かくかくしかじかとヨシュアたちに説明して納得してもらった。


「まあ、とりあえず食事にしよう。量はあるからたらふく食え。あと、ワインも出すから飲むといい」


 雪があるところまでくれば警戒するのは山黒くらいだろう。なら、オレとラダリオンが交代で見張れば問題あるまいて。


 食事が終われば請負員カードの使い方を教え、靴下とタクティカルブーツを買わせた。さすがにサンダル(と言っていいかわからんけど)では山脈を越えるのは辛い。靴下とタクティカルブーツだけは先に買わせたのだ。


「これからが本番だ。しっかり寝ろよ」


「タカト様が休んでください。見張りならおれたちがしますので」


「様はいらない。マスターでいいよ」


 どうも様呼びは背中が痒くなる。なら、マスターと呼ばれるほうがマシだ。


「では、マスター。見張りはおれたちがやります」


「山脈を越えたらヨシュアたちに任せるよ。今は山脈を越えるための体力をつけろ。お前たちはオレが生き残れるための戦力。こんなところで無理して死んでもらっては困るんだ。いいから寝ろ」


 納得できないようなので、命令して眠らせた。


 オレらも交代で朝を迎え、本格的な山脈越えを実行する。


 アシッカとミヤマランの道はある。伯爵もこの道を馬に跨がってミヤマランに向かったと言う。


 往来はあったし、迷わないよう杭が打たれているそうで、雪を溶かしていけば迷うことはなく、険しくもない。ましてやこちらは数がいてヒートソードが四本もある。二千度のまま進んでも歩みを止めることはなし。暗くなる前までは森林限界点までやってこれた。


 ちょっと吹雪いてきたが、ヒートソードを四ヶ所に刺し、ビニールシートを張ればそこそこ快適だ。山黒の肉に味塩こしょうをかけてゆっくりじっくり焼けば最高に美味い……ってわけでもないが、まあ、そう悪くはないかな? くらいで、ヨシュアたちは大満足だった。


 夜はヨシュアに任せ、オレらはホームで休ませてもらう。ここまできたら逃げるのも困難だろうからな。


 二日振りにハイボールを飲み、ミサロの手料理をいただき、体を包んでくれるマットレスで眠る。あぁ、なんて贅沢。なんて幸せ。生きていてよかったと思わせてくれるぜ。


 疲れもふっ飛んでくれ、今日の山脈越えに挑んだ。


 ヨシュアたちもよく食べよく眠ったようで、進みはいい。難なく山脈を越え、手頃なところで野営することにした。


 あと少しということで、穴を掘り、ビニールシートを敷いて水を溜め、ヒートソードで沸かして風呂に入れてやった。


 冬だからそんなに臭くなかったが、なかなか垢が凄いことになっている。見ていて汚いので、アシッカにいく前に綺麗にさせておこう。


 ヒートソードを三百度にすれば湯冷めすることもない。湯上がりにはビールを飲ませてやる。贅沢を覚えてゴブリン駆除に勤しむとよい。


 今日はオレらが見張りに立ち、ヨシュアたちには朝まで眠らせた。


 しかしなんだろう? こちらのヤツは食生活がよくなると僅か数日で見違えるのは? 子供だからと思ってたが、三十の男まで見違えている。なんか体が一回り大きくなってね? 異世界だからか?


 歩く速度も速くなり、半日でミラジナ男爵領(村)に到着できた。てか、ついていくのが大変だったよ! 二段階アップしたオレより体力ありすぎ!


 ミラジナ男爵にお目通りを願い出て、食料と交換に村の中に入れてもらい、広場を借りた。


「ヨシュア。村の周りの雪を溶かしてくれ」


 山脈から吹いてくるのかこの辺は雪が多い。また降るかもしれないが、一度溶かしておけば解けるのも早いだろうよ。


 それに、役に立つとなればヨシュアたちを受け入られるはず。まあ、そのくらいで信頼は得られないだろうが、信頼は積み重ね。小さいことからコツコツと、だ。


 粗方雪を溶かしたらアシッカまでの道に積もった雪を溶かしていった。


 アシッカまでは二十キロ弱。交代でやれば半日もかからずアシッカまで溶かせた。


 約十日。予定の倍はかかってしまったが、目的は果たせた。食料も一月は間に合うだろう。


 ヨシュアたちはとりあえず巨人区の横で生活してもらい、ゴルグたちと一緒に泥レンガを作ったり水路を作ってもらったりする。


「ラダリオン。ゴルグたちの食料を出してくれ」


 ラダリオンに頼んでおいてギルド支部に。シエイラたちにミヤマランのことを軽く説明。ヨシュアたちの登録と世話をする者の手配を頼んだ。


 一旦ホームに戻ってシャワーを浴び、伯爵のところにいく用意をする。


 食料はこまめに出しているようで、玄関やガレージの食料が減っている。


「ちょっと減りが早いか?」


「他の領地から毎日のようにきてるみたいだからね、買いつけていってるんじゃない?」


「またきてるのか」


 ミリエルから男爵が毎日のようにきてるとは聞いてたが、買いつけまでしてたのか。そりゃ減るのも早いわな。


「今度は職員の誰かを買いつけにいかせるか」


 金貨はまだあるし、山黒の魔石もある。ダインさんもいるから馬や家畜を買って荷物を積ませればそこそこ運んでこれるだろうよ。


「まあ、それは伯爵に報告してからだな。じゃあ、いってくるよ」


「うん。いってらっしゃい」


 ミサロに見送られて外に出た。

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