第332話 深紫(こきむらさき)

 ──二万四千匹突破おめでとー! 北西より山黒が駆けてきてるから注意してね~!


 はぁ? 山黒? 北西? 数は? 距離は? 教えるならちゃんと教えろや!


 急いでコンパスを取り出して急いで北西を調べ、VHS−2を背中に回したらリンクスを取り寄せた。


「ヨシュア! 山黒が襲ってくる! 全員をオレの背後に移動させろ! ラダリオン! お前から見て右だ!」


 ラダリオンとは付き合いが長いので、そう離れてなければ気配だけでどちらを向いているかまでわかるのだ。


「ヨシュア、そこから動くなよ!」


 木の陰に隠れたら北西に向かって走った。


 ラダリオンの気配が大きく膨れ上がったことからして元のサイズに戻ったのだろう。それなら近づくのは危険だ。ラダリオンが今持っているのはベネリM4。散弾だ。まさに弾雨の中に突っ込むとか死ぬだけである。


 走るのを止めて木の陰に隠れた。


 ここで倒した山黒と同サイズなら足音なり聞こえるはずだが、まるで静かだ。ピリピリした空気も感じない。忍び寄っているのか?


 と、銃声が轟いた。


「こんなに近寄られてんのかよ?!」


 全弾撃ち尽くしたんだろう、銃声が止んだらラダリオンが走った。


 なにするんだ? と思ってたら思い切り蹴り上げた。


 一瞬の間が空き、ドシーン! と大地が揺れた。


「……凄まじいな……」


 ラダリオン、小さくなっても百キロくらいなら余裕で蹴り上げられる。


 一体どんな骨密度してんだか想像もつかんが、山黒って軽く象くらいはある。五トンくらいある山黒を蹴り上げるとかメチャクチャだな! もしかして力の属性を持っているのか?


 グロックを抜いたようで、連続で撃ち続け、ちょっと間が空いてまた撃ち続けた。


 さすが山黒。巨人から撃たれる弾丸にこれまで耐えられるとか、ほんと、化け物である。いや、化け物を倒せる化け物になれるオレが言っても説得力はないけどさ……。


「タカト! 倒したよ!」


 巨人に銃とかほんと反則だよな。リンクス持たせたら本気で竜を撃ち落とせそうだ。


 ため息を吐いてから木の陰から出てラダリオンのところに向かった。


「ご苦労さんな」


 巨人から小さくなっており、ベネリM4に弾を込めているラダリオンに労いの言葉をかけた。


「うん。大したことなかった」


 なんだかもうサイズ感が狂って何メートルかもわからんが、大したことあるサイズなのは間違いない。が、巨人にしたら猪を狩る感覚なんだろうよ。


 チートタイムをスタートさせて山黒から血を抜いた。復活されても困るからな。


「ホームに運ぶか?」


 いや、まだ食料が詰まっているか。もったいないが、魔石だけ取り出して肉は捨てるとしよう。


 もう一度ラダリオンに元に戻ってもらい、腹を裂いて魔石を取り出した。


「なかなか色が濃いな」


 プリンスメロンくらいあり、紫ってよりもう黒に近い。どんだけ生きた山黒なんだ? この辺の主か?


 ウエスで魔石を拭き、ラダリオンが背負っているディーバッグにいれた。


「肉、ヨシュアたちに持たせるか?」


 気温も一度か二度だ。腐ることはないし、持てるだけ持たせたほうがいいかな? なんて考えてたら人の声が。なんだ?


「あんたが倒したのか!?」


 冒険者だろう五人の男たちが現れるなり詰問してきた。


「ああ、そうだ。オレはタカト。銀印の冒険者だ。そちらはどちら様で?」


 冷静に答え、そちらが何者かを尋ねた。


「あ、銀印のマイゼイだ。ギルドの依頼で山黒の探索をしている」


「さっき、探索をしている人がきましたが、同僚で?」


「それはおそらくヤイダの隊だな。山黒はこの一匹だけだったか?」


「他にいるかわかりませんが、オレらが倒したのはこの一体です。ただ、番かもしれないので子がいるかもしれませんね」


 最初に倒したのがオスかメスかは知らないが、今倒したのはオスだ。オス同士で群れを築くとは思えないから最初に倒したのはメスだろう。なら、番と見ていいだろう。


「こいつの魔石は紫を通り越して黒に近かった。恐らく長いこと生きた個体でしょう。それなら子がいても不思議じゃないでしょうね」


 もしかすると最初に倒したのはこいつの子ってこともあるか? アレもアレで大きかったし、仮に子だったら産んだ個体もかなり年齢を重ねているはず。いや、もしかしたらハーレムを築いていることもあるか?


「……まさか、山黒が牙城を築いている、とか……?」


 どこぞの流れ星な犬でもあるまいし、さすがにそんなことはないか。オレの下らない妄想だな。


「そ、それは本当か!?」


「オレの勝手な妄想ですよ。まあ、最悪を想定して動くべきです。山黒は災害指定の魔物ですからね」


 オレらは協力できないのだから安全第一でがんばってください。


「そう、だな。山黒に滅ぼされた町は結構ある。油断なく対処しよう」


「そうしてください。あ、オレらでは山黒の死体を片付けられないので、欲しいなら好きなだけ持ってってください」


 象サイズの山黒を解体するだけで一苦労だ。欲しいなら遠慮なくどうぞ、だ。


「それは感謝する。だが、倒したのはそちらだ。ギルドに報告すれば報酬が支払われるぞ」


「その余裕がないので諦めます。ギルドマスターにはいいように処理してくださいと伝えてください」


 今は金より時間だ。これ以上、時間を取られたくない。


 ヨシュアたちも呼び、マイゼイさんたちと一緒に山黒の解体を始めた。

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