第331話 数は力

 何事もなく朝を迎えられた。


 また見張りを第一、第二隊に任せたら軽く食事をさせて眠らせた。


「第三、第四隊。点呼だ」


 ちなみに第三、第四隊の隊長は、ダイルとナザック。ダットとモラウと同じく正規兵だったそうだ。


「第三隊、点呼確認。全員います」


「第四隊、点呼確認。全員います」


 それが軍隊の点呼なのか? まあ、逃げた者はなしか。一人か二人は逃げると思ったんだがな。ちゃんと理解できる者ばかりでなによりだ。


「第三隊は見張りを。第四隊はゴブリン駆除請負員とする」


 カードは出しておいたので、第四隊に配り、名前を名乗らせて請負員とした。


 請負員のことを説明し、終われば食事をさせて第三隊と交代。請負員とした。


 昼になり第一、第二隊と交代して請負員に。なんだかんだで一日かかっちゃったよ。


「ハァー。アシッカに帰るの、いつになることやら」


 まあ、まだ洞窟探索をしており、ゴブリンの姿はちらほらとしか出てないとか。オレが帰るまで何事もありませんように。


「タカト。誰かくる」


「ヨシュア。奴隷紋が消えた者は野営地の中心に集めろ。まだ奴隷紋が消えたことは知られたくない」


「はっ。奴隷紋が消えたものは首を隠せ。ダットの隊で奴隷紋を見せるように囲め」


 優秀なヨシュアの命令の下、素早く行動し、斥候らしき男が一人、両手を挙げて近づいてきた。


「冒険者ギルドから依頼されて動いている。こちらに戦闘の意思はない。そちらは何者か聞きたい」


「オレはタカト。銀印の冒険者だ。奴隷を連れてアシッカに向かっている途中だ。山黒の情報を与えた者でもある。こちらも戦闘の意思はないとそちらの代表に伝えて欲しい」


 銀符を出して敵意がないことを示した。


「確認した。まだここにいるのか?」


「明日まではいる。それと、この周辺のゴブリンを駆除する。騒がしくなるので近づかないことを願う。巻き込まれても責任は取れないとも伝えてくれ」


「了解した。そう伝えよう」


 斥候らしき男が手を挙げたまま下がり、充分離れたら森の中に消えていった。

 

「念のため、全員の首を隠すようにしておくか。覗かれる恐れもあるからな。ラダリオン。ミサロに首筋まで隠れる目出し帽を七十人分買ってくれと伝えてくれ」


 そうラダリオンにお願いし、目出し帽を買ってきてもらった。


「これからゴブリンを集めてお前たちに殺してもらう。おそらく五百匹以上は集まると思うが、殺せば殺すほどお前たちに報酬が入り、美味いもの、暖かい服、丈夫な靴が買える。これからの人生をよきものにしたいなら殺しまくれ」


 手足を欠損していた者は槍を持たされなかったので、予備のマチェットと斧を貸し出してやった。


「ゴブリンは集まりすぎると独特の臭いを発し、やがて狂乱化する。個人や隊で駆除するなら集めないようにしろ。逆に数が揃っているなら肉をばら撒いて引き寄せるのが手っ取り早い」


 そう言って処理肉を取り寄せ、焚き火に放り込んでやった。


「木に登り、集まるまで待機だ」


 ラダリオンには少し離れてホームに入ってもらう。オレらは見守り役に徹するからな。


 他の焚き火にも処理肉を放り込み、周辺にもばら撒いてから木に登った。


「そろそろ集まってくる! オレが合図したらゴブリンに襲いかかれ!」


 冬で飢えているようで、五分もしないで焼けた肉の匂いを嗅ぎ取り、全方位から集まってきている。こりゃ、五百どころか七百、いや、千は集まりそうな勢いっぽい。


 この数でもダメ女神はマイセンズにいくことを勧めた。三千匹以上いたアシッカでもなく、だ。もうそれだけでマイセンズ、いや、洞窟の奥に凄まじい数のゴブリンがいると言っているようなものだわ。


 ……考えただけで胃が痛くなってくるぜ……。


 今度からは胃薬を常備しようと考えていたら先陣が現れた。


 それから続々と集まり出し、狂乱化になる前の臭いがしてきた。


 いつ嗅いでも不愉快極まりない臭いだよ。


 完全に狂乱化となったら手榴弾を取り寄せ、ピンを抜いて放り投げてやる。


 当たりどころがよかったのか、手榴弾一発で六匹も駆除できた。


「さあ、殺しまくれ!」


 オレの合図に全員が木から降り、ゴブリンどもを殺し始めた。


 全員が全員兵士ではないが、誰もが恐れることなくゴブリンを突き刺し、斬り捨て、頭をかち割っている。


 数は力と言うが、まさしく数の暴力。いや、数で言うならゴブリンのほうが多いのだが、ヨシュアたちは連携して殺している。


 腹一杯食い、しっかり休んだお陰でヨシュアたちの勢いは止まらない。三十分で二百匹近い数のゴブリンを殺し、一時間で四百匹は完全に殺した。


 まあ、さすがに一時間も戦い続けたら勢いは衰えてきたが、それでもヨシュアたちは止まらない。逆にヨシュアたちが狂乱化したみたいだぜ……。


 一時間三十分を過ぎるとヨシュアたちが広範囲にバラけてしまった。深追いしないように注意しなくちゃいかんな。


 木から降りて笛を吹いて虐殺を止めさせた。


「止めー! 戦闘を止めろ! 下がれ!」


 ヨシュアの号令に隊長たちも戦闘を中止させ、オレのところへ集まってきた。


「逃げたのは追わなくていい。少し休んだら生き残りに止めを刺せ。一匹たりとも取り逃すな」


 水を取り寄せて皆に飲ませた。


「終わったら美味い酒を飲ましてやる。最後まで気を抜くなよ」


 ざっと七百匹は駆除でき、ダメ女神のパンパカパーンが鳴り響いた。

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