第330話 ヨシュア

 さすがに七十人も引き連れて都を歩くと人目を集めるな~。


 別に行商奴隷団として歩いているはずなのに、なぜ人目を集める? いや、武装してたら目立つか。荷物も布袋を担いでいるだけだしな。


 都を出て山の麓まで黙々と歩く。


 手足を欠損した者もいるので進みは遅いが、暗くなる前までは山の入口付近まではやってこれた。


「ここでキャンプ──いや、野営する。準備をしろ」


 どうするかと見ていると、一人の男が指示を出し、四人が頷き、欠損した者には休ませて元気な者を纏めて野営の準備を始めた。ちゃんと命令系統があるのか?


「ラダリオン。今のうちにホームにいってこい」


「わかった」


 ラダリオンがホームにいっている間に欠損した者らに回復薬を一粒ずつ飲ませた。


 奴隷たちは薬だと聞いて驚いたが、飲めと命令して飲ませた。


 昨日の夜、三回ガチャが引けるので、回復薬が出るかなと試してみたら回復薬大が出た。


 残りはヒートソードという「マジか!」なダブりだったが、山脈を越えるなら当たり、と思っておこう。


「……か、体が熱い……」


 回復薬大なだけあって効果は凄まじい。欠損した手足が回復──てか、生えてきたよ。メッチャグロっ!


 うーむ。回復薬大だから、効果は凄いだろうとは思ってたが、まさかここまでとは思わなかった。これじゃ計画がおじゃんだよ。


 この奴隷らはモリスの民だ。ミリエルと同胞ならミリエルに手足を治させてミリエルに恩と忠誠を持たせる計画を考えていた。


 アシッカの復興に使うために買ったのは事実だが、将来のためにモリス派を作っておこうと思ったのだ。


 モリスの民なら同じモリスの民であるミリエルが纏めるのが適任だ。回復魔法という聖女にぴったりな能力もある。助けられた恩からミリエルに忠誠を持つようにしたかったのに、回復薬大でおじゃんだわ。


 まったく、上手くいきすぎて計画が失敗とか笑うに笑えんよ。


「……こ、これはいったい……?」


 次の計画をどうしようと考えていたら、真っ先に指示を出した男が横にやってきていた。イカンイカン。考えに集中してたわ。


「薬を飲ませて回復させた。手足がなくては山脈を越えるのも大変だからな」


 回復薬大が出なければ時間をかけて山脈を越える計画だった。ヒートソード二本もあれば凍えることもないからな。


 ……四本になったら周辺を春にしてしまいそうだな……。


「あなたはいったい?」


「言った通り、ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターだよ。それ以上でもそれ以下でもないさ」


 完全に回復したことに喜ぶ奴隷たち。一通り喜ばせ、気になっていたことを確かめる。


「……消えたか。さすが回復薬大。奴隷紋を怪我と判断したか……」


 もしかしてとは思っていたが、本当に消すとは凄いとしか出てこない。中までは公表したが、大は黙っていたほうがいいな。 


「まあ、聞きたいこともいろいろあるだろうが、暗くなる前に周辺を固めるぞ」


 釣糸を渡し、周辺を囲むように張り巡らせた、LEDランタンを設置する。


「お前、名前は?」


 指示を出していた男に尋ねる。


「ヨシュアです」


「よし。なら、ヨシュアをこの団の団長とする。先ほどの四人を隊長にして四つの隊を作れ。第一、第二隊は周辺の見張り、第三、第四隊は食事をしたら寝ろ」


 タイミングよくラダリオンがホームから鍋を抱えてきた。


「しっかり食え。お前たちにはたくさん働いてもらうからな」


 巨人パンも持ってきてもらい、第三、第四隊に食わせた。


「ヨシュアも食え。夜の指揮は任せるから」


「……わかりました。従います」


「第一、第二隊は手持ちの食料で腹を満たせ。交代したらたらふく食わせてやるから」


 三十人は奴隷紋が消えてしまったが、まだ自由になった感覚が生まれてないのだろう。オレの命令に素直に従っていた。


 第三、第四隊が食事をするのを見守り、眠りについたらラダリオンと交代してホームに入った。


 シャワーを浴び、食事をしたら少し仮眠する。


 ミサロに起こされたら十八時になっており、一時間ちょっとは眠ることができた。


 アシッカ水を一杯飲んだら装備をVHS−2にして外へ。ラダリオンと交代する。


 第三、第四隊は眠っており、オレも見張りに立った。


「第一、第二隊の隊長は誰だ?」


 まずは隊長の名前だけは覚えておこう。


「第一隊隊長のダットです」


「第二隊隊長のモラウです」


 どちらも三十歳くらいで、体格もいい。なにより目に力があり、奴隷という立場に屈していなかった。


「夜は冷える。これを服の中に入れておけ」


 使い捨てカイロを渡し、使い方を教えて服の中に貼らせた。


「他の者にも渡して使い方を教えろ」


 使い捨てカイロの箱を取り寄せて第一、第二隊の面々に渡すように命令する。


 二十二時になったら見張りを交代。第一、第二隊に温かいものを食わせた。


「ヨシュア。逃がしたいのなら別に逃がしても構わない。だが、感情のままに逃がすのは止めておけ。モリスの民を救いたいと思うならな」


 別に同情から言っているわけじゃない。利用するために言っている。


「これからアシッカにいき、お前たちに戸籍を与え、ゴブリン駆除ギルドと冒険者ギルドに登録させる。奴隷紋も消す。充分な力を得たら大手を振ってこの国を歩けばいい」


 モリスの民と言わなければバレることもないはずだ。訛りとかあったらバレるかもしれんけどさ。


「オレは、アシッカ伯爵とは懇意であり、多少の無理なら聞いてもらえる立場にいる。お前たちに戸籍を与えるほどにな。そこを拠点とするもよし。冒険者となって旅立つもよし。金を稼いで同胞を助けるもよし。まあ、まずはお前たちを買った分の働きはしてもらうがな」


 オレが察知できる範囲内にゴブリンの気配がかなりある。


 これだけの人数がいても五百匹も集めたらそれなりの報酬は得られる。しっかり働いてもらいます。


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人物帳とか設定だったり番外編だったりのほうに「徴税少女A」を投稿しました。読んでみてください。

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