第97話 一旦帰宅

 シュポン! と催涙弾が飛んでいく。


 山なりになって五十メートル先に着弾。パンと弾けて煙が出た。


「なんかショボいな」


 でも、そこにいたゴブリン数匹がもがき苦しみ阿鼻叫喚。死ぬより酷いことになっていた。


 効くことは効いたので次々と催涙弾を撃っていく。


 十発を放ったら場所を移動。また十発撃ったら移動を繰り返し、すべてを撃ち尽くした。


「うっ。こっちに流れてきた」


 防毒マスク越しにもわかる刺激臭。こんなのをまともに吸ったら地獄だろうな。完全に非人道兵器だろう、これ。


 まあ、相手はゴブリンなので微塵にも酷いとは思わないが、使いどころを選ぶ兵器だな。


 少し登り、背中に差してるマチェットを抜いて、ぐったりするゴブリンの喉に突き刺していった。


 ただ刺していくだけだが、これはこれで重労働だな。これなら槍を使ったほうが楽だぜ。


 三十匹もやると面倒になってきた。グロックを抜きたくなるが、ラダリオンの手前オレが先にやるのは示しがつかない。頼む、ラダリオン。先に根を上げてくれ! 


 なんて願いが通じたのか、「タカト、疲れたー!」と言ってきてくれた。ナイスだ、ラダリオン! オレは信じてたぞ。


「SCARで撃っていいぞ~!」


 オレもVHS−2でやるから~。と心の中で返し、止めを刺してたらまだあのアナウンスが流れた。


 ──ピローン! 七千匹突破おめでとー! クジ計二回引けるよ~!


 だからそんな報告いらねーんだよ! ダブレットのほうに連絡入れとけや! クソが!


「ラダリオン! 休憩しよう!」


 ダメ女神のせいで気が抜けた。補給を兼ねて休憩しよう。


 セフティーホームに戻り、マガジンの補給と催涙弾の買い足し、二十分くらい休憩したら外に出た。


「ゴブリン、逃げたな」


 残ってるのは催涙弾で阿鼻叫喚になってる数百匹だけ。さて。どうやって片付けようか……。


 三百匹はいないだろうが、これを一匹一匹止めを刺すとなると気が重くなるな。


「ラダリオン。とりあえず催涙弾の練習をしよう」


 たくさん撃てば呼吸困難になって死ぬだろう。


 買った分の催涙弾を撃ち尽くす頃には昼になり、呼吸困難で死ぬゴブリンも出てきた。


 無線機のスイッチを入れ、カインゼルさんに通信してみる。いるかな?


「──こちら02。終わったのか?」


 すぐ出てくれた。ずっと待っててくれたのかな?


「もう少しかかります。昼を食べてゆっくり休んでからこちらにきてください。あ、防毒マスクを忘れずにしてきてくださいね」


「了解した」


 もうゴブリンは集まってくることもないし、合流してもいいだろう。


 オレらもセフティーホームに戻り装備を外して昼にした。


 ラダリオンに食べすぎないよう注意し、オレも腹八分目に抑えておく。でも、ビール一缶は許しておくれ。カァー! 美味い!


 一時間半くらい休んだら装備をベネリM4に換えた。ラダリオンに元に戻ってもらって止めを刺してもらおう。


 外に出ると報酬金がいっきに入ってくる。催涙弾は非人道兵器に認定だな。ゴブリンは人ではないので除外されるがな。


 生き残っているゴブリンに止めを刺していると、カインゼルさんがやってきた。


「凄い数を殺したな」


「資金があればもっと殺せたんですけどね」


 我に潤沢な予算と時間、そして、人手を与えたまえ、だ。


「きて早々申し訳ありませんが、生き残りの止めを刺してください。数が多くて終わりそうにないんですよ」


 三百匹もいないかと思ったら、阿鼻叫喚に騒ぐヤツらの下に意識を失っていたのがいたのだ。まさか意識を失うと気配が弱くなるとは想像もつかなかったよ。寝てるくらいなら気配は変わらないのにな。


 このまま死ぬかどうかもわからんので、念のために止めを刺していくしかなかったのだ。とは言え、ベネリM4の反動に手首が痛くなってきた。


「ガソリン撒いて燃やしたくなるな」


 きっと凄まじいことになりそうだからしないけどさ。


 夕方になってやっと気配がなくなってくれた。あーもー引き金引きたくねー!


 アドレナリン全開のときはやれたけど、まったく出てないときに何百回と引き金を引かなくちゃならない辛さよ。精神がおかしくなりそうだ。


「暗くなりましたが、少し離れましょう」


 こんなところで野営をするのも気分が悪い。二、三キロ離れよう──と思って川上に向かったけど、まだゴブリンの死体が転がっていた。死体の多さに片付けが追いついてないようだ。


「ここからだとミスリムの町のほうが近いですかね?」 


「いや、夜は橋が通れなくなる。ラザニア村に戻ったほうがいいな」


 確かに橋が柵で通れなくなり、管理者は橋の向こうにいるそうだ。


 まあ、道まで出ればラザニア村まで三十分もかからない。そう遠くないんだからラザニア村へと帰ることにした。


「……なかなか立派な家ができてますね……」


 まだ二日なのに石組みの家ができていた。


 中を見れば十二畳くらいの広さがあり、釜戸と暖炉、ベッドがあった。


「なんだか申し訳ないな。礼に酒でも渡しておくか」


「それはこちらで用意しておきますよ。それより住みやすくしますか」


 ガス、水道、電気もなく、布団もない。せめてゆっくり眠れるくらいにしておこう。


「いや、小屋から持ってくれば充分さ。あとは自分で揃えるよ。昨日暇だったんで請負カードを見て欲しいのがたくさんあってな、さっそく買ってみたいのさ」


 まあ、カインゼルさんがそう言うならお任せするか。


「では、明日はゆっくり起きてください。昼前に出発しましょう」


「ああ。わかった」


 うちへ向かい、それぞれセフティーホームに帰った。

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