第96話 催涙弾

 二酸化炭素が見えるわけでもないので山の下に流れてるかはわからないが、失敗なら失敗で次に活かせばいいだけ。手はまだあるから問題はない。


 でも、成功してくれるならよし。いや、成功してくださいと願うばかりです。


 頂上の平らなところに単管パイプを組み、シートをかけて簡易テントを築いた。


 地面にマットを敷き、銃や荷物が濡れないようSフックにかけておく。


「ラダリオン。お前は寝てていいぞ」


「あたしもここにいる」


 簡易テントに入ったらラダリオンも入ってきた。狭いんだからセフティーホームに戻りなさいよ。


 引く気がないようなので諦め、二人肩を合わせて簡易テントに収まった。


 夏とは言え夜は涼しいので、コンロとヤカンを出して湯を沸かし、コーヒーを淹れて飲む。ラダリオンはココアを飲む。


「ん? ゴブリンが死んだか?」


 報酬金額が動き出した。


 最初はゆっくりと上昇していったが、五分も過ぎると目で追えないくらい上昇していった。


 気配も次々と消えていっている。ちゃんとドライアイス戦法が上手くいってホッとした。


 時間が進むにつれてゴブリンの気配が消えて、報酬金額は増えていく。毎回こうだと嬉しいのだが、そうもいかないのが人生だ。驕り高ぶることなかれ、だ。


 二時間を過ぎると報酬金額が落ち着いてきた。


 七百三十万円くらいから一千百万円は超えた。単純計算で四百万円。八百匹は死んだってことか。やはりドライアイス三百キロでは全滅とはいかなかったか……。


「よし。ラダリオン。セフティーホームに帰るぞ」


「もういいの?」


「ああ。でもその前に処理肉を放り投げてくれ。まだ下のほうにゴブリンがいるからな。次の手でいくとする」


 処理肉二百キロを買い、巨人の力で放り投げてもらった。


 カインゼルさんに無線機のスイッチを入れておくよう伝え忘れたが、あの人ならと通信してみたら出てくれた。


「こちら02。どうやら無事のようだな」


「はい。00、01ともに無事です。02は問題ありませんか?」


「問題ない。酒を飲みながら待機している」


「では、朝まで休んでください。こちらも休みます」


「了解した。わしも休むよ。では」


 と、お互い通信を切り、セフティーホームへと帰った。


 オレも冷蔵庫からビールを取り出していっき飲み。カァー! 美味い! もう一杯!


 計三缶飲んで眠りについた。


 夜中、一度も目覚めることなく朝を迎え、まずは外の様子を窓から確認した。


 三百六十度見回すが、ゴブリンの姿はなし。頂上まで登ってきた様子もなかった。


 しばらく見て、問題がないと判断して朝飯の用意に取りかかった。


 今日どうなるかわからんのでホテルのビュッフェを買っておく。ラダリオン。食べすぎるなよ。


 シャワーを浴びてから朝飯をいただき、食休みしてから今日の準備を始めた。


「ラダリオン。今日はこれを使う。ちょっと威力を知りたいんでな」


「弾?」


 オレがつかむものに首を傾げた。


「まあ、そうなんだが、催涙弾を使う」


 このサイズでどこまでの効果があるかわからないが、使ってみないとわからないのだから使って確かめてみるしかないじゃない、だ。


「ただ、ラダリオンは鼻がいいから風下には立つなよ。あと、暑いだろうが顔面を覆うマスクをする。ダメなときはすぐにセフティーホームに戻れよ」


 防毒マスクも完全に防いでくれるわけじゃない。臭いは少なからず入るのだ。


「わかった」


「新しくグレネードランチャーつきのSCARを買った」


 取りつけるのも面倒だし、使い分けとして二丁持っておくのもいいだろう。オレもグレネードランチャーつきのVHS−2D(左手仕様)を買ったし。


 ラダリオンにはグレネードランチャーの弾が十二発入るベルトをつけてもらい、オレはたすき掛けのベルトをかけた。


 装備し終えたら外に出て試し撃ちをする。


 グレネードランチャーの操作は簡単だが、撃つと言うより飛ばすような弾なので、山なりに撃たないとならない。その照準器? みたいものはあるが、そう正確さは求めちゃいない。大体でいいのだから試し撃ちでなんとなくわかればいいさ。


 ゴブリンの気配は二百メートル半、ってくらいか。射程外だが、練習は大切。十万円くらいで四百万円は稼いだのだから些細な出費である。技術向上にはなにかと金がかかるのだからやったれ、だ。


 催涙弾を箱で買い、お互い三十発くらい試し撃つ。


「よし。一時間したら下りてみるか」


 すぐ下りたら酷い目に合いそうだし、一時間くらいなら催涙効果もなくなっているだろう。


 オレは簡易テントを片付け、ラダリオンにはマガジンに弾込めをやってもらい、一時間が過ぎたら山を下りた。


 催涙の効果が残ってないかを確認しながらゆっくりと下りると、ゴブリンの死体が現れてきた。


 山の中なら腐敗しようが構わないのだが、さすがにこれだけの死体を放置していいのだろうかと思えてくるな。


 死体を踏んで転げ落ちないようにさらに下ると、ぐったりするゴブリンが現れた。


「ラダリオン。マチェットで止めを刺してくれ。オレはもうちょっと下りてみる」


「わかった」


 ここは任せて五十メートルくらい下りてみると、ゴブリンが共食いをしていた。


 最初はしないと思ったが、最近になって共食いをしているところをよく見るようになった。数が多くなるとやり出すんだろうか?


 それで減ってくれたら最高なのに、種の保存のためにやるだけで絶滅はしてくれないのだから悲しくなるぜ。


「さて。催涙弾の力、見せてもらおうか」


 VHS−2を構え、グレネードランチャーの引き金を引いた。

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