第95話 ドライアイス戦法

 一キロほど下って山へ入った。


 ゴブリンは追ってはこないが、先ほどの山には続々と集まっている気配はする。共食いでもしてるのか?


 ラダリオンに元に戻ってもらい山の中腹まで進む。


「ラダリオン! 小さくなれ! カインゼルさん。ここに処理肉を撒いて呼び寄せますので準備が整うまで休んでてください。ラダリオン。戻るぞ」


 セフティーホームへと戻り、処理肉、手榴弾、弾などを買った。


 時刻は三時を過ぎている。集まる頃には暗くなってるな。


 ラダリオンに処理肉を出してもらい適当にばら蒔いてもらう。


 オレは手榴弾と細いワイヤーを出してブービートラップをゴブリンが登ってきそうなところに仕掛けた。


 火を焚き、処理肉を放り込んで臭いを増してやる。


 三十分くらい処理肉を焼いていると、ゴブリンの気配が動いた。あの山から二キロは離れてるだろうに処理肉を焼いた臭いがわかるんだ。どんな嗅覚してんだ?


「ゴブリンが動きました。あと少ししたら頂上に向かいます」


「全方位から集まってこないか?」


「だからカインゼルさんには山一つ分移動してもらいます」


 アポートポーチとメガネを装備してもらい、水や食料、キャンプ用品を詰めたリュックサックを渡した。


「明日、まだ晴れていたらラザニア村に戻ってください。雨ならそこから動かないでください。アポートポーチを通じて食料は取り寄せられますから」


「危険なのか?」


「危険ではありませんが、危険なものを使うのでカインゼルさんには離れていて欲しいんです」


「毒か?」


「ある意味毒ですね。高いところから低いところに流れる無味無臭の毒です。吸ったら一瞬で死に至るものです。風が吹くと効果はありませんがね」


 皆知ってるドライアイス。人がいない山の中なら迷惑もかからんでしょう。


「ゴブリン駆除はまだまだ続きます。それこそオレが死ぬまでね。オレは逃げられませんが、カインゼルさんは嫌になったらいつ離れても構いませんよ」


 カインゼルさんは請負員。いつでも辞められる立場だ。いつまでもオレに付き合う必要はない。


 だが、ラダリオンはもう運命共同体。オレから離れたところであの大食漢では生きていけない。オレが死んだときがラダリオンも死ぬときだろうよ。


「嫌になったらな。それまではタカトたちに付き合うさ」


 ニヤリと笑い、リュックサックを背負って木々の間に消えていった。まったく、なんの主人公だよって人だぜ。


「ラダリオン。頂上にいくぞ」


「わかった」


 最後の一押しとばかりに火に処理肉を放り込んで頂上へと向かった。


 頂上に着くと太陽は山の向こうに沈んでしまい、LEDランタンをつけて辺りを照らした。


「ラダリオン。周辺の草木を切り倒しててくれ。オレは夕飯の準備をするから」


「わかった」


 ラダリオンも自分の役割を心得ているので文句も言わない。元のサイズに戻ってマチェットを振り回した。


 セフティーホームに戻り、今日はちょっと豪華にビフテキ丼とドデカハンバーグを買ってやった。


 用意したら軽くシャワーを浴び、大盛りカツ丼を食って力をつける。


 VHS−2装備をしてMINIMIのマガジンを両手につかんで外に出た。


「ラダリオン! もういいぞ! 夕飯を食え!」


「わかった!」


 その場からセフティーホームに戻るラダリオン。もっと平らなところで戻りなさいよ。


「ゴブリン、続々と集まってるな」


 足が速いのはもう山の下まできている。あと十分もしないでブービートラップに引っかかるな。


 セフティーホームから弾を持ち出してると、爆発音が轟いた。


「きたか」


 仕掛けた手榴弾が次々と爆発していき、百匹近いゴブリンが駆除された。


 近くで仲間が死んだのにゴブリンに恐れた気配はない。狂ったような気配に染められていた。


「……続々と集まってくるな……」


 もう中腹から下までゴブリンの気配で染められていて判別するのも難しくなっている。迫撃砲があったら撃ち込みたいところだ。


「まあ、高くて買えないんだけど」


 迫撃砲自体も高いなら砲弾も高い。千匹倒してもマイナスになるわ。


 続々集まってくるゴブリンを感じてると、夕飯を終えたラダリオンが出てきた。


「臭い」


 鼻をつまむラダリオン。確かにここまでゴブリンの臭いが流れてくるな。ってことは、風は下から流れてきてるのか。これじゃドライアイスは出せないな。


「ラダリオン。処理肉を周辺に投げてくれ」


 処理肉を土嚢袋に詰め込み、元に戻ったラダリオンに投げ放ってもらった。


 八時くらいになると山を囲むほどのゴブリンが集まった。


「軽く二千匹はいそうだな」


 なんかもう気配で酔いそうだ。


「そろそろか。ラダリオン、やるぞ。絶対、手で触るなよ。ピッケルで放り投げろ」


「うん、わかった」


 オレはセフティーホームに戻り、十キロ塊のドライアイスを買ってダストシュートで外に出していった。


「ドライアイスも三百キロで買うと結構かかるな」


 十キロで三千八百円だから……まあ、十万円以上だ。まったく金のかかる作戦だよ。


 一時間かかって出し、オレも外に出た。


「三百キロじゃ足りないか?」


 セフティーホームじゃ多いかと思ったが、外に出したドライアイスがちょっと少なく見える。五百キロは必要だったか?


「まあ、そのときはそのときだ。ラダリオン。離れた場所からドライアイスに水をかけろ。しゃがんだりするなよ」


 二酸化炭素は重いし、斜面の上から水をかけるから大丈夫だろうが、ドライアイスは扱いを間違えると危険だ。念には念をでやりましょう、だ。


 水鉄砲でドライアイスに水をかけて回った。

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