第94話 支部長ライド

 ──ピローン! 六千匹を突破おめでとー! クジ一回引けま~す!


「この忙しいときにアナウンスすんなや!」


 消火剤が消えてしまい、なんとか山を下りたらダメ女神からのアナウンス。そんな報告求めちゃいねーんだよ!


 P90のマガジンもあと四本。八百発が三十分としないで消費された。もう今さら驚きもないけどな!


 川の近くにもゴブリンはいたが、山にいたゴブリンのような狂った気配はない。臭いに釣られてやってきた感じだ。


「興奮させないほうがいいかもな」


 また集まられるのも面倒だ。エサがなければ自然に引いていくだろうよ。


 確証はないが、そうだと信じて戦略的撤退といこう。オレもだが、ラダリオンたちも疲労困憊だろうからな。


 防護服と防塵マスクを脱ぎ捨てて橋までやってくると、野次馬が集まっており、その中に冒険者風の男たちが何人かいた。


「準冒険者のタカトだ。ギルドマスターからの依頼でゴブリン駆除をしている。ゴブリンが溢れたと支部に連絡してくれ。まだ数百匹のゴブリンがいる。戦えないヤツらは下がれ! 襲われても知らんぞ!」


 野次馬たちに下がれと怒鳴り、また土手に戻った。


 二百メートルくらい進んだらセフティーホームに戻り、P90の装備を外し、VHS−2装備に変更する。


 スポーツ飲料をいっき飲みし、回復薬を一粒飲み込むと、指の痛みが引いてくれた。


 空のマガジンを作業鞄に詰め込み、5.56㎜の弾をバケツに入れる。リュックサックに二リットル入りのスポーツ飲料三本とチョコレートバーを入るだけ入れて背負い、作業鞄とバケツをつかんで外に出た。


 リュックサックを下ろし、地面に座ってマガジンに弾を込める。


 ゴブリンの気配は山へと向かっており、こちらにやってくる気配はない。処理肉をばら蒔かなければこちらに集まってくることもないだろう。


 十三本目に弾込めが終わった頃、ラダリオンたちがやってきた。


「ご苦労様。まずは一息ついてください」


 スポーツ飲料とチョコレートバーをリュックサックから出し、三人に与えた。


「それで、ゴブリンは?」


 落ち着いたらカインゼルさんが尋ねてきた。


「勢いは衰えましたが、今もまだ山に集まってます。これを飲んでください」


 回復薬を一粒ずつ飲ませる。カインゼルさんやラダリオンも指が痛くなってるだろうし、六歳のマルグは疲労困憊だろうからな。


「冒険者がいたのでギルド支部に伝えるようにお願いしました。オレのことが支部に伝わってるなら誰か判断のできる人がやってくるでしょう」


 こなければこちらの判断で逃げさせてもらいます。


「こういうとき、コラウス辺境伯は動かないんですか?」


 兵士は街を守るためにいるとは言ってたが、早期発見早期解決することが街を守ることに繋がるはずだろうに。


「まず動かないだろう。今の辺境伯は王都しか見てないからな」


 田舎にいるからこそ都会に憧れる的な感じか? 


「よくそれで回ってますね。そんなんじゃ荒れても不思議じゃないのに」


「ミシャード様、辺境伯の妹が代理として指揮を取っててくださるからな。そう酷いことにはなってない」


「辺境伯の妹って、ギルドマスターの嫁さんじゃありませんでしたっけ?」


 ゴルグがそんなこと言ってた記憶があるぞ。


「ああ。今のコラウスはその二人で保っているようなものだな」


 それ、素人でもかなりヤバいことになってるってわかるぞ。


「よく反乱とか起こしてませんね」


 フランス人なら革命を起こしてるぞ。って、これ前に言ったな。


「そこは二人が上手くやっているからだろう」


 優秀なせいで気苦労が絶えないタイプだな。辞められない立場の人間は大変だ。ってまあ、オレも辞められない立場だけど!


 三人でマガジンに弾を込めていると、こちらに向かってくる集団に気がついた。


「ギルドマスターが優秀でなによりだ」


 各自、弾入りマガジンをプレートキャリアとベルトのポーチに入れ、こちらへやってくる集団を迎えた。


「冒険者ギルドミスリム支部を任されているライドだ。あんたがタカト──え? カインゼル様!?」


 オレに目を向け、背後にいる二人に視線を動かしてカインゼルさんを見て驚愕するライドさん。知り合いか?


「久しいな、ライド。十年振りか?」


 西洋顔なので東洋人より年上に見えるが、おそらく三十半ばくらいだろう。カインゼルさんが十年振りと言うならライドさんが下っ端時代のときの知り合いだろう。 


「お久しぶりです! なぜカインゼル様がここに? 行方知れずと噂が上がってましたが……」


「今はこのタカトに雇われて一緒にゴブリン駆除をやっているよ」


「……ゴブリン殺しと、ですか……」


 あ、オレのあだ名、ゴブリン殺しで広まってるんだ。ダッセーな。まあ、中二的あだ名をつけられるのも嫌だけどさ。


「ああ。若いが雇い主としては信用がおける。働き以上の報酬とやり甲斐を与えてくれるからな」


 オレとしてはカインゼルさんの下について生き残りたい。オレ、ラインリーダーまでしかなったことないんだからよ。


「あの、まずはゴブリンのことを解決しましょう。ゴブリンが溢れてるのもそうですが、この死体を放置するわけにもいきませんからね」


 のんびり昔話に花を咲かせている場合じゃない。ゴブリンは今も山に集まってるんだからな。


「あ、ああ、そうだな。で、どう言う状況なんだ?」


 支部を任されるだけはあり、すぐに意識を切り替えた。


 すべてを話すと長くなるし、責任追及されるのも嫌なのでかいつまんで説明をした。


「……そうか。まったく、ゴブリンは面倒だ」


「まず近隣の人を集めて死体の処理をお願いします。雨が降ってからだと大変でしょうし。オレらはゴブリンを山に引きつけますんで」


 山がゴブリンで埋め尽くされる前に山の奥に誘導したほうがいいだろう。


「わかった。そうしよう」


「あと、その巨人の子供をお願いします。ラザニア村のゴルグの子です」


 さすがに六歳児にはキツかったんだろう。ラダリオンの膝を枕にして眠っていた。


「ラザニア村のゴルグの子だな。了解した。ラザニア村にも人を走らせよう」


「ありがとうございます」


 二人に視線を向けると、了解とばかりに頷いてくれた。


「粗方片付けたらミスリムの町にいきますんで。では──」


 そう告げて土手を伝わって川下に向かった。 

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